21思春期に親は振り回されるが見守ることもまた愛である
「ルミナもそのような時期が……では、これは息子だけではない、と?他の人も?」
「ええ、決してあなたたちの育て方が悪いわけではないの。ちゃんと自我が育っている証拠でもある。自分の気持ちを表現できるようになっている、ということだからね?」
優しく説明するとカインは真剣な表情で耳を傾ける。
「では、私たちはどのように接すればよいのでしょうか……?つい、強く叱ってしまいそうになるのですが。あまりに酷くて」
カインの問いに自分の経験を振り返りながら答えた。
「大切なのは、まず子どもの話を聞くこと。たとえ、それが私たちには理解できないような、突拍子もない意見であってもまずは最後まで耳を傾けてあげる」
アランも続き、諭すように言う。
「そうだね。彼らが自分で考えて、自分で決める機会を与えてやることだ。もちろん、危険なことや間違った道に進みそうなら、親として導いてやる必要はあるが。頭ごなしに否定するのではなく、なぜそう思うのか、理由を尋ねてやるといい」
ルミナも自身の経験を踏まえて、カインにアドバイスを送る。
「どんなに反抗的でも愛情を伝え続けることも大切。あなたは大切な存在だということを、言葉や態度で示して。私はお母様とお父様が、どんな時も私を信じて愛してくれたから、乗り越えられたと思ってる」
カインは一つ一つ噛みしめるように聞く。彼の表情は先ほどの戸惑いから、安堵へと変わっていった。
「なるほど……子どもを信じ、話を聞き、愛情を伝え続ける……ありがとうございますセレスティーナ様、アラン様、ルミナ。私一人で抱え込まず、皆さんに相談して本当に良かったです」
カインの顔には再びいつもの優しい笑顔が戻る。
「セレスティーナ様、アラン様、ルミナ。先日は息子のことで相談に乗ってくださり、本当にありがとうございました」
数日後。カイン侯爵がふわふわ亭にやってきて、深々と頭を下げた。彼の顔には以前の戸惑いはなく、清々しい笑顔が浮かんでいる。解決したようでなにより。
「まあカイン殿。どういたしまして。何か変化はあったかしら?」
とりあえず尋ねると、カインはルミナに優しい視線を向けた。
「ええ、ルミナが私に助言してくれた通りに、息子と向き合ってくれましてね。私も彼女の言葉を胸に息子と話してみたんです」
先日の会話でルミナが自分を呼び捨てにするよう促したことを、まだ少し照れながらも自然にルミナと呼んでいた。
まだ慣れなくて、ルミナに敬称をつけることはあるみたいだが変化に顔を見合わせ微笑む。二人の絆がさらに深まった証拠。
「そうなの。私が、お父様も、反抗期があったのよって、お父様の話をしたら、息子ったらびっくりしてこーんなに目を丸くしていたわ」
楽しそうに当時の様子を語り始めた。
「ははは、そうなんです。まさか、ルミナが昔の話を持ち出すとは思いませんでしたが、功を奏したようで、反抗期の頃は君と同じように悩んでいたことや。それでも親はきちんと子供を愛していると伝えると、息子の表情が少し柔らかくなったように感じました」
温かい眼差しで息子との対話を振り返る。
「それにね、お父様もちゃんと息子の話を聞いてあげたの。息子が何に不満を感じているのか、どうしてそう思うのか?根気強く聞いてあげた」
行動を褒めるとカインは少し照れたように頭をかく。
「ルミナの助言がなければ、つい頭ごなしに叱りつけてしまっていたかもしれません。本当に感謝しています」
「もう、カイン。私たちは家族なのだから、そんな水くさいこと言わないでったら」
ルミナがカインの腕を軽く叩きながら、愛おしそうに彼を見上げた姿は侯爵夫妻というよりも、ごく普通の夫婦そのもの。
「今朝息子がね、お父様、お母様、おはようございますって、自分から声をかけてきてくれたんです。完全に解決したわけではないでしょうが、大きな一歩だと感じています」
皆で変化を心から喜びを分かち合う。ワッとなる。子育ては決して平坦な道のりではなく、夫婦が手を取り合う。
家族みんなで支え合うことで、どんな困難も乗り越えていけるのだと改めて実感したのだろう。
「それは良かったわね。きっと、これからもっと、親としての喜びを感じられるようになるわ」
カインは深く頷く。
「ええ。セレスティーナ様、アラン様。ルミナ。本当にありがとうございます。このような家族の形があって、本当に幸せ者ですよ」
心からの感謝と家族への深い理解に満ちていた。皆で頷きあう。カインが息子の反抗期について相談に来て以来、 特にルミナとカインは夫婦として親として一層強く結びついたように見えた。喜ばしい。彼らが互いを尊重し、支え合う姿。
「この前、息子がね、お父様、お母様、ありがとうって自分から言ってくれたのよ」
ある日、目を潤ませながら報告してくれた。大切な言葉だ。
「まあ! それは良かったわねルミナ。愛情が、ちゃんと届いている証拠ね」
優しく抱きしめるとルミナは満面の笑みを浮かべる。
子どもの成長は本当に親にとって何よりだと改めて感じさせられる。日常は回っていく。ふわふわ亭は今やただのパンケーキ専門店ではない。
人が気軽に立ち寄ってパンケーキを囲み、会話を交わす街のコミュニティの中心となっていた。
朝になると子供たちがブランコで遊ぶ声を耳にしながら親たちが店の前に列を作り、焼き立てのパンケーキの香りが街中に広がる。
昼時には貴族の奥様方が優雅にお茶を楽しみ。夕方には仕事帰りの人が、甘いパンケーキで一日の疲れを癒やす。
「セレスティーナ様、ここのパンケーキを食べてから、うちの家族はみんな朝が楽しみになったんですよ!」
「ルミナ様が教えてくださった折り紙のおかげで、子どもが集中して遊ぶようになった!」
お客さんたちが口々に感謝の言葉を伝えてくる。美味しいものを提供するだけでなく人の生活に寄り添い、小さな幸せを届けられる場所になっていた。
カウンター越しにお客さんたちの会話に耳を傾けたり、子育ての悩みにアドバイスをしたりと自然とこの街の人たちと深く関わるように。穏やかな日々はかけがえのないもの。
「お母様、今日はどんな新しいお菓子を考えるの?私も一緒に考えるわ!」
ルミナが目を輝かせながら話しかける。探求心と創造性は国に新しさをもたらすだろう。
「そうねルミナ。みんながもっと笑顔になるような、特別なお菓子を考えましょうか」
娘の手を握り、窓から差し込む陽光に目を細めた。




