34搭乗希望者が殺到して目を回す一家
国にどのような変化をもたらすのか未来が今からとても楽しみ。
朝になると大きな声で呼ばれた。
「お母様見て! 車体がほぼ完成したわ! あとは魔力圧縮装置を組み込むだけよ!」
ルミナの興奮した声がアランの工房から響いてきた。数ヶ月にわたる試行錯誤の末、ついに車の原型が形になった。
金属と魔導素材が組み合わされた車体は、無駄のない流線型で従来の馬車とは一線を画す未来的なデザイン。
「素晴らしい、想像よりもいいわ」
娘の洗練されたデザインと職人としての技術力に感嘆し、車体を軽量化しつつ耐久性も確保するために夫は新しい合金の開発にも成功していた。
「動力となる魔力圧縮装置も安定して稼働するようになった。実際に公道で試運転を行って、細かな調整を行うだけだ」
アランが自信満々に言い、彼の顔には、これまでの苦労が報われた達成感が浮かぶ。車というものが完成に近づいているという噂は、瞬く間に街中に広まる。
馬の力を借りずに動く乗り物という、前代未聞の存在に大きな興味と期待を抱いているらしかった。
「セレスティーナ様、本当にあの車が動くんですか?馬なしで走るなんて信じられないのよね!」
ふわふわ亭の常連客が半信半疑といった様子で話しかけてきた。
「もうすぐ皆様にお披露目できると思いますよ。国の交通手段に大きな変革をもたらすはずですからね」
微笑んで答えたが一方で、不安の声も聞こえてきた。
「魔導の力で動くなんて危険ではないのかしら?」
「馬車の方がやっぱり安心だわ」
そうした声にルミナは少し顔を曇らせることもあったが、肩を叩いて励ます。
「大丈夫よルミナ。新しい挑戦には必ず賛否両論があるもの。大切なのは私たちが信じる道を貫くこと。乗る乗らないも強制することじゃないから」
アランもルミナに力強く頷く。試運転に向けて最終的な安全確認と調整を徹底。アランは緊急停止装置や周囲に危険を知らせるための魔導の音響装置など、安全に関するあらゆる側面を考慮。
ルミナは車の操作方法を簡潔にまとめた説明書を作成し、誰もが安全に運転できるよう工夫を凝らす。車の初の公道走行の日がやってきた。
街の広場には大勢が集まり、固唾を飲んでその瞬間を待ちわびる。国王陛下の代理としてカイン侯爵も視察に訪れていた。
「皆様、本日は我々が開発いたしました、新たな移動手段魔導車の試運転にお集まりいただき誠にありがとうございます!」
ルミナがはっきりと堂々とした声で、集まった皆に挨拶。横にはセレスティーナが設計を監修し、アランが作り上げた美しい流線型の魔導車が静かに佇む。
「魔導車は皆様の生活に多くの時間と、より大きな自由をもたらすことでしょう! ご覧ください!」
合図と共にアランが運転席に乗り込み、魔導装置を起動させると微かな駆動音と共に、魔導車がゆっくりと動き出す。
「おおおおお!」
どよどよと声が聞こえる。集まった人たちからどよめきと歓声が上がる。魔導車は滑るように広場を走り抜け、速度を上げていく。馬車よりもはるかに速くスムーズに。
「すごい! 本当に動いたぞ!」
「なんて速いんだ!」
子供たちは興奮して跳びはね、大人は驚きと感動の入り混じった表情で動く光景を見つめる。
「はやーいー!」
「ビューン!ビューン!」
魔導車は広場を何周かした後、目の前で静かに停止。瞬間、周りはシーンとなる。誰も彼もが息を呑む。
アランが運転席から降りてくると周りは拍手喝采で迎えられ、夫の顔には疲労の色も見えたが、それ以上に大きな達成感が満ち溢れている。成果があるとやった感も強い。
「セレスティーナ、ルミナ! 大成功だなぁ!」
アランが駆け寄ってきたら目には、熱いものが込み上げる。
「本当にすごい」
心からの感謝を込め、アランとルミナを抱きしめた。多くの人たちの生活を大きく変えようとして、魔導車が国にどのような未来をもたらすのかが目に浮かぶ。
未来が楽しみだと、二人をぎゅーっとした。
*
「お母様ぁ、大変! 魔導車の試乗希望者が、連日、お店の前に列をなしているのー!」
ルミナの慌ただしい声が朝のふわふわ亭に響き渡るのは、初の公道走行が成功して以来、魔導車への関心が爆発的に高まったから。画期的な乗り物に乗りたいと我先にと押し寄せてきた。
「そんなに?でも、まだ試作段階だから、一度に乗れる人数も限られているしねぇ」
店の窓から外の様子を伺えば確かに、普段のふわふわ亭の行列とは比べ物にならないほどの人が集まっている。中には、わざわざ遠方から馬車でやってきたらしい貴族の姿も見受けられた。
「セレスティーナ様、私もぜひ魔導車に乗せていただきたいのですが!」
「この目で馬なしで走る乗り物を見てみたい!」
客たちが口々に試乗を希望してくるし、子供たちは魔導車の模型を手に広場で遊びながら「ブー!ブー!ブー!」と声を上げる。
「申し訳ございません。まだ試作段階でございますので、安全が確認できるまでは極限られた方のみの試乗とさせていただいております」
ルミナは丁寧に対応していたが、声には少し疲労の色が見える。このままでは過労で倒れそう。
「少し休憩して。対応する」




