恐怖の理由
質問時間はそれからも続き、結構な人数から問いかけを受けた。
一番重かったのがノルトの質問だったから、
「領地を持つつもりか」
「慈善活動、社会活動への意気込みはあるのか」
「緊張を強いられる晩餐会、式典への参加意思はあるのか」
「国外からの賓客の相手ができるのか」
「世継ぎについて話し合っているのか」
「王位継承は世襲にするのか」
などなど、他の質問にはわりと答えられた。
多くが上がり性の性格を懸念した質問で、国外との架け橋役が担えるかを憂いているようだった。
あとは世継ぎ。
これはラディウスと話し合ってないから分からない。
王位継承権をどうするか、なんて先の話すぎて全く想像もつかない。
以前「多民族国家らしく世襲制にはしない」とラディウスが言ってたけど、ここで下手な発言をすると王が変わる度に内乱になる可能性が出てくるから、「話し合っていない」で貫き通した。
小一時間で質問は終わり、あたしは廊下で待つラディウスにやっと声をかけた。
寒い廊下に放置され続けたラディウスは非常に不機嫌そうで、組んだ腕の先で、指が忙しなくトントントン動いている。
「おまたせ、ラディウス。終わったよ」
あたしの声に、
「――随分と長かったな」
睨むような目と低い声で言った。こんな眼差を向けらるのは久々で、魔獣の森での彼を思い起こさせた。
「ごめんごめん」
軽く謝ると、
「その程度の軽い謝罪で済むと思ってるのか?」
また睨まれた。
心配を通り越して怒りになってると分かる。
「本当にごめんって。あとでちゃんと謝るから、今は中に入ってよ。みんな待ってるし」
ラディウスは盛大にため息をつき最後にひと睨みすると、しぶしぶ会議室に戻った。
ずっとイライラしたラディウスが傍にいたせいか、護衛のため扉の前に立っていた騎士の2人は二徹の夜勤明けか、というほどに疲労していた。
大変申し訳ない……うちのラディウスが――。
あとでこちらも労ってあげなきゃ、と思い、さっさとストレスの元凶であるラディウスを引き取ってあげた。
会議室に戻されたラディウスは、不機嫌オーラを抑えることなく臣下の前に姿を現した。誰がどう見ても怒っていると分かる吊り上がった目、真一文字の口、何より荒々しい歩き方。
前々からこの日のことを気にかけ色々と考えていたのに、結局力になれなかったとへそを曲げているのだろう。しかも尽力できなかったのは、助けたいと思っていたあたしが部屋から追い出したせいだ。そりゃこご機嫌斜めにもなる。
ラディウスの気持ちは分かるが、致し方ないのは分かって欲しい。あのままノルトとラディウスが睨みあっていては、ぜんぜん話が進まなかった。
話し終わった今となっては、ノルトの態度も表情も柔らかくなったし、他の臣下達も雰囲気が変わった。少しは味方作りに貢献できたと思ってる。
が、戻ってきたラディウスはこの怒りよう。すべてを円満に済ませるのは非常に難しいと痛感した。
あたしの視線は自然とヘルムートへ向いていた。彼と目が合ったけど、困ったように首を左右に振るだけだった。
――お手上げ、ってことかな……。
ラディウスは自席に着くと全員を見回した。退室前と臣下の表情が違うことには気がついたようで、
「随分とヒカリとの話を堪能したようだな」
そう言った。でも不機嫌は治らなくて、
「ヒカリのことが十分に分かったのなら良かった」
全然そうは思ったいなさそうな『良かった』だった。さらに、
「各々婚約に納得できたなら、この集まりは散開とするが、異論はあるか」
尋ねているのに異論を言わせない口調で、ギロリと全員を睨め付けるものだから、ちょっと暖まっていた部屋の温度は一気に低下した。幾人かの顔が陰るのが分かる。
そういう顔なんだよな……。
もうちょっと怒りを抑えて接してくれたら空気は違うのに。
しかし不機嫌になったのはあたしのせいだから、ここは責任を取るべきだよね……。
