婚約の報告
ソルセリル各地の領主や幹部が城に召集された。
婚約の賛同を得るという場だが、飽くまで型式的なもの。だから反対はされないけど、あたしの値踏みはされる。
ヘルムートからは事前にそう言われていた。あたしもそれはよく分かっていたから、臆することはなかった。
「値踏みの仕方は分かりませんが、ヒカリ様がよい思いをしないのは確かでしょう。私も高官の一人として参加しますが、庇ったり援護したりはできません。どうかそのおつもりで」
「分かっいます。ここはあたしが踏ん張るところですから、いつものように見ていて下さい」
城で着替えを済ませると、自分の部屋で時間がくるのを待った。ラディウスの婚約者という立場になってせいか一際衣装は華やかになり、ズルズルしたドレスが準備されるようになった。今日は婚約者としてのお披露目といってもよい場だったから、余計に侍女達の気合が入ったようだ。
きれいな格好は嫌いじゃない。小さい頃はお姫様に憧れたし、綺麗に着飾ってみたいと母のイヤリングや化粧品を拝借して鏡の前に座ったこともある。
それが叶うようになった大人になると、ただ面倒で化粧は適当。社会人として恥ずかしくない程度にしかしなかった。
そんな生活を続けていたから、メイクの知識はほとんどない。こんなにもバッチリメイクをしたのは成人式以来で、鏡に映るのが自分とは思えなかった。
コルセットで姿勢は美しく伸ばされ、猫背も改善されている。婚約者としては恥ずかしくない格好だが、中身は変わらないので喋ればいつものあたしだ。
「馬子にも衣装だな……」
部屋に呟きが吸い込まれた時、部屋の扉が叩かれた。
「ヒカリ、入るぞ」
ラディウスの声がして、いつもよりタイトな衣装を身にまとった彼が入ってきた。
あたしのドレスと同じ色の衣装。お揃いにされたのだとここで初めて知る。今後はこういうことが増えるのかな……。
「準備で――」
きたか、のたった3文字は途中で消え失せた。
ラディウスはじっとあたしを凝視して、
「……綺麗だな」
呟いた。
あたしは途端に顔がふにゃりとなりそうになり、我慢して唇を引き締めた。部屋に専属メイドのイリサが残っていたからだ。あまりニヤけた姿を見られるのは――2人きりの時にしか見せないラディウスの表情やあたしの赤い顔を見られるのは――嫌だった。
だから精一杯声を抑えて、
「ありがと……」
お礼だけ言った。
「準備が整っているなら、行くか」
緩んだ頬のままのラディウスが手を差し伸ばしてくれる。
ラディウスはこの日、朝から浮かない顔だったから、ここにきて表情が崩れたのは良かった。
そう思いながら、あたしは彼は手を取った。
「緊張しているか?」
「まぁ、それなりに」
「それなり、か」
「朝食が食べられるくらいには落ち着いてる。顔色も悪くないでしょ?」
「確かにな」
あたしはいつもみたいに吐き気に襲われることも、胃が重くなることもなかった。その理由は明白で、「無理してくれ」と言われた言葉が大きい。
あの時感じたひしひしとした喜びはあたしの中で生き続けていて、今もまだ火を灯している。あとは頭なでなでかな。
事前に知らされていた部屋の前には騎士が立っているから、場所はすぐに分かった。
いつもあたしが使っている会議室よりも、一際大きい扉の前に立つ。
きっと部屋が広いんだろうな……。何人が待ち構えているのか……。
知らず知らずのうちにラディウスの手をキュッと握っていた。彼は何も言わず力を込めて指を握り返すと、騎士に扉を開けるよう合図した。
「ラディウス陛下、ヒカリ様、ご到着です」
声と共に扉が開かれた。
メンバーは領主10人、高官9人、幹部8人。これでも一部で、幹部を全員集めたらこの会議室には入らないくらいだ。
中にはハレイド、エッダ、グスタフ、エーナインテイトなど知った顔もあったけど、8割以上は知らない人だ。
あたし達の入室に合わせて全員が立ち上がった。
ラディウスにエスコートされるがまま、あたしは中央に進み席についた。あたし達の着席後、全員が腰を下ろす。
この時点で視線が痛いくらいに刺さっていた。でもラディウスがいてくれるから、居づらいとは思わなかった。
