11レモン、陽光の実を見つけて大喜びしてしまう
思わず駆け寄り果実を手に取る。硬すぎず柔らかすぎない独特の手触り。鼻を近づけるとふわっと広がる、甘酸っぱく爽やかな香り。
「これは……これは、レモン……レモンよ、!」
声は震えていた。転生してこの世界に来て以来、最も恋焦がれていたものの一つがレモン。似たような柑橘類はあるが、独特の酸味と香りを併せ持つ果実は存在しないもの。
星丸ごと故郷を離れ、心の中にレモンは常に地球の思い出として、失われた故郷の象徴として存在していた。二度と出会うことはないと思っていた、故郷の味と香り。
果実を胸に抱きしめ、熱いものが込み上げてくるのを止めらなかった。
「セレスティーナ、どうしたんだい?そんなに感動して……大丈夫?」
アランが心配そうに近づいてきた。目からは大粒の涙がとめどなく溢れていたから。
「アラン……これは、私の故郷にあった特別な果実なの……もう二度と会えないと思っていたのに……会えた!」
レモンの香りを胸いっぱいに吸い込みながら、子供のように泣きじゃくる。これまでの苦労や故郷への郷愁が一気に押し寄せてきた。
アランは何も言わず優しく抱きしめてくれる。温かい腕の中で安心しきって涙を流し続けた。
新たな味の創造
農園の主によると、果実は最近、遠い異国から持ち込まれた珍しい品種でまだあまり知られていないとのこと。
果実を大量に買い取り、家へと持ち帰る。家に帰ると早速果実を使ってレモン水を作った。
一口飲むと懐かしい爽やかな酸味と香りが口いっぱいに広がり、心を震わせた。
「お母様、これ、とっても美味しいわ! このような酸味は初めて」
ルミナも目を輝かせながらレモン水を飲み干し、新しい果実が持つ可能性にすぐに気づいたようだ。
「お母様、果実を使えばもっと新しいお菓子や飲み物が作れるんじゃないかしら」
ルミナは早速果実を使った新しいレシピを考え始めた。感動を多くの人たちと分かち合いたいと思う。
目的が加わり、レモンそっくりの果実。故郷からの贈り物であり、困難を乗り越えてきたことへの最高の祝福だと思えた。
レモンによく似た果実との再会は大きな感動と新たな活力を与えてくれ、果実を国の言葉で陽光の実と名付けた。
鮮やかな黄色と爽やかな酸味が、太陽の光を閉じ込めたようだと感じたから。陽光の実を使った、新しい商品開発に没頭した。
地球で知っていた様々なレモンを使ったお菓子や飲み物を思い出し、ルミナが魔導具や素材に合わせて、アレンジしていく。
アランはアイデアを形にするための道具や容器を、次々と生み出してくれた。考案したのは、薄くスライスした陽光の実を、甘い蜜に漬け込んだ陽光の実の砂糖漬け。
爽やかな酸味と砂糖の甘さが絶妙に組み合わさり、瞬く間に人気商品となる。子供にも好評であった。
「ソーダ、ありね」
次に陽光の実を絞った汁を、水や炭酸水に混ぜた陽光ソーダ。暑い日には特に好評で人たちは喉の渇きを癒しながら、新しく爽やかな味に驚きの声を上げた。
特に力を入れたのが陽光の実を使った焼き菓子。焼き菓子は甘みが強いものが多かったので、陽光の実の酸味を加えることで洗練された味わいになるはず。
ルミナが開発したコンロの安定した火加減と、レシピの組み合わせで、しっとりとした陽光マフィンやサクサクとした陽光クッキーなどが誕生し、お店の看板商品となっていく。
陽光の実を使った商品は店だけでなく、国中へと広がっていく。ルミナの夫であるカイン侯爵が、果実の持つ可能性に着目し、国の農業発展のために各地の農家への栽培支援を始めた。
カインの働きかけにより、これまであまり知られていなかった陽光の実の栽培が、全国各地で推奨されるようになる。
ルミナは陽光の実の最適な栽培方法を研究し、農家の人たちにその知識を惜しみなく提供。彼女の提案によって、効率的で品質の高い陽光の実が収穫できるようになり、生産量は飛躍的に増大。
陽光の実が手に入りやすくなったことで家庭それぞれ独自のレシピを考案し、果実を使った料理やお菓子が家庭の食卓にも並ぶようになった。
食文化が豊かになるだけでなく、陽光の実の持つビタミンが健康増進にも役立っているという報告も上がってきたとか。
「陽光の実をたっぷり使った新しいお菓子を考えたのよ」
ルミナが目をキラキラさせて駆け寄ってきた。娘の手に握られていたのは地球で大好きだった、レモンケーキのレシピを書き起こしたものに違いない。
「あら、ルミナ。美味しそうな匂いがしそう」
「そうなの。焼くとね陽光の実の爽やかな香りが、バターの甘さと溶け合うの。上に甘いお砂糖の衣をかけて」
ルミナがこれほどまでに陽光の実の魅力を引き出してくれることに、胸が熱くなる。
「じゃあ、さっそく作ってみましょうか。陽光の実の皮をすりおろして」
陽光の実を手渡すとルミナは慣れた手つきで皮をすりおろし始め、爽やかな香りがスッと厨房に満ちていく。
「うわぁ、いい香り。お母様、香りを嗅ぐとなんだか元気が出る気がする」
「そうでしょう?不思議な力があるのよ。この実は」
微笑みながら次に卵と砂糖を混ぜ合わせる指示を出す。
「卵と砂糖を白っぽくなるまで、しっかり混ぜて。腕が疲れるかもしれないけど、これがふわふわの秘訣だから。頑張りどころ」
「うん、任せて」
泡立て器を軽快に動かし始めた。




