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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
幸多き日々

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合言葉


 晩餐はラディウスの部屋のリビングに運ばれ、給仕さんがテキパキとお皿やフォークを並べてくれた。

 高級ホテルのルームサービスのようなもてなしだけど、これがラディウスの日常。ここでもいちいち給仕にお礼は言わない。

 準備が整うと2人きりに戻り、あたし達は会話を始める。晩餐はいつもフルコース並みの豪華さで、肉が嫌いなラディウスのため魚料理がメインとなることが多い。



「こういう食事もいいけどさ、たまにはあたしの家でも食べようよ。田岸さんと3人で食べた時みたいに」

「ああ、構わない」

「今度連絡とってみるね」

「ノボルはまだ家にきたことがないのか?」

「今のところは。手紙では『近々行く』って書かれてたけど。でも男の人の近々って結構遅いんだよね。実兄もそうだったけど」

「そういうものか?」

「そういうものなんです」

 

 今夜は野菜にスープ、メインの魚、パスタ、パン、食後のお茶。たまに唐揚げが出るらしいが、あたしはまだお目にかかってない。

「そういえば、唐揚げの賭けはどうなったの?」

「まだ1号店が出来たとは聞かんから、結果は出てない」

「春までには勝負がつくかな。せっかくだからさ、1号店が出来たら行ってみようよ。隠匿魔法使えば行けるよね?」

「大丈夫だろう」

「やった!楽しみが一つできた」


 ラディウスが沢山食べる所を見ながら、あたしはのんびりとお茶を飲む。

 この1日の終わりの時間が好きで、いつも頬杖をついてボッーとするのがお気に入り。

「そうだ、ヒカリに一つ提案しようと思っていたんだ」

 何回目かのパンのおかわりに手を伸ばしながら、ラディウスが言う。

 関係ないけどラディウスは食事の所作が綺麗。御両親から教育を受けたのか、国主だから身に付けたのか分からないけど、見ていて飽きない。掴んだパンを千切っているのを見ながら、耳だけ話を聞いている。

「領主達との婚約承認だがな、ヒカリは不快な思いをする場面があるといったが、それ以外でも戸惑うことがあるだろう。その時のために合図があればいいと思ってな」

「合図?」

「2人にしか分からない合図だ。何か取り決めておこう。何がいい?」

 うーん……突然に言われても何も浮かばない。

「助けを求めたら、ラディウスが援護してくれるってこと?」

「ああ。言葉を挟むか話題を変える。その場その場で対応は違うだろうが」

 それは――どうなんだろう。

「まるでラディウスの後ろに隠れるみたいで嫌だな……」

 気が進まない顔をすると、

「そこまであからさまなことはしない。飽くまで自然にだ」

「でもそんなことして、ラディウスの立場が悪くならない?気がつく人は気がつくだろうし」

「俺のことはいい。すでに渓谷並みの溝がある。これ以上深くなったところで底が見えないのは同じだ」

「もう……そんなこと言って――」

「事実だ」

 あまりにもきっぱりと言う様は、関係修復をラディウス望んでいないと告げていた。

 そこまで深い因縁なの?

 同じ職場でそれはどうかと思けど。

 あたしの野望も伝えておくことにした。 

「あたしはラディウスにもっと味方がいてほしいと思ってるの。少しでも臣下の人との間に立って、橋渡しができたらいいな、と思ってるんだから。ラディウスが余計に孤立しちゃうような事はしたくないよ」

「そんなことまで考えてたのか?」

 パンを食べる手を止めて驚いているけど、あたしはそれも役割だと考えていた。

 

 妻という形で城に入るあたしは、高官の皆さんから見れば目新しい大きな変化だ。関わりを持たざる得ないのなら、良い関係の方がいいに決まっている。

 あたしという波紋を投じることで波の向きが変わるなら、是非とも変化を起こしたかった。

 

「あたしはソルセリルの貴族や高官の人達にとって、新しい風だと思うの。流れを変えるならちょうどいい機会でしょ?」

「そうは言うがな、一筋縄ではいかないぞ」

「もちろん、簡単に変わるなんて思ってないよ。変化を望んで動くのはラディウスの迷惑にはならないでしょ?」

「迷惑ではないが……余計に首を突っ込むことになるだぞ?」

「あたしはラディウスの味方になるために城に入るんだもの。溝を深めてたら本末転倒じゃない」

 ラディウスは手を止めたまま、

「だがな――」

とさらに言い募ろうとした。

 でもここはどうしても分かって欲しくて、食い気味に、

「ねぇ、ラディウス」

 と彼の言葉を遮った。普段はそんなことしないから、ラディウスは思わず言葉を引っ込めた。

「心配して、守ろうとしてくれるのは嬉しいし心強いよ。でも、ラディウスはあたしにも『無理して欲しい』って言ってくれた。だから、やらせてよ」

 ラディウスはじっとあたしを見た。

 自分が言った言葉の責任をどうつけるか考えているのだと、あたしは思った。

「その無理は、ヒカリにとって負担にはならないか?」

「大丈夫。ラディウスの味方を増やすのは、あたしのやりたかったことなの。だから背伸びくらいできるよ」

 『無理して欲しい』と頼んだから、期待に応えようと頑張っているのではないかと危惧しているようだった。

 あたしはもう一押しすれば説得できると踏んで、

「ラディウスのためになることだから、あたしはやりたいの。だから近くで見てて欲しい」

 テーブルの端っこに置いてある彼の手を掴んで言った。

 ラディウスは静かに覚悟を決めたかように息を吐くと、自嘲気味に笑った。

「……難しいものだな……。自分が言った言葉にこうも悩まさせるとは……」

 握られていない方の手で額を覆うと、困ったように顔を歪めた。

「ヒカリに傷ついて欲しくないのに――守りたい気持ちと、一緒に戦って欲しい気持ちが同時に競い合って――どこで折り合いをつければこのざわめきが収まるのか……どうすればいいのか分からん……」