あたしはラディウスに歩み寄ると、
「ラディウス陛下。臣下の皆さんが怯えていますよ。心を落ち着けて下さい」
できるだけ朗らかに言った。でも、
「お前がそれを言うのか?」
誰のせいだっ、とばかりに鋭く見られた上、
「それにもともとこんな顔だ」
とあしらわれた。
あぁ……拗ねてる。仕方ないなぁ。
諦めず傍に寄り、
「陛下、あたしと臣下の方々の話し合いは恙無く終わりましたから、ご心配は無用です。打ち解けられましたよ?」
と笑顔を向けた。でもこれも効果なく、
「そうか。なら良かった」
言葉とは裏腹に、冷めたい声を返されただけだった。
ぜんぜん良くなさそう。
おまけにあたしを見ようともしない。
ラディウスは臣下の面々に向けて、
「このまま幹部会議に移る」
と明言した。反対意見はないようで、誰も異論は唱えず、
「婚約賛同の儀に足を運んでくれた者はご苦労だった。引き続き会議に参加する者はこのまま残れ」
退室する人がぞろぞろと扉に向かう中、ラディウスはあたしにも、
「そういうわけだから、ヒカリの出番はここまでだ。部屋に戻っていろ」
仕返しとばかりに言い渡してきた。
確かにあたしには関係のない話になるから出ていくのが正しいんだけど……そんなにツンケンして言わなくても……。
ちょっと前のあたしなら、きっとここで怒るか言い返してる。
でも今はラディウスの気持ちが分かるからそんなことしない。
彼は今、必要だと思っていた時に頼る機会を与えらなかったことを悲しんでる。このトゲトゲした気持ちのままじゃ、これから始まる会議に支障があるだろう。
ここは何か行動して、少しでも機嫌を直してもらわないと。
「ラディウス」
臣下の前だけど、あえて陛下を付けずに呼び捨てた。
ラディウスは退室しろと言った事について言い返されると思ったのか、
「なんだっ」
荒々しく張り返った。
「『部屋から追い出したのはごめん』」
急に日本語で喋ったから、ラディウスだけじゃなく全員が目をパチクリさせ動きを止めた。
「『そんなに拗ねないでよ。あんまり邪険にされると寂しい』」
皆から見えない位置で、こっそりと彼の袖を掴む。
意味が分からず呆然とする人が大多数の中、ラディウスだけは違って、あたしが何か伝えようとしていると理解し、口を噤んだ。
掴まれた袖。
急な日本語。
なんて言われたかは分からなかったろう。
それでも毒気を抜かれたようで、目から怒りが消えていた。
「……分かった」
明確に穏やかになった声にあたしはホッとする。
良かった。しょげていることは伝わったらしい。
「部屋にいってろ」
あたしは微笑みだけを返すと、呆然とする臣下の間を抜けて、会議室をあとにした。
「ヒカリ様」
このあとの会議に参加しないエッダが追いかけてきて、
「部屋まで付き添う」
自室の前まで一緒に歩いてくれた。
エッダは呼び方だけを『ヒカリ様』に変え、会話はこれまで通り気さくなままでいてくれる。
その方があたしも嬉しかったから、
「ありがと」
笑って返した。
「さっきはなんて言ったんだ?」
「ん?」
「あそこまで怒りを露わにした陛下を鎮めるなんて、度肝を抜かれたぞ」
エッダは好奇心に満ちた目をしていた。
「そうなの?」
「当然だ。他の者も唖然としていただろう」
確かに開いた口が塞がってなかった。
あたしは「なんて言ったかは秘密」としか答えなかった。
嘘を言うことも出来たけど、エッダにそんなことしたくない。それに本当のことはラディウスにしか言いたくなかった。
エッダはそれ以上の追求はしなかった。夫婦の約束事か何かと思ってくれたようだ。
自室の扉の前まで来ると、
「ラディウスの部屋で待っていたいの。昼食を一緒に食べたくて」
とお願いした。素直に聞き入れてくれ、ラディウスの私室まで送り届けると、
「イリサをこっちへ呼んでやる。勝手にここから出るなよ」
言い残して退室していった。
