ラディウスとグスタフ
冬の冷たい雨が降っていたこの日、ラディウスは自身の執務室でヘルムートと共にグスタフを待っていた。
彼と会うのは謹慎処分を言い渡したあの実戦訓練以来、実に4ヶ月ぶりだ。
あの一件以降、グスタフのおかしな行動は一切なく、仕事も真面目に行っているとの報告しか聞いていない。
(ヒカリに関連する事柄から一切引き離していたのが良かったのか、目をつけられたから大人しくしているのか――)
グスタフは根っからの武人だ。
ドワーフと翼人の子という珍しい出自の彼は、幼少の頃から何かと蔑まれて育ったせいか、力への拘りが強かった。体術、武術を磨くことだけに励んできた彼が武人になるのは必然であり、ラディウスと初めて会った戦場でも武芸をあらん限り発揮していた。その時は敵陣営にいたが、その才覚は目を見張るものがあった。
だから声をかけた。
「お前、強いな。どうだ?俺の元へこないか?」
とどめではなく、勧誘の言葉をかけられたことに大層驚きつつも、グスタフは二つ返事で配下につくことを承諾した。
あれから30年あまり。
グスタフの忠誠が揺らぐことは一度もなかった。エッダやヘルムートとも大きな衝突なくやってきた。そんな彼に何があったのか。
(グスタフの心根をじっくり聞かせてもらう)
グスタフは指示通りの時刻にやってきた。
記憶にあるグスタフと同じ顔であるはずなのに、そこに立っているのが内通者かも知れないというだけで、全くの他人を見ている気分になる。
ラディウスが座るイスの眼の前まで来ると、幹のように太い足を止めた。
「久々だな、グスタフ。健勝だったか?」
労いの言葉から始まるなどこれまでなかったせいか、グスタフは顔をしかめた。
「会うのは4ヵ月ぶりか?随分と空いたな。戦時中でもここまで会わないことはなかったのに」
「……そうだな」
「謹慎明け後も仕事には熱心に取り組んでいたようだな。助かる」
「怠ける理由にはならんからな」
「そうか……。変わらず武人然とした考えだな。忠義に厚い」
ひどく回りくどい話の切り出し方に思えたのか、グスタフは訝しい表情をした。
「忠義に厚くはないだろう。そんな奴は陛下の不興を買って謹慎なんぞくらわん」
グスタフにしては珍しく、随分と楯突く言い方だ。
「率直に聞くが、要件はなんだ?俺は頭がねぇから回りくどやり方は好きじゃねぇ。知っているだろう?それとも温かみにうつつを抜かし過ぎて、そんな事も忘れたのか?」
何にとは明言しなかったが、グスタフがヒカリのことを言っているのは明白だった。
ヘルムートは主に対してあまりにも言葉が過ぎると思い顔をしかめ、
「グスタフ――」
言い差したが、すぐにラディウスが片手を挙げて制した。
「ヘルムート、少しグスタフと2人にしてくれ」
グスタフを見る強い眼差に、ヘルムートは恭しく頭を下げると何も言わず退室した。
2人きりになると、窓に打ちつける雨音はさらに音を大きくした。雨足は同じはずなのに、やけに部屋に響いて聞こえる。やがて雪のなるこの雨は肌を刺すように冷たく、寒く感じられた。冷気を伴う陰鬱な湿気は室内にも漂って、執務室を重く包んでいる。
そんな空気の中、ラディウスは揺るぎない眼差しでグスタフを見据えたまま、
「ヒカリの事で、あの実戦訓練でグスタフがとった行動の真相を聞きたい」
本題を始めた。
グスタフは表情を変えることなく答える。
「真相なんて大層なものは何もない。言っただろう?俺は頭がねぇから深い考えなんてねぇ」
「だが俺にはグスタフの行動理由が読めない。お前は忠義に厚いだけでなく、部下に心を傾け、心情を汲み取る奴だ。武人としての理想自己も明確にあり、軍部の長に申し分ない人材と言える。そんな奴が、ほとんど魔力のない女の危機を見過ごそうとするはずがない」