 真剣に考えてくれているからこそ悩む。

 あたしのために、今までしかなかった苦労をしてくれていると思うと、とてつもなく愛おしく思えた。


「ねぇ、そっちに行ってもいい?」

「ん?ああ」

 

 席を立ってラディウスの横に行くと、床に膝をついた視線を合わせた。この方がラディウスへの気持ちに誠意を示せると思った。

 2人きりの場だから、食事の席だぞとか、むやみに床に足を付くなとか、そんなお咎めは無しにしてほしい。

 

「今回はあたしに任せてみて。まずは婚約承認の席で、臣下の人達と向き合ってみるから。ちゃんと出来るか分からないけど、やるだけやってみせるから、見守ってて。ね?」

 同意が欲しくて促すように言うと、ラディウスは数秒体を強張らせた後、目を閉じ深くため息をついていた。 

 頼らないのかって呆れちゃった?

 だとしたら少し悲しい。頼らないわけじゃないと、ちゃんと言わないと。

 言葉を準備して待っていると、

「……その格好で小首を傾げるな。破壊力がある」

 全く違うことを言われた。

 

 え?破壊力?

 

 意味が分からず瞬きをしていると、

「こっちに来い」

 両手を取られ立たされると、腰を持たれて幼子のようにストン、と膝に乗せられた。ちょうど目線の少し下にラディウスの顔がくる位置で、今度はラディウスが上目遣いであたしを見ることになる。

「ヒカリと話している毒気を抜かれる」

 優しく笑う彼と目が合う。いい顔で、しかも笑ってそんなセリフを言われ、一発で射抜かれた。またクリティカルヒット。

「ヒカリがやったみたいなら、挑戦してくれ。俺は見守っていよう。ただし、どうしても対応できない時は助けを求めて欲しい」

「うん……」

「合図を決めておこう。今後も何かと役に立つだろうから。何がいい?」

 合図……合図かぁ。

「例えばどんな感じ?」

「声に出さない方がいい。もしくは、言葉にしても誰にも意味が分からない類の隠語がいいな」

「隠語……。なんかいけないコトしてるみたいね……」

「そんなことない。で?何がいい?」

「急に言われてもなぁ……」

 ジェスチャーは相手が見てないと意味ないから、言葉がいいな。

 でも意味を悟られない言葉か……。

 こちらの言語は一つしかないから、造語がいいのかな?でも考えるのが面倒い……。

「なら日本語にしたら?」

「ヒカリの母国語か」

「そう。みんな喋れないから意味は分からないでしょう?」

「確かにな」

「助けてほしい時は『助けて』、大丈夫って時は……『愛している』って言う」

 愛している《だいじょうぶ》は照れてなかなか言えないだろうから、隠語でくらいでは言いたい。

 日本語で愛してる、とは言い難くてもアイラビューなら言える。それと同じ。ラディウスには本当の意味は分からないだろうから、あたしだけの言い回しだ。

「『助けて』と『愛している』……」

 拙く言うラディウスの日本語は可愛くて、思わずにんまりした。

 ボイスレコーダーあればなぁ。今のたどたどしい感じを残しておけるのに……。

 

 何回か練習している声をご褒美のように聞きくと、

「それくらいなら聞き分けられそうだ」

 笑っていた。

 うぅ……可愛いかよ!


 でもそんなこと言ったら膝から落とされそうだから、

「覚えた?」

 とだけ聞いた。 

「ああ。今度の席で使わなければいいが……」

「そうだね。当日、あんまり喧嘩腰にならないでよ?」

「それは向こう次第だろう」 


 ラディウスはあたしを膝に乗せたまま残っていたパンを食べ始めた。

「重いでしょう。降りるよ」

 足を動かそうとしたら「このままでいい」なんて言う。

「言い訳ないじゃん。給仕さんがお皿下げに来るよ?」

「構わないだろう」

「いやいや……。びっくりして扉閉めちゃうって」

 お邪魔だったと焦るに決まってる。

「ならこのまま寝室に行くか?」

 膝と腰を持って立ち上がったので、思わず首に手を回してしまった。抱きかかえられたまま歩き出すから、

「ち、ちょっと!」

 大いに焦った。

「気鬱期の時は遠慮なしに入ってきただろう」

「え?やっぱり覚えてるの?!」

「うっすらとだけだ」

「嘘っ。添い寝したことも覚えてたじゃん!」

「またしてくれてもいいぞ」

 わりと真剣に言われたので、うぅ……と口をへの字にした。

「なんなら泊まっていくか?」

「…………何もしない?」

「保証はできない」

 あけすけな言葉に胸を小突きそうになった。

 やっぱりラディウスも男の人だ……。

「嫌か?」

「こっ、心の準備ができてないから……また今度――」

 顔を隠すわけでも視線を逸らすわけでもなく、拒否もしない言葉にラディウスはプッと笑い、

「ならできるだけ早く準備してくれ。さすがに婚約式の半年後までは我慢出来ない」 

 熱い視線で言われた。

「あぅ…………。か、考えとく……」

 変な言葉が出て下を向いてしまった。

 

 ラディウスは腰に手を回すとくっ、と力を入れ、

「そこも頑張ってくれ」

 笑った。

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