あたしは会議が終わるのをじっと待った。
イリサに手伝ってもらい、服はカジュアルなものに着替え――とはいってもコルセットを取ったくらいでビラビラしたドレスには違いない――ソファに座って、準備された昼食にも手を付けず、大人しくしていた。
昼を過ぎて午後の鐘が鳴り終わり、腹の虫が苦情をい始めた頃、やっと扉が開いてラディウスが戻ってきた。
「お疲れ様」
声をかけるとわずかに驚いて、
「なんだ、こっちにいたのか」
扉を閉めて服の襟を緩めている。
「一緒に食事しようと思って待ってたの」
「俺はまた会議がある。あんまりゆっくりはできんぞ」
すぐ隣に腰掛けてくれたけど、荒々しくドサッと座り、こっち見てくれない。言葉も冷たいところをみると、まだ少し怒っているらしい。
機嫌は完全には直らなかったか……。
ここまで怒らせたのは恋人関係になって初めてだ。手を握りたかったけど、振り払われるかもと考えると膝の上から手は動かなかった。
これは本格的に謝らないと……。
あたしは給仕のために部屋にいてくれたイリサに、
「ちょっと2人だけにしてもらえる?」
と声をかけた。
彼女は頭を下げると退室してくれた。
残されたあたしはラディウスに向き直り、
「――まだ怒ってるの?」
おずおずと聞いた。
ラディウスはふぅと息を吐くと、
「少しだけだ」
目を向けず、短く返した。
心は随分と静まったようだけど、怒りの塊は消えていないらしい。
「会議室を追い出したのはごめん……。だって……ラディウスはノルトと仲良くないんでしょ?口論ばっかりで話が進まなかったし、あたしも心が折れたわけじゃなかったから……ノルトを説得できると思ったの」
「俺とノルトの仲の悪さは今に始まったことじゃない。もう長らくあんな感じだ。互いに顔を合わせれば腹の探り合いだからな」
首元を緩めたラディウスは体の力も抜けたようで、ダランとソファに体を預けている。相変わらず正面しか見ておらず、目が一度も合わない。それが悲しかった。
「俺を目の敵にするノルトが、婚約者であるヒカリにいい顔をしないのは分かりきっていた。あの中で一番厄介なのがノルトだとは思っていたんだ。案の定、一番に口を出してきた」
「そうだね。あたしを試すような質問だったし。結構緊張したよ。目も雰囲気も怖かったし、明らかにいい感情を向けられてないってわかったから」
「だが、ヒカリは一人で何とかしてしまった。……しかも俺の見えないところで」
淋しげに言う声が切なくて、思わずラディウスの手を取った。
手は跳ね除けられなかったから、恐る恐る指を絡ませる。ラディウスも応えるようにあたしの指を握り返す。2人の指が一つになりたがっているように重なり、ギュッと握り込まれた。
「俺が退室したあと、どんな話をしたんだ?」
ここでやっとあたしを見てくれた。目は静かに虹彩が凪いでいるだで、懸念した邪険の色はなかった。それに安心して、あたしは少し体を寄せる。
「王妃になるにあたって、あたしに何ができるのかは分からないって素直に言った」
「それは……ノルトは相当は不機嫌になったろう?」
「うん。眉間のシワがすごく深くなった」
容易に想像がついたのだろう、「だろうな」と苦い顔をしていた。
「あたしはラディウスの妻になりいだけで、それに
王妃っていう肩書が付いてくるだけだって話したの」
ラディウスはゆっくりと1回瞬きすると軽く咳払いして、
「それで?」
先を促した。
「王妃になるのが“ついで”なのか、責務も重圧は感じてないのかって睨まれた」
「だろうな」
「そんな風には思ってないから……――その……話したの」
言い淀むあたしをラディウスは不思議そうに見返して、
「何を?」
「『ちょっと無理してくれ』って頼まれた時の事――」
「は?あれを喋ったのか?!」
まさか他人に伝わると思ってなかったラディウスは、驚きと困惑が入り混じった顔をして、脱力していた体をガバッと起こした。