「皆、今日はよく集まってくれた。事前に知らせていた通り、今日は婚約者を紹介する。知ってい者も多いはずだ。黒の創薬師として知られているイセ•ヒカリだ」
あたしはすくっ、と立ち上がると会釈した。お腹の前で組んだ手が僅かに震えていたけど、こっそり深呼吸して誤魔化した。
「側室を取るつもりはない。彼女1人を妻とし、これからもソルセリルに尽くしていく所存だ。承認を得たい。賛同の者は起立してくれ」
言葉を合図に全員が立ち上がった。
ラディウスはぐるりと見回すと、
「賛同、感謝する」
頷いた。臣下達が再び着席すると、
「ヒカリはこれまで通りの仕事を続けつつ、王妃教育を受けていくことになる。婚約式は半年後の予定で、婚姻式の時期は調整中だ。その他細々としたことは未定となっている。この場を借りて、ヒカリに言葉がある者はいるか」
こう言った場での定例の文言らしいが、ラディウスが一番発したくないと言っていたのがここだった。
この文言から値踏みが始まるだろうと、ヘルムートからもラディウスからも言われていた。
あたしも緊張して、ゴクリとツバを飲む。
「なら、よろしいですか?」
早速1人が手を挙げた。
彼は立ち上がると、胸元に手を当てて丁寧に頭を下げた。
「エーシャ地方領主、ノルトと申します」
初老の彼はエルフで、綺麗なブルーの瞳、すらっとした長身は目を引く容姿だ。
ノルトは微笑みこそ浮かべているが、あたしを見る目は厳しく、歓迎していないと言っていた。
――あらゆる警戒をしたほうがいい。ソルセリルの領主や高官、幹部と俺は、一枚岩ではない。
――未だに俺を国主として認めてない連中もいる。
この人もそのうちの1人なんだと分かった。
ラディウスは彼の申し出に鋭い眼力を向けた。しかしノルトは怯まず、凛とした姿勢を崩さなかった。
「ヒカリ様の人となりを知りたい思います。ヒカリ様の王妃としての御心構えを伺いたい」
ピクリとラディウスが反応した。
「ヒカリ様はすでにこの国に様々に貢献されているが、それはこうなることを見越してのことだったのですか?」
ノルトは真っ直ぐに冷たい視線をあたしに向けている。
「いいえ」
「であれば、今後どのように王妃として力を尽くしていくおつもりか。何やらヨセハイドで動いているようですが、婚礼の礎とは関係ないので?」
「全く関係ありません」
「であれば、今後新たに貢献を示すおつもりということですね。是非ともそのお考えを聞かせていただきたい」
あたしはいきなりのことに言葉が出てこなかった。
王妃としてこれから何を成そうと計画しているのか、今答えろと言われている。
そんなもの、あるはずない。
あたしはラディウスとの結婚のために、策略を持って行動しようと考えたことはない。
もちろん力になれることがあるなら協力するが、自己アピールのために政治を利用しようとは思わない。
どう乗り切ろうかと思案していると、ラディウスが瞳に凶暴な光を募らせて言った。
「ノルト、それは婚姻に相応しい為人であることを行動で示せ、ということか?」
「はい」
このラディウスの視線を前に、ここまではっきりと言い切るのは凄いと、他人事のように感心した。他の人なら怯んで固まるところだ。
ノルトはラディウスの威嚇を意にも介さず、あたしに問いかける。
「王妃としての器を証明するために、ヒカリ様は何を見せてくるのでしょうか」
あたしはじっとノルトを見つめた。
さぁ、どう答える?とその目が言っている。
彼とて、あたしがそこまでの行動をしていないと知っている。ただ突拍子もない質問にどう答えるのか、反応を見ているのだと思った。
彼はあたしを試しているのだ。
この程度で怯むようでは務まらないぞ、と目の奥が言っている。
「ノルト、ヒカリが王妃として相応しいか否かは、今後の働きぶりを見て判断すればいいのではないか?」
「この国の行く末に関わることですよ、陛下。今後公の場に出られることもあるでしょう。もちろん国外にも。ヒカリ様の人となりやお人柄を知っておかなくては、困ることもあるのです」
