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芳子の怒り

「明奈さん、どうぞ。」

その日の午後書類を作成してる明奈の元に芳子がやって来て紅茶を出す。

「ありがとう。」

芳子は机の上に紅茶を置くとトレイだけ持って部屋を出ようとする。

「待って」

明奈が呼びとめる。

「1つ聞いてもいいですか?」

「何だい?」

「どうしてちづに私に訴訟依頼をするように勧めたの?」

明奈はちづが家庭科でスカートではなくズボンを作る事になった時の事を尋ねる。

「ちづが貴女がかつて一緒に暮らした千鶴子さんに似てるからですか?」

「それもある。」

芳子は空いてる席に座る。

「ちづは千鶴子さんじゃないんです。千鶴子さんの代わりのような目で妹を」

「でもそれだけじゃないんだ!!」

芳子が明奈の言葉を遮るように叫ぶ。

「勿論ちづが千鶴ちゃんに似てるからでもある。だけど一番の理由は許せなかったんだ。男のために女の子が悲しい思いをするのが。」

芳子が生きていた時代は女性が男性と同等の権利を得る事はできなかった。大学に通える女性はほんの一握り、大半の女の子は高等女学校を卒業すれば結婚。仕事も女性が就けるものは限られていた。芳子が男装してる理由も軍という男社会に身を置くためなのもあった。王朝復活には日本軍の助けが必要だったのだ。

「勿論それだけじゃないが。君は凄いよ。男装せず弁護士という男ばかりの社会を生き抜いて。」

「だったら家庭科でズボンを作るのもいいのではないですか?それに今年は男の子もいる事だし。学校としては妥当な判断だと思うわ。」

「そこなんだ!!」

芳子は机を叩き立ち上がる。

「ごめん」

再び芳子は座り直す。

「たった1人男の子が入って来たからと言ってスカートを作りたいという女の子の気持ちが無視される。女性と男性の権利が同等だからこそ女の子の世界に男がズカズカと入り込み女の子の場所が脅かされる。結局は男のせいで女が泣く。本質は90年前と何も変わってない、むしろ酷くなってると僕は思うんだ。」


トントン


その時ドアを叩く音がした。明奈のどうぞの返事の後に入って来たのはセーラ服を着た5人の女子高生だ。その中にはちづと真由の姿もある。

「お姉様、これ皆でお金出し合ったんです。これで足りますか?」

ちづが封筒を差し出す。

「明奈さん、私達も本当はスカート作りたかったんです。だけど最初は男の子がいるからしょうがないかなって諦めてたんです。」



 真由の話によるとちづがデザイン画を提出した時教師に呼び止められた。

「麻川さん、待ちなさい。これは何ですか?」

教師はちづに彼女のデザイン画を見せてくる。ちづが描いたのはピンクの3段フリルのスカートだ。

「今年はズボンを製作すると言ったはずですよ。」

「これキュロットです。ここ見て下さい。」 

ちづはスカートの裾の真ん中の部分を指差す。そこには切れ目があった。

「これならズボンになりますよね?」

「描き直して再提出しなさい。これだとスカートかズボンか分かりにくいです。」 

教師はちづにデザイン画を返す。

「あの、先生、どうしてズボンじゃなきゃいけないのですか?!私はスカートが作りたくてこの授業を選択したのです。男が1人入ったからズボンなのは納得できません。」



 ちづの発言に真由含む4人が賛同してくれたという。

「たった1人の男の子のために私達女の子が我慢しなきゃいけないなんて納得いきません。」

「分かったわ。でもこのお金は受け取れないわ。」

明奈は封筒を真由に返す。

「そんな」 

ちづは悲しそうな顔をする。

「費用は勝った時の慰謝料のいくらかを成功報酬として頂くわ。」

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