「勝手に話してごめん」
また怒ったらどうしようと焦って、あたしは握った手に力を入れた。
これ以上不快な気持ちになって欲しくかなかったし、どんな気持ちで話したのか聞いて欲しくて、縋る《すがる》ように肩に触れた。
「ラディウスが頼ってくれたのが嬉しくて……無理しなくていいって言われるより、ずっとずっと嬉しかったから、それをみんなにも知ってほしかったの。ラディウスだって苦悩してるってことを、臣下のみんなに知ってもらいたかった。一人でも多くがラディウスの魅力と努力に気がつけば、味方になってくれるかもと思ったんだよ」
あたしはまくし立てるように続けた。
どんなにラディウスのことを知ってほしいか、支えてほしいと思っているか……どうしても伝えたかった。
「ラディウスの味方はまだ少ない。いざという時盾になろうとしてくれる臣下が少ないのは、王としてはまだ未熟な証だと、あたしは思ってる。だからあなたが王としてもっと認められるよう、ラディウスの傍で最善を尽くす、命を燃やす。そうやって動いていれば、それが王妃として力を尽くすことになる。延いてはソルセリルのためになる。それがあたしが考える王妃としての心構えだって、ノルトに話した」
一気に喋ってしまうと、全ての悪事を打ち明けたあとのように気持ちが空っぽになった。
「ラディウスにとっては言って欲しくないことも、見せたくなかった気持ちもあったと思う……。全部勝手に喋ったから――そこはごめんなさい」
罪悪感から素直に謝罪の言葉が出た。
しばらく黙ってあたしを見つめていたラディウスの反応が怖くて――怒るか呆れてしまうか嫌悪されるか――あたしは審判を待つ罪人のように俯き、緊張して言葉を待った。
「ノルトはなんて答えた?」
考えていたよりずっと優しい声に少し安心して顔を上げると、ラディウスと目が合った。
「肯定はされなかったけど、否定もされなかったよ」
そう答えると、
「だったら及第点だったんだろう」
また脱力して、ラディウスはソファに重く体を埋めた。
「……勝手に色々話したこと、怒ってない?」
怖怖尋ねると、
「まさか話されるとは思っていなかったから、驚いてはいる。怒りは……ないな」
困ったように肩を竦める姿にホッと胸を撫で下ろした。それを見て顔を歪めたラディウスは、
「そんなに俺が怖かったのか?」
そっと顔を窺ってくれる。
「そうじゃないよ。ラディウスが怖いんじゃなくて、嫌な思いをさせたかもって考えると………嫌で」
握りあった手を見つめながら、振り払われなかった手のぬくもりを感じる。この手が突き放されたらと考えると怖かった。
「ラディウスを助けるためにラディウスを傷つけて、嫌な思いをさせるのは違うから――。他人に知られたくない本音を勝手に暴露されて、ラディウスが怒って……もし嫌われたらって思うと………怖い。さっきも目も合わせてくれなかったから寂しかった……。手も振り払われたらどうしようって――伸ばすのに勇気がいった」
話しているだけで心が裂けそうだった。不安を拭い去りたくてギュッと力を込めて確かな温かみ掴もうとする。
「たくさん勝手なことをしたから、愛想を尽かされたらどうしよう、って……。でもそうならなかったから、安心したの」
避けられなくて良かった。
拒絶されなくて良かった――。
「すまない」
謝罪と同時にフワッと抱きしめられた。
男性にしては華奢なラディウスはやっぱり男の人で、あたしは大きな胸の中に収まってしまう。
「不安にさせていたんだな……。てっきり怒っている俺に怯えているんだと思っていた………」
「違うよ……。ラディウスのことは怖くない」
あたしは腕を回して抱きしめ返したかったけど、男性をハグするには足りなくて、仕方なく服を掴んだ。
「さっき日本語でなんで言っていたのか、聞いてもいいか?」
耳元で酷く優しく聞かれると、応えない訳にはいかなかった。