ラディウスの目はどこまでも強く光っており、腹を割った話し合いをする心積もりなのだと分かった。
ヘルムートを退室させたのも、最初に労いの言葉をかけたのも、建前を抜きにした重要な話し合いをすることを強調するものだったと知る。
「大袈裟でなくとも、グスタフなりの理由があるはずだ。それを教えろ」
「……そういう単刀直入な物言いは変わらないな。そんなところまで消えてなくて、安心したぜ」
「どういう事だ?」
今までの自分が消えている、ともとれる言い方に、ラディウスは眉根を寄せた。
「気づいてないのか。自分が変わっていることに?こんなにも城で噂をされ、紙面からも他国からも話題にされているのに?」
最近よく言われることだ。
ラディウスとて、噂を全く知らないわけではない。これだけ周りが騒げば嫌でも耳に入るというものだ。
「確かにあんたは変わった。表情も言葉も、声の温かみまでもな。30年側にいる俺でなくとも、一目瞭然でわかる変化だ」
「最近よく言われるが……。俺には全く分からないんだが」
「それだけ自然に受け入れられてるってことだろうが」
たしなめるように言うと、グスタフは話を続けた。
「あんたが変わったきっかけは明白だ。ヒカリなんだ。アイツが来てから全てが変わった」
ここで初めてグスタフの顔が変わり、陰りを見せた。
「ヒカリがいるとあんたはどんどん変わる。それが見てられん」
「――それは俺を見限るということか?」
抑揚のない言い方は、それだけでラディウスの静かな怒りを現している。
グスタフは怯むことなく――しかし主の信頼を損なった落胆を感じつつ――呟いた。
「……――いや、少し違う」
そう言うと、グスタフは一端言葉を切り難しい顔をした。彼なりに自分の中を整理しているのだと思え、ラディウスはじっと待った。
部屋は異質な空間になってしまったかのように、重い呼吸を繰り返している。窓を打つ雨音もまた同じで、一つの意思を持っているかのように冷たく窓を叩き続けていた。
やがてグスタフは、
「俺は頭で物事を考えるのは苦手だ。だから感じたままに話すぞ」
重い口を開いた。
「ああ、それで構わん」
グスタフはラディウスの向かいのソファに腰を下ろすと大きく開き、腿の上にドカッと腕を乗せた。腹をくくったのだろう、身を乗り出して一つ大きな嘆息をつくと、長い話を始めた。
「腹蔵なく言うとな、全ては俺の問題だ」
「……どういうことだ?」
「俺の理想はずっとあんただった、ラディウス。30年前、敵として出会ったあんたを見て、俺は衝撃を受けた。強大な魔力と魔法。堂々とした態度で戦場を席巻する姿、自信に満ち溢れた表情。敵陣に居ながらも、それは眩しく俺の目に映った。
まさに俺が目指していた理想で憧れの姿だった。しかも敗北した俺を懐に入れようと声をかけてきやがった。人格も人望も俺より余程上だと感服した。だから思っちまった。『俺はこれほどの高みにはいけない』ってな。だからラディウスの下についた」
当時のことはラディウスとて覚えている。
闘い方が目を見張るものがあったので、純粋に『引き入れたい』と思ったに過ぎなかったが、二つ返事で承諾したグスタフの心情までは知らなかった。
「それで?」
「配下に下ってしばらくした後、酒の席でこの話をしたらヘルムートから言われた。
『すべての理想をラディウス様に託したんですね。親が子に自分の夢を託す感覚に似ているのかもしれません』ってな」
「夢を託す……」
「子供がいねぇ俺にはよく分からんが、頭のキレるヘルムートか言うならそうなんだろう。ラディウスに武人としての理想の姿を託して、叶えてもらうことで達成感を得ていたんだろうさ。だが、それでよかった。俺に不満はなかった。
――ところが全てが覆った。屋敷でヒカリがラディウスを負かしたあの日から」
