28セレスティーナ・レヴィア殿。今すぐ、私に会っていただきたいことがあります。事件についてお伝えしたいことがございますの
ルミナがカイン侯爵に電話で連絡を取り、古い手紙について尋ねてくれると、カインはルミナの言葉に驚きを隠せない様子だった。
「お母様!カインがね、手紙のこと知っているみたい! 昔王宮の書庫で、ベルンハルト侯爵家と盗難事件のあった屋敷の古い家系に関する、秘密の書簡について書かれた文献を読んだことがあるって!」
ルミナは興奮した声で報告。
「秘密の書簡……!そうだったのね!」
推理は確信へと変わる。
手紙は古い手紙ではなかったが、二つの侯爵家に関わる重要な秘密を記した秘密の書簡だったのだ。
「カインが言うには秘密の書簡は、両家にとって決して表に出してはいけないような、過去の過ちに関わるものらしいわ」
ルミナの言葉に胸は高鳴る。核心が今、目の前に現れようとしている。
「感謝を伝えてちょうだい。これで、真相に一歩近づいたみたい」
久しぶりに味わう、謎を解き明かすための高揚感で満たされて平穏な日常の中で、もう一度好奇心と謎を解き明かす能力を試す機会を得た。
「カインが調べてくれた! 秘密の書簡は、およそ百年前のものらしくて。両家の祖先が、土地の権利を巡って争った際のものだっていう話なの」
ルミナが王宮の書庫から得た新たな情報を興奮気味に教えてくる。ふわふわ亭が閉まった後、厨房の奥で密かに情報を整理。
「土地の権利……それが、なぜ今になって盗まれる必要が?」
資料を広げ、頭の中でパズルを組み立てていく。土地の争いであればなぜわざわざ秘密とされ、手紙だけが盗まれたのか?
「カインも言っていたけれど土地は、今はもう価値のない痩せた土地になってて。でも、昔は特別な資源が採れたらしいって」
ハッとなる。特別な資源。それが今では価値がないとされている?
何かが繋がるような。決定的なピースが見つからない。
「特別な資源が何だったのか、それがなぜ今は価値がないとされているのか……それが鍵を握っているかも」
探求心はますます燃え上がる。翌日、アランを連れて再び盗難事件のあった屋敷の裏手へ足を運ぶ。アランは以前気づいた珍しいハーブの生育場所を細かく調べてくれた。
「やはりこのハーブは誰かが意図的に植えたものだ。しかも、まだ若い株。ここ最近になって植えられたものだろうね」
アランの言葉に推理は確信へと変わる。ハーブは犯人がベルンハルト侯爵の関与を示すために、意図的に残したサインだったことになるけれど。なぜ?
「これは……犯人はベルンハルト侯爵を罠にはめようとしているのか、それとも侯爵に何かを伝えようとしているのか……ふふ」
頭の中で複数の可能性を巡らせ、さらに詳しく足跡を辿っていくと屋敷の裏手から少し離れた場所に、微かにだが別の足跡が残されていることに気づく。
以前見た無造作な足跡とは異なり、より慎重にプロの人間がつけたような巧妙に隠された足跡。この事件にはもう一人、あるいは別の勢力が関わっていると思われる。
ベルンハルト侯爵はもしかしたら、利用されているのかもしれないわ……と。推理は複雑な様相を呈し事件は盗難事件ではない。
深いところで、誰かの思惑が絡み合っている。意外な人物との再会があったのはその後すぐ。
ベルンハルト侯爵家と盗難事件のあった屋敷の古い家系の特別な資源について、さらに深く調べていく。アランは古い地図や文献を引っ張り出し、土地の歴史を徹底的に洗い出してくれる。
とても助かっていた。その中で驚くべき事実が判明。特別な資源とは、魔導の力を増幅させる希少な鉱石のことだったと知る。
百年前の大規模な地殻変動により、鉱石は枯渇し、土地の価値も失われていた、とされている。
つまり。
「待って……枯渇したとされていた鉱石が、もし今になって再び採掘可能になったとしたら……?」