「部屋から追い出したのはごめん。そんなに拗ねないで。あんまり邪険にされると寂しい」
素直に翻訳してあげると、胸の中に閉じ込めるようにさらに抱きしめられる。顔がラディウスの胸に押しつけられ、ラディウスの匂いに包みこまれた。
「――すまない。もうしない」
また謝罪されると、心の澱がすうっ消える。やっと力が抜けて息ができるようになった気がした。
「あたしが臣下に話したこと、怒ってない?」
「ああ……。ヒカリはよく立ち向かった。あのノルトをよく黙らせた」
「うん……」
「よくやった――」
「うん……」
ラディウスに包まれているとどうしようもなく言葉以上のご褒美が欲しくなって、あたしは胸の中でごそっと動くと、彼の唇に唇で触れた。
まさかあたしからキスされるとは思ってなかったのか、ラディウスは驚いていたけど、すぐに応えて髪に手を入れゆっくり撫で、味わうようにキスを返してくれる。体がとろけそうなくらい、あたしは喜びに包まれる。
長く続いた口付けが終わると、泣いてしまうくらいの優しい笑顔を向けられ、
「もう怖くないか?」
「うん」
頭を撫で続けてくれた。またラディウスに体を預けて幸せの余韻に浸っていると、
「実はな……あの後の会議は少しやりやすかった」
あたしが退室した後のことを教えてくれた。
「具体的に何が違ったのか言葉にできんが……いつもより意見が多く出たな、反対も賛成も。議論になることはあっても口論にはならかった……からか?全体的に建設的な話し合いだった」
「そっか」
「あれもヒカリのおかげなんだろう」
「そう……なのかな?」
自信はなくておずおず返すと、
「助かった」
また笑顔を向けられる。途端にギュゥゥッと胸が締まり、堪らずラディウスの胸に顔を埋めた。
駄目だ………これ以上その笑顔を見てたら完全に溶ける……。
話題を逸らしたくて、あたしは会話の糸口を探した。何かないかと記憶を探っていると、あの気の毒な騎士2人のことを思い出した。
お詫びの件を聞いてみようと、
「ねぇ、騎士の人には会ってもいいの?」
「騎士?」
唐突な会話の変更に、抱きしめていた力を弱めてあたしの顔を覗きんだ。
「会議室の前に立ってた騎士がいるでしょ?外を警備してくれてた2人だよ。ラディウスがずっと不機嫌でいたから、すごく疲弊した顔してたの。あたしのせいだから、お詫びしようと思って」
「どういう意味が分からん……。俺が何かしたのか?」
「ラディウスがっていうか、あたしがしたというか……。とにかく、騎士にちょっとした差し入れしたいの。どうすればいい?ヘルムートに聞けば分かる?お詫びの品はクッキーとかでいいかな?」
材料はあったはず、と頭の中では家の棚を思い出していると、
「まさか作るつもりか?」
両肩を掴まれてベリッと引き離された。
もう少しさっきの態勢でいたかったから残念……。
それにしても、なんで顔色変えてるのかわからない。
「えっ?そういうのしないほうがいい?王族がそういうのしないのが礼儀作法として正しい?」
「………そういうわけじゃないが」
「ならいい?」
「………………個人的な礼、ということだろう?」
「そうそう。うちのラディウスがご迷惑おかしました、っていうお詫び」
ラディウスは何故か難しい、というか、複雑そうな顔をしてしばらく考えていた。
何をそこまで熟考するのか理解できず、
「なに考え込んでるの?」
「………………いや。複雑な心境だと思ってな」
「複雑?」
「ヒカリが妻として詫びをしたいと考えいるのは嬉しいんだが、手作りの物を渡すのが気に食わない」
……なにそれ。また嫉妬?
じっと顔を見ると、はにかむように視線を逸らされた。こんな反応、見たことない。
「手作りお菓子を渡されたくないってこと?」
「………………まぁ、そうなる」
可愛いかよ。
あたしはニヤニヤしてしまい、
「なら、街で売ってる小物にでもするよ」
笑ってまた抱きついた。