ラディウスは顔をしかめる。やはりきっかけはそこか、と感じた。
主を変えたヒカリの印象は『魔力のある者を殺す力』を持つというだけで良くなかったのに、グスタフの中でどんどんと悪くなった。
嫌なものを見るかの様に顔を歪ませると、グスタフは吐き捨てる様に話を続ける。
「初めてラディウスが敗北した。それも魔力がほとんどない人間の娘に。それだけじゃねぇ。反論も意趣返しもせず、あっさりと謝罪を受け入れたことも衝撃だった。昔のあんたなら考えられねぇことだ」
「……――それが気に食わなかったのか?」
肯定も否定もせず、グスタフはラディウスに一瞥を向けただけで、話を続ける。
「しかもそれ以降、表情も態度も変わっちまった。朗らかになって、あまつさえよく笑うようになった……。『俺の理想で憧れだった主が腑抜けていく』と………そう思った」
それだけでも不快だったが、さらに悪いことにヘルムートとエッダもヒカリに好意的だった。
ヘルムートはヒカリの非魔法付与薬や容器の開発に賛同し共に研究した挙句、その功績を褒め「この国に必要」とまで発言した。
エッダは当初グスタフと似たような態度だったが、魔獣の森の一件以降、接し方が柔和になった。
弓の練習にも熱心に付き合い、外出時の付き添いも承諾した。きっと亡き妹と姿を重ねているのだろうと予想はついた。
自分以外の者がヒカリを受け入れている。
その事実はグスタフの深層心理に波紋を打った。
静かだった心の水面に投じられたヒカリという石は、波となってどこまでも際限なく広がった。
グスタフはそれを鎮めたくて、ラディウスを負かしたヒカリを自分の『理想』と考えられるか試した。
「ヒカリは、自分の力がまだ嫌いか?」
その問いに対し、授かった力を「好きになれない」「自分を守るためにしか使いたくない」と答えた。
持てる手段は使えと言っても「人には向けたくない」と言い切ったヒカリは、グスタフの理想とはなり得なかった。
ラディウスは腑抜けになり、新たな理想とする者は表れなかった。
それだけでグスタフの世界は色をなくし、音をなくし、灰色になった。愛剣が錆びついていくような感覚だった。
「結局、俺の理想像はどこまでいっても戦場で活躍していたあのラディウスしか居なかった――。そうなると、いよいよ俺は不安定だ。自分の感情の芯が無くなって腰抜けになっちまった……」
グスタフは気落ちした眼で一心に床を見つめ、そう語った。
すっかり毒を抜かれた顔は、これまでの武人然とした彼からは想像もつかない姿だった。
「グスタフ、だからお前は憂さ晴らしにあんなことをしたのか?お前の中の理想の俺を崩したヒカリを葬ろうとしたのか?」
静かな怒りを乗せた言葉は、空気を伝ってグスタフを刺しにきた。振りしきる冬の雨より、よほど冷たい声だった。
それを甘んじて受けるように、グスタフはひたすらにラディウスから目を逸らさず見つめ返す。
「そもそも見殺しにするつもりはなかった。すぐ救命に体が動かなかったのは本当だがな」
あっさりと言ってのけたグスタフは、もう何も包み隠すものはないという顔をしていた。
見殺しにするつもりはなかった。
あまりにも淡々と言うグスタフに、内臓がざわめくような怒りが湧いてくる。
自分の中の冷ややかな『アイツ』がまた顔を覗かせた。
――やはり傷つける意思はあったんだ。
――見殺しにするつもりはなかった、なんて嘘に決まっている。
――間違えばヒカリは死んでいた。
――ほら、分からせてやれ……。
ニタリ、とソイツが口の端を吊り上げ不敵に笑う。
いや、待て。
すぐに冷静な自分が『アイツ』を制する。
――彼の眼に偽りはない。
――そのまま真意を聞き出せ。それからでも遅くない。
鋭くグスタフを睨みつけたまま、ラディウスは今ならどんな質問にも答えそうだと踏んで、尋ねる。
