12陽光の実のケーキ作りと家族の味は新しい伝統。どら焼きへの道
隣では孫が小さな椅子に座って、興味津々に様子を眺めている。
「次は粉を入れるタイミングかしら?」
「ええ、そう。少しずつふるいながら加えて。混ぜすぎると固くなっちゃうから、気をつけて」
生地がまとまってくるとルミナは目を輝かせる。
「見てお母様。いい感じの生地になったわ!楽しい」
「ええ、完璧。じゃあ、型に流し入れてコンロへ入れましょうか」
娘が発明したコンロに型に入れた生地をそっと入れる。しばらくすると、厨房には陽光の実の爽やかな香りと、甘く香ばしい焼き菓子の匂いが混じり合って漂い始めた。香りは心の中に地球での思い出を鮮やかに蘇らせていく。
「うう……」
こみ上げてくる感情を抑えきれずに、目を閉じる。
「どうしたの?具合が悪いの?」
心配そうに声をかけてくる。
「違うのルミナ……この香り……香りは、私の故郷で母がよく作ってくれたお菓子の香りにそっくり」
目からは温かい涙があふれ出したそれは、懐かしさの涙であり、異国で娘が懐かしい味を再現してくれたことへの深い感謝の涙。
「お母様……」
ルミナは言葉を聞くと、抱きしめてくれて彼女の温かい腕の中で声を上げて泣く。
「嬉しい……本当に嬉しいルミナ。ありがとう……」
焼き上がった陽光の実のケーキは黄金色に輝き、甘酸っぱい香りをあたり一面に放っている。一口は普通のお菓子じゃなかった。
今ここにある、かけがえのない家族の愛が詰まった最高の宝物。
ルミナが作ってくれた陽光の恵みケーキと名付けたものは、故郷の味そのもので。その日以来、セレスティーナ達家族にとってケーキは特別な存在となった。
アランもルミナも可愛い孫たちも、みんなこのケーキが大好きになってくれ。涙を流して喜んだのを見て、ルミナはことさら張り切ってこのケーキを焼いてくれるようになった。
娘の親孝行に泣きっぱなし。
「今日の陽光の恵みケーキは、少し甘さを控えてみたの。どうかしら」
「おばあちゃま、このケーキあたちも作れるようになる?」
孫が目をキラキラさせて尋ねる。今は家族みんなでキッチンに立ち、陽光の実の香りに包まれながらケーキ作りを楽しむ。
幸せな時間。陽光の恵みケーキは祝い事には欠かせない、新しい伝統となっていく。誕生日や季節の変わり目、お祝いの日には、必ずこのケーキを焼くように。
例え誰かが故郷を離れても、陽光の実のケーキが家族の絆と遠い故郷との繋がりを感じさせてくれる、大切な架け橋となるだろう。
陽光の恵みケーキは経営するお店でも大人気となり、口コミで評判が広がり、遠方から買い求めに来る客もいるほどに。
「ケーキを食べると、なんだか心が温かくなるのよ」
「爽やかなのに、しっかり甘くて本当に不思議な味だわ」
お客さんたちの言葉を聞くたびに胸が熱くなる。故郷の味を異国の地で多くの人たちと分かち合えているなんて、これほど嬉しいことはない。
ルミナなんて、ケーキの成功を受けてさらなる新商品の開発にも意欲を燃やしている。
陽光の実を使ったジャムやキャンディ、さらには飲み物など彼女のアイデアは尽きることがないみたい。才能は国の人たちの食卓を豊かに変えていく。
「陽光の恵みケーキも素晴らしいけれど、もっとふっくらとしていて、優しい甘さのお菓子ってないのかしら?」
ぽそりとルミナが陽光の恵みケーキを頬張りながら尋ねた時のこと。娘の言葉を聞いた瞬間、脳裏に故郷で愛されたどら焼きの姿が鮮やかに蘇る。
「ええ、あるわ。あなたの言う通りのお菓子がね。でも、それはこの国では見たことがないの」
胸の奥が熱くなるのを感じつつ、レモンケーキが再現できたのだからどら焼きだってきっと、と思う。
「そのお菓子、どんなものなの?わたくし、ぜひ作ってみたい」
目を輝かせるので、どら焼きのふっくらとした皮と中に詰まった甘い餡を説明。
「皮はパンケーキに似ているけれど、もっとしっとりしてて、焼くといい香りがするし。中に詰めるのはあんこという特別なもので。小豆という豆を煮て甘くしたもの」
「小豆?豆を甘くするの?それはまた珍しいわね」
ルミナはすぐに興味を示したが問題は山積み。国には地球の小豆にそっくりな豆は存在するものの、それを甘く煮詰めるという発想がない。独特のふっくらとした皮を焼くための鉄板も、家庭には普及しておらず。
「じゃあ、小豆を見つけることから始めましょうか。アランも手伝ってくれる?」
問いかけると彼は優しい笑顔で頷く。
「もちろんだセレスティーナ。君がそんなに夢中になれるものを見つけられて、嬉しいよ」
それからの日々はどら焼き探求の旅。農家を訪ね歩き。
「すみません、この絵のような豆を探しているのですが……」
描いた小豆の絵を見せると農家のおじさんが首を傾げる。
「ああ、これは赤い豆のことかい?滅多に育てないが確かにいくつか種類はあるな」
見つけた赤い豆は見た目は小豆にそっくりだが、実際に煮てみるとなかなか滑らかな口当たりにはならない。
「うーん、もう少し煮込む時間が違うのかしら?」
「豆は皮が少し硬いわ。煮る前に一晩水に浸しておくとか、蒸してから潰すとか?」
様々な方法を試してくれ、厨房は煮詰める甘い香りと焦がした時の苦い匂いが入り混じり、失敗の連続。
「どうしてこんなに難しいんだろう……」
ため息をつくと肩を優しく叩いてくれる。
「諦めないでセレスティーナ。君が初めて陽光の実を見つけた時の情熱を思い出してごらん。きっと豆にも君が求める答えが隠されているはずだ」
がやがやするが楽しさが上回る。




