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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
隠された感情

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3人の慰労会


 魔獣車で家に戻ると、すでに田岸さんは家にいた。あたしの不在時に家に入れるのは田岸さんの他にラディウス、ヘルムート、エッダしかいない。それを知ったのはつい最近。本当に色々な魔法がかけられているだな、と感心してしまう。


「ただいま」

「良かった。思ったより早かったですね」

 台所に立ったばかりらしい田岸さんは、まだ袋から食材を出しているところだった。

「無事に終わりました。とりあえず話は進みそうです」

「それは朗報ですね。祝い酒を買っておいて良かった。約束通り、お菓子も買ってきましたよ」

 大きい袋を見せられ、パァッと気分が上がった。こちらでは貴重なおやつに頬が緩む。

「あの、急遽ラディウスも参加するとになったんですけど、平気ですか?」

「ええ。でも材料が足りないかも……」

「家にある分があります。メニューを増やせば大丈夫でしょう」


 そこから手を動かしながら会議の内容を話し、夕飯の準備をした。小腹が空いたあたしはつまみ食いして空腹を紛らわせる。

 たまには日本食が食べたいね、との話になり、ハンバーグの他に天ぷらと唐揚げを作った。ソルセリル、というかこっちの世界では揚げ物って見たことないから、ラディウスは驚くかもしれない。

 

 誰かと料理をするのはこちらに来て初めてで、日本にいた頃でもほとんどなかったから、結構楽しかった。

「やっぱりお米が欲しいですよねー」

「確かに……。無性に食べたくなる時がありますね。カップ麺とか」

「ああっ!分かりますよ!ジャンキーな物が欲しくなるんですよね……。こっちってアッサリな物が多いから。缶詰は提案したんですけど……」

「缶詰?」

 

 グラータでのことを話すと、

「確かにこっちで缶詰は見た事がないですね……」

「非常食の定番なのに、賞味期限の問題でそういう認識ではないらしくて」

「それでグラータの要人含め、ラディウス達が驚いてたわけですか?」

「ええ。帰りの車でヘルムートさんから散々質問されました……」

 田岸さんは笑い、

「ならソルセリルでも缶詰が店に並ぶ日が来るというわけですね?」

「ええ、恐らく」

「ヒカリが食品業界にも旋風を起こすわけですか」

 そんなことを言い出した。

「旋風なんて大げさですよ」

「いやいや。今までだって相当な影響を与えているんですよ?」

 そう言われ、先ほどの会議中でのマルタさんの発言を思い出す。

「そうだ!魔力量が低い人達への支援が広がってるっていうのは知ってますか?」

 田岸さんは当然のように「ええ、もちろん」と言った。

「魔力量が低い人は私生活も社会生活も大変らしくて。魔法ありきの社会なので、仕事も魔法が使えることが前提なんです。ろくな仕事にありつけず、貧困になる人が多いらしいですよ」

「それで処遇改善とか医療費負担の軽減って話が出たんですね……」

「ええ。新聞にも載ってましたよ?」

「新聞あるんだ……。知らなかった………」

「街で売ってますけどね。今度持ってきましょうか?ヒカリは家に届けてもらうことできませんからね」

「ならお願いします」

 時事問題なんて誰かから聞かないと知れ得ないと思い込んでいた。こっちの世界について、あたしはかなり疎いのかな?

 


 辺りが暗くなる頃、ラディウスがやってきた。

 ちょうど準備が終わった時だったから、タイミングばっちりだ。

「良かった。そろそろ風話を送ろうかと思ってたの」

「そうか」

 ラディウスは卓上を見るなり、

「なんだか知らない料理が多いな」

 しげしげと見ていた。

「日本でよく食べてた料理だよ。揚げ物系ばっかりだけど」

「揚げ物……?」 

「たっぷりの油で食材を調理する方法ですね」

「ベチャベチャしないのか?」

「それは調理人の腕次第です」

「特に天ぷらはね」

 

