27全部ドラマの受け売りよ
古い手紙、特徴的なハーブ、過去の人間関係。雷が落ちた。
「ありがとうアラン。これで、少しずつ真相に近づけるかもしれない」
ミステリーに挑む喜び。穏やかな日常の中で好奇心と、謎を解き明かす能力を試してみたくなっていた。ドラマの受け売りを。
「お母様、本当に侯爵家を訪ねるの?何か危険なことにならないかしら。心配よ。あと狡い」
ルミナが心配そうな顔で見上げてくるのを感じる。可愛い。
情報によると盗まれた手紙の持ち主の屋敷と、ハーブが家紋に使われている貴族の家系には何らかの繋がりがあるようで。ドラマに頼った推理では繋がりが、事件の鍵を握っていると。
「大丈夫よ、ご挨拶に伺うだけ。パンケーキを差し入れに持っていけば、警戒されることもないしね」
焼き立ての陽光パンケーキを丁寧に包みながら、微笑む。狡いとはなかなかに野次馬な根性である。
アランが運転する馬車で貴族の屋敷へと向かう。令嬢として身を置いていた世界。その場所へ今、ふわふわ亭の店主として、足を踏み入れようとしていた。
屋敷の門をくぐり、応接室に通されると現れたのは四十代くらいの厳格な雰囲気の老紳士。彼こそがハーブを家紋とする貴族の当主、ベルンハルト侯爵。
彼は顔を見るなり、驚いたように目を見開く。
「これはこれは、セレスティーナ・レヴィア殿ではありませんか。貴女がこのような店を営んでいらっしゃるとは」
ベルンハルト侯爵は立場を知っているようで彼の視線は、差し出したパンケーキの箱から顔へとゆっくりと移る。目は探るような懐かしむような色を帯びている。
「ご無沙汰しておりますベルンハルト侯爵。今はふわふわ亭というパンケーキのお店を営んでおります。本日は、ご挨拶とささやかなお土産をと思いまして」
淑女として毅然とした態度で挨拶。
「ほう。パンケーキ、ですか。面白い。貴女がなぜこのような辺鄙な私邸に?貴女の間には特に接点などなかったはずですがね」
訪ねてきた真意を探っているようで刺激しないよう、慎重に言葉を選ぶ。追い出されでもしたらなにも解決しなくなる。
「商売をさせていただいている者として、ご挨拶に伺った次第でございます。それに最近、街で少し気になることがございまして」
遠回しに盗難事件のことに触れる。すると、侯爵の表情がわずかに硬くなったのを見逃さない。動揺だ。
「気になること、とは?」
侯爵の声に微かな緊張が走り確信した。盗難事件について何かを知っている。
「街で古い手紙が盗まれるという事件があったと新聞で読みました。手紙が盗まれた屋敷は侯爵家と昔、何らかの縁があったと聞いております」
侯爵は大きく目を見開き、動揺を隠そうとすぐに視線を逸らす。
「それは関係のないことだ。警察が捜査していることだろう」
侯爵の言葉は明らかに不自然。関係がないという割には妙に動揺している。
「左様でございますか。手紙が盗まれた場所の近くで、侯爵家の家紋にも使われている珍しいハーブを見かけまして。もしかしたら、何か関係があるのではないかと素人考えで申し上げてしまいましたわね」
告げると侯爵は明らかに顔色を変えた。彼の瞳には一瞬、深い動揺と焦りの色が浮かぶ。
「貴女は一体、何を調べているのだ?関係のないことに深入りすべきではない。女性がそのように」
侯爵の声には警告の色が。言葉の中に事件の真相へと繋がる手応え。侯爵家が事件に深く関わっている。
手紙には彼らが隠したい、重要な秘密が隠されている。小さなスパイスは眠っていた探求心を、再び呼び覚していく。
セレスティーナはベルンハルト侯爵邸からの帰り道、興奮と確信で満たされていた。侯爵の動揺は彼が事件に関与している何よりの証拠。古い手紙には侯爵家が隠したい秘密が隠されていると。
「アラン、侯爵の様子からして彼が事件に絡んでいるのは間違いないわ。手紙が秘密の鍵を握っている」
馬車を運転するアランに興奮気味に話す。
「でもね。貴族の秘密に踏み込むのは危険ではないのかい?君はもう社交界に生きる令嬢ではないのだから、危ない橋を渡るべきじゃない」
心配そうに言う。彼の言葉はもっともで。それでも、知りたいと止めることができない。ダメなのだけど。
「大丈夫よ、アラン。街の小さな謎を解き明かしたい、私の個人的な欲求。深入りはしない」
アランは言葉を聞く。一度決めたら、決して諦めないことを知っている。
「分かった。君がそこまで言うなら、協力しよう。危険なことには絶対に関わらないでくれ」
感謝した。協力があればどんな困難な謎も解き明かせる。百人力。
「お母様、今日のパンケーキはいつもより少しだけ甘さが控えめね」
翌朝、ふわふわ亭の厨房でルミナが言う。
事件のことでいっぱいで、いつもの繊細な味覚が鈍っていたのかもしれない。
「そうかしら?ごめんなさいルミナ。実はね昨日、ベルンハルト侯爵の屋敷に行った時なんだけど」
交わした会話、推理を打ち明けるとルミナは真剣な表情で耳を傾ける。
「ベルンハルト侯爵がそんな反応を。何か裏がありそうね。根掘り葉掘り聞く前に話してもらえてよかった」
しばらく考え込んでやがて、ハッとしたように顔を上げる。
「古い手紙のことなんだけど、昔どこかでその話を聞いたことがあるような気がする。カインが書庫で古い文献を調べていた時に、何か言っていたような言ってなかったような〜?」
心臓が大きく跳ねる。カインの家である侯爵家は、歴史や古い文献に造詣が深く王宮の書庫の管理も任されている。彼が手紙について何か知っているとしたら?
「それは本当なの?カイン様にもう一度詳しく聞いてみてちょうだい」
記憶力に改めて感嘆。推理に全く予想していなかった、重要な手がかりをもたらしたのだ。




