01悪役令嬢の疫病神ヒロイン排除計画
セレスティーナ・ロドウェイはこの世界にとっての悪役令嬢らしい。同時にこの世界が乙女ゲーム聖女の輝きの中だということを知っている転生した身であるので言い切れた。
「なぜ、よりにもよって」
運命はゲームの主人公である侯爵令嬢のリーゼロッテをいじめ抜いた挙句、最終的に王子から「婚約破棄!」と叫ばれて国外追放されること。冗談じゃない。
せっかく憧れの貴族に転生できたのに、そんなバッドエンドはまっぴらごめんだ。
「リーゼロッテ……あの疫病神さえいなければ!」
机に突っ伏して唸る。リーゼロッテは行く先々でトラブルに巻き込まれ、それを丸っと王子や騎士団長子息、魔法使いといった攻略対象たちが助け出すこと。
よくあるタイプのものだ。好感度を上げていく、というイベント体質の持ち主。
つまり、彼女がいるだけで周りは常に騒がしくなり、最終的には悪役令嬢として断罪されるシナリオになってしまう。かも、しれない。頭を抱える。
「こうなったら、シナリオ介入以前に、物理的に排除するしかない」
もちろん、殺すなんて物騒なことはしない。考えたのはもっと平和的で、かつ確実な方法。完璧な保護と派遣だ。
すぐに、リーゼロッテがまだ学園に入学する前のタイミングで行動を開始。ぼーっとしている場合じゃない。急がないと。
「お父様、お願いが」
執務室へ向かう。まず、父に頼み込んでリーゼロッテの生家である侯爵家との交流を深め、恩を着せるように天使の活動のように、リーゼロッテに接する。そうしてすぐに接触を測りに行く。
「まあ、リーゼロッテ様! なんて可愛らしいのでしょう!」
「わたくしの屋敷に遊びにいらっしゃいませんか?素敵な絵本がたくさんございますわ」
見つけては声がけしていく。リーゼロッテは予想通り人の好い、純粋な少女。甘い言葉にコロリと騙されてすぐになついたが、流石にちょっとチョロ過ぎるような。
ある日、リーゼロッテにとっておきの提案を。そして、自分に救いになるものを。
「リーゼロッテ様。わたくし、最近知ったのですが。遠い隣国にあなた様のような素晴らしい感性を持つ方を求めている機関がありまして。そちらで文化交流特命派遣社員として知識を広め、経験を積んでみませんか?」
言ってはいるが、もちろんそんな機関は存在しない。裏で手を回し、架空の役職を作って誘うための最高の舞台を用意しただけ。リーゼロッテの生家は侯爵家とはいえ経済的にあまり裕福ではないから。
提示した隣国での高待遇と貴重な経験という話に、侯爵夫妻は飛びついた。だから、なぜ疑って掛からないの?
「なんと! それは娘にとってまたとない機会でございます!」
こうしてリーゼロッテは学園入学を前に完璧な計画によって、意気揚々と頷いてくれる。
「リーゼロッテ、そんなに簡単に行くなんて」
遠い隣国へと旅立つことになった。リーゼロッテが隣国へ出発した日、屋敷の窓から一人乗った馬車が小さくなっていくのを眺める。
「ふふふ……これで、平穏な学園生活は安泰」
リーゼロッテがいなければ、王子たちが困ることもない。いなければいいのだ。トラブルが発生することもないし、悪役令嬢として断罪されることもない。そうすれば計画通り、学園生活は驚くほど穏やかに過ぎていく。
ゲームのイベントは発生せず、王子たちはそれぞれの趣味に没頭し、騎士団長子息は真面目に訓練に励み。魔法使いは研究に没頭していた。順調。
「あら、セレスティーナ様は今日も素敵ですわね」
「本当に美しいわ」
周りの令嬢たちも以前は陰で高飛車と噂していたが、今では素直に称賛してくれる。悪役令嬢としての役目を果たさず、ただ品行方正に振る舞うだけで学園の人気者になっていた。
完璧だ。全てが思い通りに進んでいる。そう、信じていた。その時までは。
まさか別の方向から、シナリオルートが大きく狂い始めるなんて思いもしなかった。甘かったのか、思っていたよりもうまくいかなくなったのか?いつからだろう。
リーゼロッテを隣国へ送った後、学園生活はまさに完璧。トラブルは一切なく。品行方正な令嬢として先生方からも、生徒たちからも絶賛。
全てが予定調和。王子や攻略対象の皆もそれぞれの道を、順調に進んでいるように見えた。
「セレスティーナ様は、いつもお綺麗で、お優しいわね」
そんな言葉が、耳に心地よく響く。ああ、これが悪役令嬢にならずに済んだ世界……なんて、なんて素晴らしい。
そんな完璧なはずのシナリオ。少しずつ異変が起き始めたのは、学園祭の準備が始まった頃。
本来、学園祭では、ヒロインのリーゼロッテがトラブルに巻き込まれ、王子たちが助けることで親交を深めるはずで。リーゼロッテがいない今、そんなイベントは起こりませんが、と言わんばかり。
代わりに、王子であるアレクサンダーは、なぜか相談を持ちかけるようになった。
「セレスティーナ嬢。今年の学園祭の出し物で、少し悩んでいることがあるのだが、君の意見を聞かせてもらえないだろうか?」
王子は、真剣な顔で見つめて、内心「なんで私が?」と思いながらも、完璧な令嬢を演じるために、彼にアドバイスを送る。王族の彼に意見を求められたのなら、何も言わないということは無理。
少しでも言わないと、顰蹙を買うかもしれないし。
王子は意見を熱心に聞き入れ、才能を称賛する。なにそれ、と呟く。簡単に褒めすぎるくらい。
「君は、本当に聡明だな。私の婚約者が君であったなら、どれほど心強いことか……はぁ」
「え、なに?」
王子の言葉にゾッとした。いやいや殿下、貴方の婚約者はゲームでは私なんですよ、なんて。自分を追放するシナリオだったから避けたのに。
なのに、なぜそんな目で見るのだろう?王子の変化と王子が異変なだけではなかったらしい。
本来はリーゼロッテに好意を抱くはずだった騎士団長子息のディークス。学園の秩序を守るために、生徒指導を手伝っていた際、公正な判断力と行動力に感銘を受けたのか騎士道精神を褒め称えるようになった。はい?となるわけで。
「セレスティーナ様は令嬢の鑑です! 私が守るべきはあなた様のような高潔な御方だ」
守られる気はないのに。天才魔法使いのルークもたまたま彼の研究室に、忘れ物を届けに行った際に読んでいる魔法書に興味を示し「魔法の才能がある」と褒めそやし、研究室に招き入れる。
この本はレンタルだけど?あと、天才なら忘れ物もなくしてほしい。
「君の理解力は素晴らしい。君と一緒ならもっと素晴らしい研究ができるだろう」
研究させようとしないでほしい。皆が皆、目を指すような悪役な令嬢にならない平穏な生活とはかけ離れた、過剰な好意を向けてくる。焦ったが冷静にならないと。
リーゼロッテを排除すれば、シナリオは平穏になるはずだったのに。なぜか王子たちから熱烈にアプローチされるヒロイン役に祭り上げられている。これでは追放される代わりに鳥籠の中だ。焦りが募る。
リーゼロッテを送り出した隣国から、文化交流特命派遣社員が帰国する際のこと。本来、ヒロインが体験するはずだった断罪イベントが今度は降りかかるのではないか、とさえ思い始めた。