 興味を引かれたラディウスは、食事が始まるとさっそく唐揚げを食べていた。

 肉嫌いのはずなのに、かなり美味しかったのか、言葉を失って唐揚げを見つめ、仰天している。

「これはなんて料理なんだ?」

「唐揚げだよ。子供も大人も大好きな定番の日本料理。レモンかけても美味しいけど、似たような果実がないんだよね」

「お酒によく合いますよ」

 田岸さんがコップに注いだのはビール見たいな発泡酒。

「止まらなくなるので注意して下さい」

「……そんな中毒性があるのか?」

 一口ずつ口にすると、すぐに納得していた。

「グスタフとエッダが好みそうだな」

「酒屋に出したらかなり人気になると思うよ?」

 そう言うと、

「ヒカリは食産業にも介入するつもりなのか?」

 田岸さんと同じようなことを言った。またあの呆れ顔をしている。

「別にしたくてしてるわけじゃないよ」

「缶詰だけでも相当な激震だったものを……。この料理も市民に受けるだろうがな」

「調理法は難しくないので、家庭でも簡単にできますよ」

「そうか……」

 ラディウスは少し考えると、

「これの作り方を紙におこせるか?」

 お屋敷でも出してもらうつもりらしい。

「なに?気に入ったの?」

「まぁな」

 素直に認めるなんて、よっぽど美味しかったんだ……。


「使用人の間で流行るかもな。調理法が簡単なら尚更だ。どれくらいの速さで広まっていくか見ものだぞ?」

「それは楽しそうだ。人気がでればすぐに店もできるでしょうね。唐揚げの第1号店ができるまでの期間を賭けますか?賭けの対象は……そうですね………1人金貨2枚分の食事なんてどうです?」

「いいぞ」

「金貨2枚分?!」

 日本円で考えると2万くらい。高くない?3人で6万じゃん!!

「高くないですか?!」

「賭けるならこれくらいじゃないと」

「そうだぞ、ヒカリ。賭けの意味がないだろうが」

 2人からそう言われ、あたしは渋面を作った。

「2人が賭け事好きなんて知らなかった……」

「好きってわけじゃないですよ?職場でたまにやるんです」

「グスタフやエッダと飲みの席でよくやったな。昔の話だが」

 そうなんだ。

 3人で酒場にいる姿って想像できない……。

「お酒飲むんだ、ラディウス」 

「たまにな。ほぼ付き合いだ。酔ったことはない」

「酔わないの?」

 酒豪だな……。

「鬼人は基本的に強いからな」

「なら、陛下との飲み比べはしない方がいいですね」

「ああ。確実に負けるぞ」

「覚えておきます」

「何やら盛り上がっているけど、賭けなんて本当にするの?あたしは嫌だよ」

「ならヒカリは無条件で奢られるほうでいいのでは?」

「え、さすがにそれは……」

「唐揚げを広めた功績の報酬ってことでいいだろう」

「そうですね」

 2人は納得してそう言うので、

「まぁ……納得してやるならいいけど………」

 そういうことになった。

「それで?唐揚げ店が出来たことはどうやって突き止めるんだ?」

 ラディウスがまともな意見を言った。

「街で噂になると思います。店の場所が分からなければ、ナビ魔法で見つけますよ」

「あっ、そうですね」

 あたしが納得すると、聞き覚えのない言葉にラディウスは、

「ナビ魔法?」

 首をひねった。

「道案内してくれる魔法だよ。こっちの世界ってお店に売ってる物が予想つかなくて、探しにくいんだよね」

 そう言ったけど、ラディウスはピンと来ないらしい。「どういうことだ?」とあたしを見た。

 王様は街に買い物いかないから、感づくものがないんだろう。 

「本が多い店なのに地図はないとか、食器はあるのにコップはないとか。意外にも野菜を売ってる店に包丁や皮むき器、秤があったりして、そっちの店かぁ!ってなるんだよね」

「お目当ての物を探すのが一苦労なんですよ」

「そこで活躍するのがナビ魔法!欲しいものを想像してナビ魔法を使うと、風が誘導してくれるの!便利でしょ?ほら、こんな感じ」

 あたしはコップをイメージして指を軽く振って、

「誘い」

 唱えると、小さな竜巻の様な風がふわりと形成される。その場でしばしじっとしていたけど、やがて動き出してコップが入っている棚まで導いてくれた。

「こうやって探してる物まで導いてくれるの。街だけじゃなくて、家の中でなくしたイヤリングとか書類を見つけるのにも、凄く重宝するんだよ」

「あれば便利でしょう?具体的に物をイメージしたら精度が上がると分かったんですよ」

「本の中でもレシピ本をイメージするって感じですか?」

「ええ、そうです」

「ますます便利じゃないですか!」

 2人で盛り上がっていると、おいてけぼりのラディウスは深く眉根を寄せて、

「…………お前達、また新しい魔法を考案したのか?」

 呆れたように言った。

 なんでそんなに渋い顔をしてるんだろ?