ノルトとラディウスは火花を散らすように睨みあった。
この2人のやり取りはいつものことなのか、周囲に焦った様子はない。
犬猿の仲というわけか……。
互いに譲らず、無言で視線を外さないので、
「ノルト。あたしの今の考えをお伝えする形でいいですか?」
間に入るようなかたちであたしは尋ねた。ノルトはやっとこちらを見ると、
「はい、構いません」
冷たく笑う。
彼から目を逸らさないようにして、あたしは心にあるままを話そうと思った。包み隠したところですぐにボロは出るのだ。なら自分からバラした方がいい。
それにこらから先の事を考えれば、こんな所でまごつき、狼狽えるわけにはいかない。
「あたしには今のところ、具体的な計画は何もありません」
はっきりと告げた。
ラディウスは心配そうに眉だけを動かしてノルトの反応を窺った。
案の定、ノルトはギラリと目を光らせ、
「随分と素直に言われましたね」
声が冷たくなった。
「貴方にはつつみ隠さず打ち明けた方が良いかと思いまして」
「なるほど……」
取り込める相手か敵となるか判断するように、無表情にじっとあたしを見つめ、
「愚直だとはお思いにならないのですか?」
鋭く言った。
どうやら取り込む価値なし、と判定されたようだ。
「一般社会では不器用な誠実さと捉えられるでしょうが、政治の世界は違います。臨機応変な対応が出来ず、返って損をすることになりますよ」
「損ですか……。それはあたしが、ですか?それともノルトが?」
問い返すと一瞬言葉に詰まり黙り込んだが、すぐに我を取り戻し、
「どちらも同じことです」
強く言った。
「どちらも同じ、ということは、ソルセリルが損をするという意味ですかね」
「それは時と場合によりましょう」
「あたしは腹の探り合いが苦手です。隠している本音を見抜こうとするなど、性に合っていません」
「ならば外交の場でもやはり、馬鹿正直に心のままを話されますか?」
「ノルト!」
ノルトの過ぎた発言に強い牽制を込めた声音でラディウスが叫んだ。
「些か配慮に欠けているんじゃないか?ここは外交の場ではないぞ」
「陛下、国内の者とすら緊張感のあるやり取りができなのなら、ソルセリルの顔として表舞台に立たせるわけにはいきませんよ?国が侮られる」
「グラータとの交渉をやってのけたヒカリに、外交能力も攻略力も無いと言うのか?」
「ご自身の関心のある事柄であれば、熱意を持ってお話することも可能でしょう」
ラディウスは一段と冷たい視線を向けた。冷気を感じるほどだ。
「少々見くびりすぎているな……」
また2人の睨み合いが始まる。
駄目だ……。
これではノルトとの話ができい。あたしはまだ精神的に参っていないし、ノルトに挑むだけの力が残っている。だから、
「ラディウス陛下、あたしに答えさせて下さいませんか」
また割って入った。
「ヒカリ」
「婚約者殿は御心強くあるようですよ?」
「当然だ」
「ならば、陛下は大人しく見守っていた方が良いのでは?」
ラディウスは言い返えそうと口を開いたけど、あたしがそれを遮った。
「その通りですね」
ラディウスは焦ったように目を見開き、
「ヒカリ?」
目を丸くしてあたしを見ている。冷静に彼を見つめ返すと、
「そうとなれば、ラディウス陛下。ちょっと部屋の外に出て頂けます?」
そう告げた。
「…………――は?」
思ってもいなかったのだろう、ラディウスは口をポカンと開けている。
ラディウスだけじゃなくて、この部屋のほとんどの人が驚いていた。
「ラディウス陛下がいらっしゃっては上手く話が進みません。お二人が白熱するばかりで、非効率です」
「なっ……」
「陛下はすぐに威嚇しますし、ノルトは売り言葉に買い言葉を返しています。まるで子供の喧嘩です」
「子供?!」
2人して同じようにして驚いているのはなかなか面白かったが、時間が勿体ないのでさっさと出ていってもらおうとあたしは立ち上がった。呆然としたラディウスは全く動きそうになかったからだ。
「イライラしている人はちょっと外で頭を冷やしてて下さいな」
仕方なく彼の腕を掴み、グイグイと扉の前に連れて行った。