「最後に聞くが、ヒカリにそんな意趣返しをしてなんになる?何が変わるんだ?」
「俺の中のお前を失わずにすむ。ここでヒカリをどうにかできれば、俺の中のあんたは死なない。漠然とそう思った」
グスタフはそう答えると、
「……なぁ、あんたは慰霊祭で壇上に立った時の事を覚えているか?」
そう問い返した。
「慰霊祭?」
「あの時、どれだけ民衆が騒いだか覚えてないのか?」
ラディウスは記憶をたぐる。
確かにいつもより歓声は大きような気がしたが、特別なこととは感じなかった。
「特には。例年通りだったが?」
そう言うと「やっぱり気がついてねぇんだな」と乾いた笑いを漏らした。
「あの時、あんたは笑ってた。嬉しさと幸福を絵に描いたような笑いだった。それを見て、いよいよ思った。『もう取り返しはつかないんだ。ここで止めねぇと』って」
理想とはかけ離れた表情を見た瞬間、暗く底のない大きな穴に落ちた気がした。
ラディウスが死ぬ恐怖ではなく、理想とする姿が形を変え、消えてしまう恐ろしさが深く根付いた。自分の憧れを得体の知れない怪物がかぶりつき、食い散らかしていくのを見ているような恐怖心だった。
「ヒカリがいるとあんたが変わる。俺の理想とするあんたが消えちまう恐怖があった。理想を失うのは心が痩せ、枯れ果てるのと同じだ」
「――ヒカリを消したところで俺が理想から外れたままだったら、どうするつもりだったんだ?」
「……分からん。そこまで考えてなかった。ただ、俺はヒカリを見殺しにするつもりはなかった。それだけは本当だ。サラマンダーとやりあっている姿を見ていた時も、何も感じなかったわけじゃぁない。ろくに戦えもしない奴が懸命に挑むのは、痛々しくあった。それとは矛盾して体はなかなか動かなかったがな……。残忍な俺が満足感を得るのを待っていたのかも知れねぇ……。もう暴れ出さないように――」
口を噤むと、グスタフは一片の後悔もないと言わんばかりの真っ直ぐな眼差しでラディウスを見据えた。
「俺が話すことはもう何もない。これが全部だ。どうだ?俺をどうする、陛下?」
つかえていた澱を吐き出したかのように、鬱々とした顔は消えている。むしろ少し笑んでいた。
「ここで俺を叩き切るか?それともこの場で自害しようか?好きな方を言ってくれ。俺は従う」
両手を大きく左右に広げ、斬るなら斬れと言わんばかりだ。
途端に『アイツ』が大きく笑った。
――殺してくれと言っている!
――本人が望んでいる!
――自害なんてさせるか……。
――ここでケリをつけてやる……。
手が腰の剣に伸び、グリップに触れる。
握り慣れた愛剣は自身の身体の一部のように手に吸い付く。
一度抜き去れば、手を止める自信はなかった。血飛沫を上げるグスタフがありありと目に浮かぶ。
彼はそれでま満足そうに笑い続けるだろうと思えた。
主に粛清されるなら本望と言うだろう……。
――なら良いじゃないか。
殺したいと『アイツ』の気持ちがはやる、騒ぐ。
ラディウスの一部だが、決してラディウスの本音ではない『アイツ』がウキウキしているのが分かる。
ラディウスは『アイツ』が好きではない。
血ばかりを求め虐殺を楽しむ『アイツ』を喜ばせたくない……。
ラディウスは眉間の皺を深くして、『アイツ』に話しかけるようなつもりで言った。
「なぜそんなことをしなくちゃいけない?」
主の葛藤など知らず、グスタフは答える。
「俺はあんたの忠義に背いた。4ヶ月経ったとは言え、俺の不義が分かったんだ。明確な殺意がなかったにしろ、あんたが惚れた女を痛めつけ、瀕死にさせたのは事実だ。粛清がいるだろう?」
――そうだ、その通りだ。
――忠義に背く者には罰を……
――血と命での粛清を……!
高らかに叫ぶ『アイツ』を押さえつけ、
「死で償う必要はない」
『アイツ』とグスタフにそう告げた。
――なぜだ?
