02悪役令嬢から逆ハーレムのヒロインになってしまったなんて強制力が酷すぎる
なぜ、こんなことになったのだろう?ただルートから逃れたかっただけなのに。
夜会の日。本来ならリーゼロッテが王子にエスコートされるはずの場所に、アレクサンダー王子と並んで立っていた。やめてほしいのですがとやんわり断ったけど腕は腰に優しく添えられている。気持ち悪い。
「セレスティーナ嬢。君こそ国の未来を共に築く、私の隣にふさわしい」
王子の真剣な眼差しに何も言えないというか、言いたくない。周りには、ディークス騎士団長子息やルーク魔法使いの姿も見えた。彼らもまた、熱い視線を送っている。鳥肌が立つ。
どうしてこうなった?
リーゼロッテを排除した結果、悪役令嬢から逆ハーレムのヒロインになってしまったなんて。強制力が酷すぎる。
これはゲームのシナリオには存在しない、全く新しい展開。同時に王子たちの真剣な好意に、戸惑いながらもどうしたものかと逃げ場を探す。
なんとかしなくては。ゲーム知識をフル活用して、リーゼロッテを遠くの隣国へ派遣社員として送り出し、平穏な学園生活を手に入れた……はずだったのに。
「セレスティーナ様、ご存知ですか?隣国から、リーゼロッテ様の驚くべき噂が届いていますわ!」
ある日、侍女が興奮した様子で駆け込んできた。嫌な予感がする。
完璧な計画は、一体どうなったというのだ。噂によると隣国に渡ったリーゼロッテは、持ち前の人の好さと少しドジな性格であっという間に周囲の注目を集めたらしい。
よりにもよって隣国の第二王子。若き騎士団長子息。国の天才魔術師までもが、彼女に夢中になっているというではないか!
「まさか……隣国でまで逆ハーレムを築くなんて」
思わず叫んでしまった。ゲームのシナリオにはない全くの想定外。しかも、隣国の王子がリーゼロッテに夢中になり、婚約者がいる身でありながら宣ったらしい。
公衆の面前で「リーゼロッテ嬢との結婚を望む!」と宣言した、というのだ。それをさせたくなくて遠ざけたのに。
ゲームで仮初の経験をした断罪イベントが隣国で、リーゼロッテを巻き込んで起きている。このままではリーゼロッテは隣国で王子の婚約者を誑かした罪、なんかで断罪されてしまう。
責任は我が家にまで及ぶかもしれない。派遣したのは我が家だから。
「なんてことをしてくれたの、リーゼロッテ」
怒りで机を叩いた。怒っていても仕方ない。状況を打開しなければ手に入れた平穏な生活がまたもや崩れ去ってしまう。
すぐに父に連絡を取り、隣国にいるリーゼロッテの派遣契約解除を依頼。当然だ。
「父上、リーゼロッテ嬢は、当初の目的であった文化交流の役目を十分に果たしました。これ以上、彼女を留めておくことは、隣国との外交問題に発展しかねません!」
父は鬼気迫る表情に圧倒されながらも言葉に従ってくれた。
「わかった」
リーゼロッテの家にも外交上の理由で至急帰国が必要である旨を伝え、異論を挟む間を与えない。
数日後、隣国からリーゼロッテの帰国が決定したという連絡が入った。心底ホッ。これで隣国での断罪イベントは回避できるだろう。ヤキモキする。
なんとか、リーゼロッテが帰国した日。彼女の馬車が到着するのを遠くから見ていた。以前よりもどこか大人びて、少しだけ疲れたような顔をしている。
隣国での逆ハーレム生活も、案外大変だったのかもしれない。リーゼロッテはこちらと再会することはないだろう。
王子たちの過剰な好意から身を守ることに集中する。リーゼロッテは今度こそ平穏な生活を送れることを祈ろう。
彼女がまたどこかで逆ハーレムを築かない限りは、だが。落ち着いて隣国から呼び戻し、シナリオは完璧だと思っていた。
学園は平穏を取り戻し、王子たちはそれぞれ以前と変わらず過剰な好意を向けているけれど。相変わらずさぶいぼが。
「セレスティーナ嬢。今日の君も太陽のように輝いているね」
アレクサンダー王子は相変わらず、褒め称え。ディークス騎士団長子息は護衛を申し出て。ルーク魔法使いは新しい研究の成果を一番に報告しに来た。
望んでない逆ハーレムの平穏も長くは続かなかった。本当に望んでないけど。
数日後、各攻略対象の実家から緊急の連絡が入った。
「王子殿下が公衆の面前でセレスティーナ嬢への一方的な求婚を宣言されたと!」
「騎士団長子息が自身の身分を顧みず、セレスティーナ嬢への忠誠を誓ったと!?」
「魔法使いが研究を放棄し、セレスティーナ嬢の傍で過ごすことを望んだと!」
それぞれの家から届いた報告はどれも信じられない内容。ヒロイン役になったことで彼らはゲームのシナリオとは全く違う形で、各々の婚約者や家の立場を危うくする行動に出ていたのだ。
リーゼロッテが隣国でやったことと、全く同じではないか。 まさに断罪イベントが今度は攻略対象たちに降りかかっていたのだ。真っ青になった。リーゼロッテを排除したことで、身は安泰だと思っていたのに。王子たちが断罪される側になるなんて。
そんな子息達は各当主達に即処理される。各々の家は彼らの独断専行と家の名誉を傷つけた罪に対し、厳しい処分を下した。
それはありがたいと安堵。まず、アレクサンダー王子は、王位継承権を完全に剥奪され王族の品位を汚した罪で、王城の地下牢へと送られることに。
ディークス騎士隊員は騎士団を解雇され、騎士道精神に反する不義の罪で辺境の牢屋へと送致。
ルーク魔法使いは魔法学院を追放され研究者としての道徳を欠いた、として魔術師ギルドの地下にある監禁施設へ送られた。彼らはそれぞれの家から処分されるとのこと。
数ヶ月後には、もう面倒を見切れないからとそちらで処分してくれと言わんばかりに厄介者、として送り届けられてきたのだ。
基本的に王家が貴族を裁くので、そうなったのだろう。彼らを預かる場所として指定されたのが、まさかまさかの……王城の地下牢。
呆然と地下牢へと続く階段を下りていた。
薄暗く湿った牢屋の奥で熱烈な好意を寄せていた王子、騎士、魔法使いがそれぞれ別の牢に入れられていた。共謀されないようにと。
彼らの顔は青ざめ、目には絶望の色が浮かんでいる。
「セレスティーナ嬢……」
アレクサンダー王子が縋るような目で見た。
「君は、こんなところで何をしているんだ……」
牢の前で立ち止まった。
「何を、ではありませんわ。殿下方も各々のご実家からこちらで処分するよう、お預けになったので私が様子を見に来たのです」
彼らは絶句した。まさか、自分が好意を寄せていた相手が令嬢ではなく断罪する側に回るとは思ってもいなかっただろう。静かに言った。
「あなた方には自分の置かれた立場と、これまで行ってきたことの責任をしっかりと考えていただきたいものです」
黙って言葉を聞いていた。牢屋を慰問する断罪執行人のような立ち位置になるなんて。ヒロインを排除したことで、まさかの逆ハーレムを築いてしまったし。
その結果、逆ハーレムの面々が揃って断罪されるというゲームには存在しない、究極のバッドエンドを作り出してしまったのだ。