「おいっ、ヒカリ?!」
抵抗しようとしたから、
「ラディウス」
真剣に名前を呼ぶ。
戸惑いつつも動きと文句を引っ込めるラディウスの瞳を見て、
「『愛してる』」
合図した。
ラディウスは口を噤むとじっとあたしを凝視した。
心配する視線を送っていたが、あたしはひたすらに『任せて』という意思を送り続けた。
眼差しに根負けしたのか、ラディウスは観念した溜息をつくと、
「終わったら言え」
と言い残し扉の向こうに消えた。
パタン、と扉が閉じると、部屋の視線が集まっているのを背中でひしひしと感じた。チクチクと胃が痛んだが、勇気を振り絞っで振り返り、視線を一身に浴びた。いまや全員が好奇の目を見張ってあたしを見ている。
胃がギュッと縮まったが、なんとか声には出さずに、
「ノルト、心置きなくお話しましょう」
言うと自席に戻り、ノルトを見た。
彼はまだ呆然とあたしを見ていて、
「まさか陛下を追い出されるとは、思ってもいませんでした」
と驚愕を隠せない様子だった。
「ヒカリ様の味方であるはずでしょう?傍におられた方が心強いのではありませんか?」
「そのとおりです。でも肝心の話が出来ないのであれば元も子もありません。あたしはノルトと話をしたいのです。それを邪魔するなら、こうするのが一番いい」
きっぱりと言うと、ノルトの顔が初めて好奇心を含んだものに変わった。だたの愚直で馬鹿な娘ではない、くらいの評価にはなったのかもしれない。
「……では改めてヒカリ様、ラディウス陛下を追い出してまであなたが言いたかったことをお聞かせください」
ノルトが冷静さを取り戻して言うと、あたしは改めて背筋を伸ばして心を引き締めた。
ここからが本番だ。
「先ほども言いましたが、あたしは腹の探り合いが苦手です。なので率直にお伝えします。王妃になるにあたり、あたしに何ができるのかは分かりません。あたしはラディウス陛下の妻になりたかった。ラディウス陛下の妻になることが結果として王妃になるだけのことで、それ以上の意味はありません」
ノルトは深く眉間にシワを寄せた。
「ならば王妃は“ついで”と言うことですか?」
固い声音に負けないよう、あたしは自分の中の勇気をかき集め、彼から目を逸らさないようにする。
「ついで、という表現が正しいのかはわかりませんが……。ラディウス陛下の妻という位置に、自然と王妃という肩書が付いてくる。それだけのことです」
「王妃としての責務について、重圧は感じておられないと?」
訝しんだ表情をしたのはノルトだけではない。多くの者があたしに怪訝な顔を向けていて、不信感を持ったようだ。
「いいえ。重圧はひしひしと感じています。実を言えば、酷く緊張しいなんです。今も油断すると手も声も震えてきます」
実際に、膝に置いている手は小さく震えている。あたしの根本は何も変わっていない。
自嘲気味に弱々しく笑うと、表情を引き締めて言葉を続けた。
「わたしの考え方や性格は、政治的な場や考えに向きません。ラディウス陛下からも『ヒカリには不向きな世界だ』と言われます。わたし自身もそう思います」
「到底、王妃などという立場には不釣り合いだと、自己評価されるのですか?」
「いいえ。あたしは一人じゃないので、やっていけると思います」
あたしはラディウスから言われた『無理をして欲しい』という言葉を思い出す。あのセリフがあるから今もノルトと向き合っていられる。ここに一人で座っていられる。
あたしにそんな勇気をくれるラディウスは、人のために頭を抱えて悩める人だ。あんにも苦悩しているのに、それを表に出さないから、ラディウスは誤解されがちだ。さっきも不機嫌そうにしちゃって……。
彼の顔も言葉も、あたししか知らないのはもったいないと、ずっと思ってた。悩める姿を勝手に話したら怒るかもしれないけど、ここに居る臣下の人には知っていてもらいたい。
ラディウスがどんな人かを。
「ラディウス陛下と婚約の話をした時、言われたんです。『政治の世界に不向きと知っているが、一緒に傷ついて、苦労して欲しい。ヒカリを助けてやりたいと思うの同じくらい、自分のことも助けて欲しい』と」