「なぜだ?」
目を剥き同じことを言う『アイツ』とグスタフに、ラディウスははっきりと本音を伝えた。
「背信だと思っていないからだ。お前は自分の心根に従った。誰かに指示されたからでも、他の主君に心変わりしたわけでもない。そうだろう?」
「……まぁそうだが――」
「ならそれは背信ではない。俺の中でグスタフの信頼は揺らいでいない」
「そんな馬鹿な」
納得できないと不満声をしたグスタフに、「本当だ」とさらに話を続ける。
「俺が知りたかったのは、グスタフが内通者でない、という点のみだった。話を聞いてそうでないと知れた。お前は裏切っていなかった。変わらず俺の本当の味方だった。だからそれでいい」
「内通者?」
初耳の言葉にグスタフの顔色が変わる。臣下の中でもヘルムート以外にこの話をしたことは一切ないので、無理もない。
「ずっと国内の情報が他国に漏れている。大元は元アザルスの没落貴族と分かってはいるが、他にも内通者がいて、ヒカリの情報が流出している。すでにヒカリは二度命を狙われた。兄であるノボルにも危害を加えられそうになった。どちらも高官や側近しか知り得ない情報を元にしているが、どうにも尻尾を掴めん。口惜しいが、敵の方が上手だ。俺達が後手に回っている」
「……だから俺を疑ったのか。ヒカリを瀕死に追いやったから――」
「ああ。できれば俺もヘルムートも疑いたくはなかったがな、仕方なく」
「エッダには知らせているのか?」
「いや……。エッダは恐らく違うと踏んでいるが、まだ話してはいない。疑っているのがグスタフだと知れば、エッダも心が痛むだろう。お前を父のように慕っているからな」
「そうか……」
「まぁ、お前の嫌疑が晴れたから、すぐにでも伝える」
ラディウスは厄介な仕事をなし遂げたと言わんばかりの顔で、盛大に息を吐いた。
一つ可能性が潰れたが、そうなるといよいよ怪しい者がいなかった。
(またイチから探し直しだな……。グスタフとエッダを加えて内部を洗い直すしかないか――)
次の行動を考え始めたラディウスだったが、呆然と主を見ていたグスタフは一人驚きを感じていた。
(今日は随分と裏の背景を話したな……)
内通者と疑った理由、現状の問題点、何より「口惜しい」「やりたくはなかった」との感情。
以前は「王がおいそれと内面を見せられるか」と、思考の道筋や自分の心根をここまで明かすことはなかった。
(いつも端的に「やっておけ」としか言わなかったのにな……)
これまで『落胆』としか受け取っていなかったが、この変化に関しては喜びをもって受け入れている自分がいると気がつく。
なにより、身勝手な理由でヒカリを傷つけたことに対しても、諌める言葉だけでそれ以上の粛清をしなかった。「信頼は変わらない」とまで言ってくれた。「本当の味方」だとも。
(そういう慈愛のある懐の深さは変わらねぇのか――)
グスタフはラディウスの変化ばかりに気を取られ、変わらない部分を見ていなかった。
(冷徹で容赦のない部分が抜け落ちて、心明かすようになった。それだけなのかもしれん……)
もともとラディウスの根底にあった武人としの行動力や能力の高さ、堂々たる言動と揺るぎない精神は変わらない。そこに自己開示できるようになった心根の強さが加わる。それはさらにグスタフを惹きつける魅力にしかなり得なかった。
これまでの強さとはまた違う強さを得るラディウスが、目指すところに立っている。
その事実に気がつくと激しくそちらへ引っ張られ、グスタフの心は高揚し、興奮で胸が波立った。久々に生きていると実感できる血潮を内に感じる。
ラディウスは考えたよりも変わっていない。
そう思うと自分が息を吹き返し、世界は眩しくグスタフを迎え入れた。もうずっと感じていなかった明るさだ。
思えば鬱々としていた時も、グスタフが勝手に描いた理想像が汚されただけで、ラディウスへの信頼が揺らいだわけではなかった。
(ずっと狭い世界にいたのは俺なのかも知れねぇ……)
グスタフの中でラディウスへの忠誠心がまた芽を開く。この人のために真摯でありたいと、そのためにならどんな期待にも応えようと思えた。
「ラディウス陛下」
グスタフはソファから立ち上がるとラディウスの足元に片膝をついて頭を垂れる。
「寛大な御心を持って不問に処していただき、深く感謝する」
ラディウスは急に敬意を表され、驚いて臣下を見つめた。
「陛下の御心に添えるよう、詔命に背かず忠誠を誓うと、このグスタフ、改めて誓約する」
「――そうか」
ラディウスは臣下を見下ろす。
「お前の理想とする強さが本当に俺にあるのか――。生涯、俺の側で見続けて確かめてみればいい」
「――はい」




