16故郷で大好きだった冷たくて甘いデザート。アイスクリーム
こういう活動は娘がなによりも推し進めているので、そっと言う必要がない。
折り紙教室は、国の人たちに新たな喜びをもたらし、心も満たされていく。ホッとする。
夏の日差しが降り注ぐ午後、庭でブランコに乗る孫たちを眺めながら、冷たい陽光ソーダを口にする。優雅だ。ふと、ある懐かしい味が脳裏をよぎった。
「ああ、こんな暑い日にはあれが食べたい」
故郷で大好きだった冷たくて甘いデザート。アイスクリーム。かき氷のような冷たいお菓子はないし、乳製品を凍らせて作る独特の滑らかで濃厚な甘味は存在しない。
発明した冷気の魔石と国の豊かな乳製品を組み合わせれば、もしかしたらアイスクリームのようなものが作れるのではないかと直感。
食べ物のためなら頑張れると夕食時、家族に新たなアイデアを提案した。
「私、この国の乳製品とルミナが作った冷気の魔石を使って、新しい冷たいお菓子を作ってみたいの」
アランとルミナ、カインも興味津々の表情を浮かべた。
「ほう、乳製品を冷やすのかい?それはまた、面白い試みだね。どんなお菓子を考えているんだいセレスティーナ?」
アランが目を輝かせながら尋ねる。
「それはね、アイスクリームというの。ミルクや生クリームに甘味料を加えて、それを冷やしながらかき混ぜて作る。そうすると、雪のように滑らかで口の中でとろけるの」
ルミナが手を叩く。いつも真っ先に反応する。
「まあ! それは素晴らしいわ! 魔法みたいね! 陽光の実を加えて、爽やかなアイスクリームなんてどうかしら?」
教え甲斐があるというものだ。すでに頭の中で新しい味の組み合わせを考えているらしい。
「いいね、ルミナ! 陽光の実の酸味と、ミルクの甘さが合わさればきっと絶品になるわ!」
親子は子供のように興奮して、新しいお菓子のアイデアを出し合う。カインもそんな親子を温かい眼差しで見守る。
「セレスティーナ様とルミナ様が楽しそうで何よりです。私に手伝えることがあれば、何なりと仰ってくださいね」
彼の協力があれば冷気の魔石の大量生産や、乳製品の安定供給も可能になるはず。娘の夫は頼りになる人。
「ありがとうカイン。あなたの協力があれば、きっとこのアイスクリームは新しい夏の味になるわ!」
故郷の味を再現できると、新しい挑戦ができる期待で満たされていく。冷気の魔石と乳製品の実験を頭に描いた。
「よし、乳製品の選定からね。ミルクは濃厚だけど、アイスクリームにするにはもう少し脂肪分の調整が必要かもしれないから」
指示を出すとルミナは国の様々な乳製品を集めてくれた。工房はミルクの甘い香りと、冷気の魔石が放つひんやりとした空気になる。
「お母様、山羊のミルクはとてもコクがあるわ。でも、牛のミルクの方が滑らかな口当たりになりそうね。メモしておかなきゃ」
ルミナはそれぞれの乳製品を少しずつ冷やし、舌触りや甘さを細かく確認する。彼女の集中力と探求心は本当に素晴らしいもの。アイスクリームの作り方をなんとか思い出しながら、指示を出す。
「ええ、その通りよ。ね、ミルクを冷やしながら、ゆっくりとかき混ぜ続けることが大切なの。そうしないと大きな氷の粒ができて、滑らかにならないの」
アランは説明を聞きながら、効率よくかき混ぜ続けるための特別な攪拌機を設計し始めた。彼に言っておいた甲斐がある。
手動で回すハンドルと、冷気の魔石を効率的に配置できる二重構造の容器。彼の職人としての技術が、ここでも遺憾なく発揮される。
最初の試作品は残念ながら成功とは言えなく、冷やしすぎるとただの硬い氷の塊になり、かき混ぜが足りないとシャリシャリとした舌触りになってしまう。
「うーん、難しいわねえ。なかなか口の中でとろける感じにならない」
ルミナが悔しそうに言い、試作品を口に含み、首を傾げる。
「そうね……でも、失敗は成功の元よ。何がいけなかったのか、一つずつ確認していきましょう」
乳製品の種類、甘味料の量、冷気の魔石の配置。攪拌の速度と時間。あらゆる要素を細かく調整し、何度も何度も試作を繰り返す。
工房の片隅には失敗作の氷の塊が山積み。アランも試作に付き合い、時には夜遅くまで工房にこもって新しい攪拌機の改良を続けてくれる。彼の顔には疲労が見えたが、瞳はいつだって探求心で輝いていた。
「セレスティーナ、ルミナ。もう少しだ。きっと、君たちが求めるアイスクリームはできるはずだ」
アランの温かい励ましが、親子の原動力となる。
何十回目かの試作の日。これまでで最も完璧な配合と攪拌方法で、最後の試作品を作り上げた。
アランが作った改良型の攪拌機は信じられないほど滑らかな動きで、中の液体をかき混ぜ続けて。
「わ、この感触! 今までとは違うかも」
ルミナが容器の中を覗き込みながら興奮した声を上げる。ついに攪拌を終え、できたてのそれをスプーンで掬い上げ、口に運ぶ。瞬間、目にまたしても熱いものが込み上げてくる。
「これよ……! これこそが、私が求めていたアイスクリームだわ」
口に入れた瞬間、ひんやりとした甘さが広がり、あっという間にとろけて消えていく。ミルクの濃厚な風味とかすかな甘みが、これまでのどの冷菓とも違う至福の味を生み出す。
「わあ……! 本当だわ、お母様!口の中で溶けていくわ!」
ルミナも感動の声を上げ、目を輝かせてアランもそっと一口味見をして、大きく頷く。
「これは……素晴らしい! 氷菓の女王だ!」
名付けのセンスが相変わらずすごい。




