20一日の始まりは、ふわふわの幸せから。キャッチフレーズが画面に大きく映し出された瞬間、目からは熱いものが流れてきた
撮影当日の朝。アランは朝日が差し込む窓辺に、焼きたてのパンケーキを完璧な配置で並べて。
湯気が立ち上るパンケーキの上にはとろりと蜂蜜がかけられ、横には新鮮な果物が彩りよく添えられる。
「セレスティーナ、ルミナ、どうだい?このセットならパンケーキの魅力が最大限に伝わるだろう?」
自信満々に言う彼の美術センスにはいつも驚かされる。
「完璧ね。これならきっとみんなパンケーキが食べたくなるわよ〜」
目を輝かせながら、魔導カメラの調整を始めていく。娘は光の当たり方や映像の色彩を細かく調整し、パンケーキが一番美味しく見えるように工夫。
「家族がパンケーキを囲んで笑っているシーンからね。みんな、自然な笑顔でお願い」
指示を出すとアランもルミナも、孫たちもそれぞれ持ち場につく。孫たちはパンケーキの香りに誘われて、早くもそわそわ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ちゃんと笑顔だよ!」
末娘が愛らしい声で兄と姉に声をかける。
「わかってる」
「おばあちゃま、美味しいパンケーキ、食べる!」
孫たちが元気いっぱいの笑顔を見せる。撮影は順調に進み、ルミナは指示する度に素早く魔導カメラを動かし、最高の瞬間を捉えていく。
アランは光の調整や小道具の配置など、細部にまでこだわり。映像をより、美しく見せるための工夫を凝らしてくれた。終わってもまだまだ。
編集作業だ。ルミナは撮影した映像を繋ぎ合わせ、音楽や効果音を加え、最後にアランが考えたキャッチフレーズを映し出しす。
「完成よ、お母様!どうかしら?」
ルミナが自信満々に完成したCMを見せてくれた。映し出された映像は、朝日が差し込むふわふわ亭の温かい雰囲気から始まる。
家族がパンケーキを囲んで笑い合う姿。子供たちがパンケーキを頬張る愛らしい表情。最後に宙にふわりと浮き上がるパンケーキの、幻想的なシーンへと続き。
一日の始まりは、ふわふわの幸せから。キャッチフレーズが画面に大きく映し出された瞬間、目からは熱いものが流れてきた。
「ルミナ……素晴らしいわ。本当に、素晴らしいCM」
感動のあまり、抱きしめる。彼女も達成感からか肩に顔をうずめ、嬉しそうに涙を流していた。
「よかった……お母様が喜んでくれて……ぐすっ」
アランも温かい眼差しで見守りながら、満足そうに頷く。国で初めての最高のふわふわ亭のCMが完成した。
朝にどれだけのふわふわの幸せを届けることができるのか、大きな期待しかない。完成したふわふわ亭のCMは王宮に設置された魔導映写機で、定期的に放映されることになった。
カイン侯爵がルミナの熱意とCMの質の高さに感銘を受け、国王に進言してくれたのだ。相変わらず太っ腹な人。
「見てよ! 私たちのCMが映し出されてる」
初めて魔導映写機でCMが放映された日、お互い抱きしめ、跳びはねるように喜んだ。画面には心を込めて作り上げた、温かいふわふわ亭の映像が流れている。
音楽もちゃんとある。一日の始まりはふわふわの幸せから。キャッチフレーズが深く刻み込まれていくのが分かった。
CMの効果は絶大で、それまで店は街の人たちには知られていたが、CMが放映されると遠方の街や村からもふわふわ亭のパンケーキを求めて、多くの人たちが訪れるようになった。
「すみません! CMで見たパンケーキをください」
「こんなに美味しいパンケーキ、初めて食べました」
お店は連日、開店前から長蛇の列ができ、パンケーキの甘く香ばしい香りが、街中に漂うようになった。目がぐるぐるしてくる。ルミナとアランは忙しくパンケーキを焼き続け、レジ打ちや接客に追われた。
「手が休まる暇もないわ。でも、こんなにたくさんの人が笑顔になってくれるなんて、本当に嬉しい」
ルミナは疲れていながらも瞳は輝いている。
「ふふ。本当に。あのCMは魔法よ」
成功はパンケーキだけでなく、様々なビジネスを生み出したらしい。陽光の実の栽培農家はパンケーキの需要が増えたことで、生産量を大幅に増やしたり、アランが開発したパンケーキ用の焼き台や卵を泡立てるための特殊な道具も、工房の新しい主力商品となる。
ルミナはCM制作の経験を活かし、他の店の宣伝映像や国の政策を分かりやすく伝える映像制作の依頼を受けるようになった。
魔導映画の技術は新たな分野でさらに開花。いいこと沢山だ、と笑みを浮かべた。穏やかな夕食の後、ルミナの夫であるカイン侯爵が少し困ったような顔をして自分達に話しかけてきた。
「ちょっといいですか?」
孫が最近、少し態度が変わってきたことに、戸惑っているよう。
「どうしたの?」
「セレスティーナ様、アラン様。実は息子のことでご相談がありまして」
カインが切り出すとルミナも心配そうな顔で彼を見つめる。
「どうしたの、カイン?何かあったの?」
「いや、その……最近、息子がどうも、私たちの言うことを素直に聞かなくなってきましてね。話しかけても返事をしなかったり、気に入らないことがあると、すぐに部屋に閉じこもってしまったり」
カインは眉を下げて困ったように笑う。普段は冷静沈着な侯爵が、一人の父親として悩んでいる姿に全員が思わず顔を見合わせる。
「ああ、それはねカイン殿。きっと反抗期というものだから」
さらっと言えばカインは目を丸くする。反抗期という概念は浸透していなかったのだな。
「反抗期、ですか?それは、一体?」
アランが温かい眼差しでカインに語りかけていく。親としてアドバイスをしなければ。
「子どもが成長する過程で自分の意思が芽生え、親から自立しようとする時期のことだよ。急に口が悪くなったり、言うことを聞かなくなったりする。私たちもルミナがそうだったから、よくわかる」
ルミナは頬を赤らめながらも大きく頷く。
「そうそう。私もお母様やお父様に、たくさん迷惑をかけたわねぇ。 勉強なんて嫌い!とか、どうして私だけこんなことしなきゃいけないの!とかね。まあ、そんな感じかしら?ほほほほ」
告白にカインは驚きと同時に、少し安心したような表情を見せた。




