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22お世話、ですか。随分と変わったものですね貴女も。ルミナ様が、このような素朴な店で働いているとは。侯爵夫人としての務めはどうされたのかしら?

「いらっしゃいませー!」


 いつものようにふわふわ亭には甘く香ばしい香りが。焼き台の前でパンケーキを焼いていると店の扉が開き、一人の女性が入ってきた。


 その姿に思わず「え?」と息をのむ。女性は最高位貴族であるロゼリア公爵家の令嬢、セシリア。

 シナリオ通りの断罪を受けそうになった時、陥れようとしていた、あのセシリアだ。ゲームの主人公の婚約者であり、因縁の相手。


 以前と変わらず、完璧なまでに整った顔立ちで冷ややかな美しさを纏っていた。瞳には昔向けられた敵意のようなものはなく、どこか探るような、複雑な感情がある。

 ルミナも突然のセシリアの来訪に驚き、少し警戒した表情を浮かべている。顔は知らないだろうけど、こちらの驚愕の気配になにかあると察したのだろう。


 すぐに店主としての顔に戻り、笑顔でセシリアに声をかける。一応、お客はお客。


「セシリア様、ようこそふわふわ亭へ! 何かご注文はございますか?」


 セシリアは店内をゆっくりと見回し、こちらを交互に見つめる。静かに口を開く。


「噂はかねがね聞いておりました、ふわふわ亭と貴女方親子が作ったという珍しいお菓子について。パンケーキ、でしたか」


 視線が固定されて目は、心の内を見透かそうとしているかのよう。そんなことをされるとは。


「ええ、そうでございます。当店の自慢は、口の中でとろけるようなふわふわなパンケーキでございます」


 平静を装いながら答えた。長年、生き抜いてきた経験が冷静さを保たせてくれる。


「あのセレスティーナ・レヴィアが、このような店を営んでいるとは。娘君と共に新たな菓子を世に広めていると、聞きまして」


 セシリアの言葉には皮肉めいた響きがある。彼女は糾弾しようとしていた人物。言葉一つ一つに世界で経験してきた過去が、鮮やかになんて。


「お父様、お母様、このお客様は?」


 孫が無邪気に私のエプロンを引っ張って尋ねて、セシリアは孫に目を向け、一瞬、表情を和らげたように見えた。

 おや、となる。すぐに元の冷やかな表情に戻ったので気付いたのはおそらく自分だけ。


「ルミナ。セシリア様は、昔、私がちょっとお世話になった方よ」


 あえてお世話になったという言葉を選ぶ。彼女との間にあった確執を今、この店で蒸し返したくはなかったから。セシリアは言葉に小さく鼻で笑う。


「お世話、ですか。随分と変わったものですね貴女も。ルミナ様が、このような素朴な店で働いているとは。侯爵夫人としての務めはどうされたのかしら?」


 ルミナに向けられたものだが、真意は試しているよう。ルミナが一瞬、表情を硬くする。すぐに笑顔を取り戻し、毅然とした態度で答えた。


「セシリア様、わたくしは夫であるカイン様から、是非やって欲しいとふわふわ亭での仕事も許されております。店は、わたくしにとって、かけがえのない大切な場所でございますのよ?それを、そ、ぼ、く?」


 真っ直ぐな言葉にセシリアはわずかに目を見開く。威圧感に怖気付いたようにも見える。しばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開く。


「っ……では、ふわふわなパンケーキとやらを、一つ頂きましょうか。あと、陽光の実の蜜も多めで」


「ふふふふ、では、お席にてお静かにお待ちくださいませ。ほほほ」


 ルミナはパンケーキの準備に取り掛かり、こちらはじっと見る。セシリアの真意を測りかねていた。

 偵察なのか。それとも、何か別の目的があるのか。焼きたてのパンケーキがセシリアの前に運ばれてきた。


 彼女はフォークを手に取り、ゆっくりと一口。表情は相変わらず読めない。彼女が二口、三口と食べ進めるうちに瞳の奥に、かすかな驚きと微かな安堵のようなものが浮かび上がる。見逃さない。


「なるほど。確かに、これは、貴女らしい、味ですね」


 呟いた時、心に一つの疑問が湧き上がる。なぜ今になって前に現れたのだろうか。言葉の裏には何が隠されているのだろうか、と。

 セシリアはパンケーキを全て食べ終えると立ち上がる。店を出る直前、セレスティーナにだけ聞こえるような小さな声で言い残す。


「その、また来てもよろしいかしら?」


 想像もできないほど控えめで、どこか寂しげな響きを持っていた。新たな波紋が広がる。


「お母様?」


 背中を見つけていると、声をかけられてぽつりという。


「どうやら、食べたかっただけみたいよ」


 信じられないけれど?という瞳が突き刺さるが、苦笑するしかなかった。次々、お客は入ってくるから忙しい。


「ふわふわ亭は本当にみんなの笑顔が集まる場所になったわねえ」


 ルミナが満席の店内を見回しながら、嬉しそうに言う。カウンター越しには焼き立てのパンケーキの甘い香りが、常に漂う。


「ええ、本当に。これもルミナやアランがいてくれたからこそ」


 笑顔を見ながら心からそう思う。アランはお店の成功を見て、さらに意欲的に新しい道具作りにも取り組む。

 彼が開発した熱伝導率が格段に良い新しい素材を使ったフライパンは、ふわふわ亭のパンケーキをさらに美味しく焼き上げるのに貢献。

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