大半の者が大きく目を見開いて驚いていた。
あのラディウスからは想像出来ない言葉なのだろう。
「『ちょっと無理してくれ』と頼まれた時は嬉しかった。無理をしなくていいと言われるより、ずっとずっと嬉しかったんです。1人で挑もうとせず、頼ってくれたことに喜びを感じた。だからあたしはラディウス陛下の味方になるためにここは来たんです」
ここに居るほとんどがラディウスの味方じゃない。
一人でも多くが彼の魅力と努力に気がついてくれるように、あたしは手を貸すよ。
「彼の味方になって、悩んで考えて出した結論が、結果としてソルセリルのためになっていく。延いては《ひ》それが王妃としての道になっていくと、わたしは思っています」
ノルトは理解し難いあたしを呑み込もうとするかのように、好奇心と驚きの入り混じった目を向けていた。
「どこまで行っても、ヒカリ様はラディウス陛下のために動くのであって、自然とソルセリルがその後についてくるというわけですか――」
「はい」
「陛下への強い愛情は感じますが……ヒカリ様はラディウス陛下が最良の王だとお思いになりますか?」
不敬を通り越して謀反を企んでいるとも捉えかねない発言に、何人かが息を呑んだ。
この場には一番の腹心で王佐のヘルムートがいるというのに、こんな発言をするとは大したものだ。
でもこうやってはっきりと牙を剥いてくれる人なら、コソコソと暗躍はしないだろう。あたしはラディウスと分かりやすい犬猿の仲の彼を、嫌いになれないと思った。
「ラディウス陛下は名君というより覇王でしょうね。いかんせん、力任せなところがあるので。そう思いませんか?」
ノルトは同意を求められたことに少し驚いたようで――でも眉を動かすだけの変化に留まるよう――感情を自制していた。
返事がないことは想定していたので、
「ノルトの考える最良の王の定義が分かりませんが、少なくとも今のラディウス陛下は違うのでしょう?」
問いかけに対してノルトは沈黙を貫いた。
ここで明言するのは得策ではないと、さすがに思ったのだろう。
「あたしも今のラディウス陛下が名君とは思いません。ここに居る大半の方がそう思っているのでしょう」
ぐるりと見回すが、誰も彼も非難めいた視線を送ってこないから、そう感じてはいるのだろうと分かった。
「ラディウス陛下はつくづく人望がないらしいですね……。悲しいですが、これが現実です」
重い溜息をついて、暗い声で零す。会議内にポツンとあたしの声が響いた。
「国主という立場上、ラディウス陛下が命の危機に晒されることもあるでしょう。そんな時、一体何人が彼の前に立ち、守ろうとしてくれるのか……。この状況だと、あたしを含めてもきっと数人程しかいない……。ラディウス陛下は王として、まだその程度です」
あたしが堂々とラディウスの未熟さと至らなさを認めたためか、幾人かの眼差しが寛容なものに変わったのが分かる。
ただ恋にうつつを抜かすだけの女でないと、認識を改めてくれただろうか。
「それでもあたしはラディウス陛下の味方です。彼が王としてもっと認められるよう、尽力します。彼の傍で、彼とともに、彼のためと、延いてはソルセリルのために、あたしは命を燃やしましょう」
話し終えると、改めてノルトを見た。
「あなたはあたしに、王妃としての御心構えを伺いたいと言われました。これで答えになっていますか、ノルト」
尋ねると、最初と随分と目つきが変わったノルトがはっきりと頷いて、返事をくれた。
「はい。御心はよく分かりました。どうやら陛下は、相当な後ろ盾を得られたようだ。臣下としてお仕えし甲斐がある」
骨はありそうだ、と判断したのだろう。ノルトは意地悪そうな笑みを見せた。
その顔はヘルムートが何か企んでいる時の顔とよく似ていて、あたしは思わず苦笑いした。同種族でこういうところも近寄るものなのかな?
あたしはノルト以外に顔を向け、
「他にあたしに何か問いかけたい方はいらっしゃいますか?ラディウス陛下が退室している今が好機ですよ」
くるなら来い、と腹をくくって尋ねたのだった。