アランとルミナは息をのむ。事実なら手紙は鉱石の採掘権に関する重要な証拠となり、現在の土地の価値を巡る争いが再燃する可能性があるわけだ。
直後、店に一本の電話がかかってきた。発信元は意外にも以前一度だけ店を訪れた、セシリア公爵令嬢その人。
「セレスティーナ・レヴィア殿。今すぐ、私に会っていただきたいことがあります。事件についてお伝えしたいことがございますの」
セシリアの声はどこか切羽詰まっているようで彼女が、事件に深く関わっていることは明らか。
言葉の裏にはこちらにしか聞こえない、助けを求めるような響きがあった。急いで向かう。
こういう時、明日などにすると相手がいなくなってるパターンは五億回見たので知っている。
「セレスティーナ様、来てくださって本当に感謝いたしますわ」
セシリア公爵令嬢は顔を見るなり、憔悴しきった表情で言う。冷ややかな美しさは鳴りを潜め、どこか怯えているようにも見える。彼女の私邸の一室で、人目を避けるようにして会う。
「セシリア様、一体何があったのですか?お話いただけますか?」
落ち着いた声で促す。助けを求めている事実が好奇心をさらに刺激してしまう。
「はい。実は先日盗まれた古い手紙のことなのですが、あれは、ベルンハルト侯爵家がわたくしの実家であるロゼリア公爵家を陥れるための」
セシリアの言葉に息を飲み込む。盗難事件ではなかったらしい。
「ベルンハルト侯爵は百年前に枯渇したとされていた、魔導鉱石の採掘権を巡って、わたくしの祖先と争っていたとか。古い手紙は採掘権に関する、ベルンハルト侯爵家にとって都合の悪い真実が書かれたものなのです」
セシリアは震える声で告白。ルミナ達が調べてくれた情報と一致する。が、そこにはさらに衝撃的な事実が隠されていた。
「ベルンハルト侯爵は手紙が、街の博物館に寄贈されることを知っていたので、手紙が公になれば自分たちの祖先の不正な土地取引が明るみに出てしまうことを恐れて、あのような真似を」
彼女の言葉に理解が及ぶ。ベルンハルト侯爵は自分たちの家の不名誉な歴史を隠蔽するために、手紙を盗ませた。珍しいハーブは彼が犯人であると示唆するための、偽の痕跡。
「なぜ、わざわざそんな痕跡を残したのですか?誰かに気づいてほしいかのように。普通は気づかれない変化ですが」
尋ねると、セシリアはさらに声を震わせる。
「それは。ベルンハルト侯爵は手紙を盗ませた後、罪をわたくしに擦り付けようとしていたのです! 家紋に使われているハーブを犯行現場に残すことで」
告白は予想をはるかに超えるもので、彼女は事件の被害者ではなく巧妙に仕組まれた罠にはめられそうになっていた。罠に気づき、助けを求めてきたという経緯になる。
「わ、わたくしはベルンハルト侯爵の恐ろしい企みに気づき、何とか阻止したいと考えました。わたくし一人ではどうすることもできず。その時、貴女様がふわふわ亭で様々な常識外れなことを成し遂げていらっしゃると聞き、もしかしたら……と。勝手なことばかりなのですが」
セシリアは涙ながらに助けを求める瞳には、高慢さはなくただただ縋る。
「セシリア様ご安心ください。私が必ず真実を明らかにします」
迷うことなく答えた。陥れようとした相手であるセシリアを助ける。過去からは想像もできない行動。今の自分はシナリオに縛られる存在ではなくなったのだ。
目の前の困っている人間を見過ごすことができなかったし。複雑に絡み合った謎を己の手で解き明かしたいという、強い衝動に駆られる。
「大丈夫かしら?私ももちろんお手伝いするわ!」
ついてきていたルミナが決断を察したかのように、力強く隣に立ってくれた。
「私も君の力になろう、セレスティーナ。侯爵を相手にするとなると慎重に、大胆に進める必要がある」
アランもいつもの落ち着いた声で、支えてくれると告げ、高鳴る。国の貴族社会に根ざした、深い闇と不正を暴くための、大きな挑戦となる。
セシリア公爵令嬢の告白により、事件の全貌が明らかになった。




