33魔導車、つまり車も成り行きで作ることになった
「お母様!今日のふわふわ亭のパンケーキ、いつも以上に売れ行きがいいわ! 遊園地帰りのお客様が、お土産に買ってくださるのね!」
ルミナの弾んだ声が朝の店内に響き渡るのは遊園地がオープンして以来、ふわふわ亭はさらなる賑わいを見せているからに他ない。
遊園地で遊び疲れた人が甘いパンケーキと月の雫紅茶で一息つき、楽しかった一日の思い出を語り合う。そんな光景が日常となっていた。
「遊園地がまた新しいお客様を連れてきてくれたってことね」
客の笑顔を眺めながら心からそう思い、アランも遊園地のアトラクションのメンテナンスと、新しいパンケーキの生産ラインの管理で大忙しだったことを思い出す。
日常は以前にも増して穏やかなものに。朝は、夫と淹れたてのコーヒーをゆっくりと味わい、日中は、ルミナが忙しく働く様子をカウンター越しに見守ったり、孫たちと庭で遊んだり。
「おばあちゃま。今日はね、遊園地の月の雫ウォータースライダーで一番上まで行ったの。すごく高かったよ」
孫が興奮気味に私に話しかけてくれる瞳は、遊園地での冒険の興奮でキラキラと輝くままに。
「まあ、そうだったの。すごいじゃない」
成長と遊園地が彼らに与えている喜びを直接聞けて、胸が満たされる。直接的に店の運営や、アトラクションの建設に携わることは少なくなってきた。
こういう会話も家族にとっても、ふわふわ亭と遊園地にとっても欠かせない心の支えとなっている。
時折、ルミナが新しい企画について相談に来たり、アランが技術的な問題で意見を求めてきたりすることもあればこれまでの経験から、ヒントを与えることはあるけれど体力的に難しいのかなと落ち込んでいた。
ある日、王都からの使者がふわふわ亭を訪ねてきたので聞けば、隣国の王家が夢の遊園地に大変興味を示しており、同様の遊園地を建設したいと考えているとのこと。
計画をセレスティーナとアラン、ルミナにぜひ協力してほしいと依頼してきた。
「聞いた?隣国からだって! すごいことよ?こんな遠いところからもなんて」
ルミナは興奮して抱きついてきて、アランも知らせに職人としての新たな挑戦への意欲を燃やし出している。
「セレスティーナ、これは技術と創造性が国を越え、さらに多くのものを作れる機会だよ」
アランの言葉に深く頷く。心には一つ新しい夢が生まれた。夢をさらに広げ、国境を越えて幸福を届けるという壮大な夢が。
「お母様!お隣の国の王女様から、遊園地の件で連絡があったわ! とても乗り気でいらっしゃるみたい!」
ルミナの弾んだ声がふわふわ亭に響き渡った。全ての発端は軽快なソプラノ。遊園地が大成功を収め、噂が隣国にまで広まった結果、同様の遊園地建設の依頼が舞い込んできた。
「まあ、本当?それは素晴らしいこと」
分かち合い、事実に胸が熱くなる。
「でもねぇ、王女様が仰っていたのだけど、隣国の地方から遊園地に来るには馬車では時間がかかりすぎるって。もっと早く移動できる方法はないかって」
少し困ったように言い出す。馬車は便利だが長距離移動には限界があるのだ。交通手段は馬車が主流。遠方への移動は時間と労力がかかるのが課題。
「そう、なのよね。馬車では、確かに限界があるから」
考え込んでいると、ふと故郷の記憶が鮮やかに蘇る。移動手段があるではないか。馬の力に頼らず自らの動力で素早く移動する、車の姿。
「そうだルミナ! アラン! 車を作ってみたら?」
思わず声を上げて立ち上がると、アランとルミナは目を丸くして見つめる。
「くる、ま?どんなものなのですか、お母様?」
興味津々といった様子で尋ねるのはいつものこと。
「車、く、る、ま。馬の代わりに魔導の力を使って動く乗り物! 馬車よりもずっと速く移動できて、一度にたくさんの人を乗せることもできてね」
説明するとアランは腕を組み、真剣な顔で考え始めた。
「ほう……馬の力に頼らず、自らの動力で動く乗り物か。交通手段に革命をもたらすかもしれないなぁ」
瞳にはすでに職人としての探求心があり、再び家族会議を開く。車の開発という、前代未聞のプロジェクトについて話し合うために。
「まず問題なのはどうやって車を動かすか。エンジンというものを使っていたけれど、魔導の力をどう応用するか」
ルミナがすぐにアイデアをさらりと出す。母の陶酔を受け取っているようで、嬉しい。
「私が研究している魔力圧縮装置を使えば、小さな魔石からでも強力な魔力を引き出せるし、それを動力にできない?」
アランが目を輝かせ。
「面白い! 金属加工の技術と組み合わせれば、軽量で頑丈な車体を開発できる」
すでに頭の中で車の骨格や、動力を伝える仕組みを設計しているようだ。イラストに書いて、見せたけどあまり絵は上手くないから伝わってよかった。
職人としての技術力とルミナの魔導に関する知識が融合すれば、きっと不可能はないと思う。
「安全に走行させるための仕組みも重要。速度を調整したり、止まったりするための装置、他の乗り物や歩行者との衝突を防ぐための工夫も必要になる」
セレスティーナが言うとルミナは真剣な顔で頷く。
「遊園地のアトラクション開発で培った安全対策のノウハウを応用できるかもしれない」
車の開発プロジェクトが本格的に始まり、アランの工房は連日、様々な金属の加工音と魔導具の実験音で賑わう。ルミナは魔力圧縮装置の改良と車のデザインに没頭。
「お父様、車輪の素材はもっと摩擦に強いものにしないと、すぐにすり減ってしまう」
「希少な硬化鉱石を使ってみるか?」
時には試作した車体が思うように動かなかったり、魔力圧縮装置が不安定になったりすることもあったが、諦めないのがうちの強み。一つ一つの課題を知恵と力を合わせて解決できる。
「車が完成したら、みんなもっと遠くまでもっと早く行けるようになるのよ。いろんなところにね」
ルミナが未来の夢を語る。
「隣国の交通手段に大きな変革をもたらすはず。たくさんの人が遊園地に遊びに来てくれるようになる。国も整備されていくかもしれない」
新たな挑戦への期待と、未来を切り開くわくわくで満たされていた。




