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03最愛の娘の理不尽な断罪。母キレる

 王子たちが地下牢に送られ、学園中が話題で持ちきりになった後も生活は驚くほど穏やかだった。熱い視線を送る者はおらず、周囲は遠巻きに見守るだけ。


 ホッとする。これこそ求めていた平穏だ。リーゼロッテを遠ざけ、攻略対象たちを断罪することでようやくゲームの呪縛から解放されたのだ。


「セレスティーナ様、本日もお美しいですね」


 侍女の言葉も以前のようなうわべだけの称賛ではなく、心からのものだと感じられた。気持ちの問題だけど。


 誰かのシナリオに振り回される必要はない。これからは人生を思うままに生きたい。

 穏やかな日々の中で、とある人物と出会った。学園の図書館で働く司書補佐のアラン。


 地味で目立たない存在だが、いつも静かに本を整理し、訪れる生徒たちに的確なアドバイスを与えていた。

 これまで王子たちに囲まれてきた自分にとって、アランの存在は新鮮だ。身分や家柄といったものに囚われず、ただ一人の人間として接してくれた。


「セレスティーナ様は、いつも難しい本をお読みになりますね。もしよろしければ、こちらの書物もご参考になるかと」


 アランは、興味を持つ分野の本をさりげなく薦めてくれた。知識は深く、困っていると、いつも的確な答えを導き出してくれる。図書館の片隅で優しい時間と言葉を交わすようになった。


 ゲームのキャラクターたちの誰よりも、アランとの会話は心地よく話に真剣に耳を傾け、考えや感情を尊重してくれた。楽しい。


 ある日、アランは。


「あなたのように聡明で心の優しい方にお仕えしたいと願っております」


 アランの言葉に驚く。彼は何も知らないのに。自身を見て必要としてくれたのだ。

 王子や攻略対象たちとの逆ハーレム行為に辟易していた。意思とは関係なく勝手に作り上げられた関係だったから。皆、外側ばかり見て持ち上げるばかり。


 アランは違う。彼との関係は自我の意思で築き上げてきたもの。手を握り微笑んだ。


「私も共に人生を歩みたいと願っています」


 家族にアランとの結婚を申し出た。最初は身分の違いに反対されたがこれまでの評判を覆し、品行方正な令嬢として学園で高い評価を得ていたこと。強い決意に家族は最終的に折れた。優等生でよかった瞬間。


 こうして自分はゲームのシナリオや展開とは全く異なる、司書補佐のアランと結婚した。悪役令嬢として追放されることもなく、ヒロインとして逆ハーレムに巻き込まれることもなく。王子たちを逆に断罪することもなくなった。ハッピーエンドで終われたのかは、まだわからないけれど。


 自分自身の意思で選んだ平穏な人生を歩んでいけると微笑んだ。このままちょっとずつ周りを見ていけば安定した生活を維持できることを知り、拳を握った。


 *


 セレスティーナ・ロドウェイは、学生時代に自分が悪役令嬢として断罪される運命から逃れるため、様々な策略を巡らせた。


 この世界でいうヒロインを隣国へ派遣社員として送り出し、王子たちを地下牢送りにしたあの事件から数年。

 愛する夫のアランと結婚し娘のルミナを授かっていた。安産だったことも覚えている。


 ルミナはセレスティーナに似て聡明で、アランの優しさを兼ね備えた自慢の娘。ほのぼの、スローライフは最高だ。


 娘が学園に入る年齢になった頃に時代は進む。成長するにつれて、娘周りで奇妙な事件が、頻発するようになった。


「ルミナ様が学園の花壇を荒らしたんですって!」


「あの子が殿下の飼っている小鳥を逃がしたって噂よ!」


 噂は瞬く間に広がり、娘のルミナは学園の不良令嬢として仕立て上げられていった。身に覚えのある言葉の数々。


「身に覚えがありすぎる」


 セレスティーナは知っていた。ルミナはそんなことをする子ではない。全ては何者かによる陰謀だとハッキリ確信。

 ゲームのシナリオを捻じ曲げたように、国の貴族社会は一度レッテルを貼られた者を簡単には許さない。心が狭いを通り越している。異常だ。あまりにも異常。


「ルミナに何か起きるかもしれない。準備しておかないと。あんなことが起こってから慌てないために。しっかり計画を、下準備をしないと」


 着々と爪を研ぐ。そうして過ごしていれば。


 愛しい子であるルミナは学園の卒業パーティーで、ルイス王子……あの時、地下牢送りにした王子とは別人のルイス王子は彼のいとこだからそっくりなだけ、な相手によって断罪されたのだ。


「聞け!ルミナ・ロドウェイ! 貴様の罪状は数々の陰湿な嫌がらせ、王族への不敬である! よって貴様を我が国から追放する!」


 傲慢な声が耳に触るとルミナは涙を流しながらも毅然とした態度でその場に立っていた。彼女の白いパール付きのドレスには、誰かに故意にかけられた絵の具が飛び散っている。怒りが突破していく、噴火のように。


「わたくしは何もしておりません……!」


 ルミナの訴えは誰にも届かなかった。光景を見ていることしかできなかったのが、悔しくて悔しくて許せない。

 自分が悪役令嬢を演じた時とはわけが違う。今回は完全に無実の罪。策略もなにもない。

 最愛の娘が同じように、いや、セレスティーナ以上に理不尽な形で断罪される。

 国の全てが憎かった。

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