「これも新しいの?」

「今まで聞いたこともない。ノボル、職場では何も言われないのか?」

「特には……。だいたいこんな話しをしませんし」

「便利になるならなんでもいいんじゃない?」

 あっさり言うと、ラディウスは呆れ返った嘆息をして、「いいか?」と諭すように難しい顔をした。

「お前達が魔法を考案する早さは異常だ。ソルセリルに来て1年も経っていないのに、すでにどれだけの新魔法を編み出したと思っている?」

「……日本での生活を思い出して、便利だった機能や物を再現しているだけなんですけど――」

 田岸さんの言葉に、

「それが問題なんだ」

 ビシッと言った。

「そもそも、異世界の技術が高すぎる。ヒカリ達の話を聞いていても、末恐ろしくなるぞ」

「ラディウスがそこまで言うなんて、なかなかないよね?」

「だからおいそれと新しい魔法を他人に見せるな、と言っているんだ。俺だからこの程度の反応だが、ヘルムートや他の魔法師なら卒倒するぞ?」

 ヘルムートはきっと嬉々として質問してくるだろうと容易に想像できた。

 

 ラディウスは「まったく、お前達兄妹は常識がなさすぎる……」なんて言う。

 そもそもこっちの魔法常識なんて知るわけがないから、新魔法開発のスピードなんて分からない。

「ノボルは今の職場にいるより、魔法開発部に異動したほうがよほど稼げると思うがな」

 転職を勧められた田岸さんは、

「いえ、今の収入で充分生活できていますから……」

 即効で断っていた。

「今のところ、お前達が開発した魔法の数々はヘルムートが考案したということになっているからな。手柄は全部ヘルムートになっているんだぞ?」

「そこは承知の上ですから、問題ありません。謝礼も頂きましたし……。その金額だけでも震えましたけど……」

「謝礼を値切ったやつは、俺も初めて聞いたがな」

 あたしも同じ経験があるけど、大企業の年収よりよほど多かったので震え上がった。田岸さんが値切るのも頷ける。


 

 あたし達はそんな雑談をしつつ日本食を楽しんだ。

 結局ラディウスは唐揚げが一番気に入ったらしく、かなりの量を食べてた。

 グラータで食事した時も思ったけど、細身なのにすっごく食べるんだよね。単純にあたしの倍は食べてる。

「ラディウスって凄く大食らいだよね」

 今もパンに手を伸ばしてる。あたしはとっくに満腹なのに。

 

 その言葉を受けたラディウスは当然だ、と言いたげな顔で、

「それは魔力量が多いからだろう」

 魔力量?

「なんの関係があるの?」

「魔力量は生命力と同じだ。自然と魔力量に比例した体力になる。消費が激しいんだ。だからその分食べないと保たない」

「なにそれ?基礎代謝が高いってこと?」

「きそたいしゃ?」

「ああ、だからこっちに来てから食べる量が増えたんですね。どうにもお腹がすくと思ったら、そういう理屈だったのか……」

「田岸さんも心当たりがあるんですか?」

「ええ。レストランに行っても一人前が多いでしょ?ヒカリはよく残すか少量にしてもらってるじゃないですか」

「確かに」

 

 田岸さんと外で会うようになって外食する機会が増えてからと言うもの、ずっと思っていたことだった。

 こっちの一人前はお肉とかデザートの大きさがアメリカ並みだ。それでも足りずに追加注文してるひとが多い。みんな食事が好きなんだな、くらいにしか考えてなかったのに。

「あたしは魔力量が平均以下だから食べなくていいってことか……」

「ヒカリは随分と少食だからな」

「日本にいる頃と変わってないよ」

「なら、今日持ってきたお菓子は長持ちすってことですね。毎日食べても1週間は保ちますよ」

 さっき持って来てくれた紙袋を思い起こし、それもそうだな、と思う。

 お菓子と聞いたラディウスは、

「なんだ?ヒカリは菓子をねだったのか?本当に甘い物が好きだな」

 なんて言う。女子ならわりと普通だと思うけど。

「ねだったわけじゃないよ。今まで頑張ったご褒美なの」

「ノボルから貰うなら、これはいらないか?」

 ラディウスは空間収納魔法を発動させると、中から皿を取り出した。そこには……

「ケーキ!」

 見事なデコレーションケーキが乗っていた。フルーツもたっぷりで、しかもめちゃデカイアメリカンサイズ。

 

 田岸さんもこっちでケーキは初めて見るらしく、

「久々に見ました、ケーキ」

 と見入っていた。

「ちょうど要人が集まる会議があるからな。厨房に言って分けてもらった」

 分けてもらうというか、ワンホールあるから別に作った、の方が正しい気がした。ラディウスが頼んだなら、ワンピースだけ渡すなんてことにはならないんだろうけど。

「やった!お茶入れ直そうよ!」

 満面の笑みでお皿とナイフを取りに行く。それを見て、

「満腹なんじゃないのか?」

 と言われたけど、「デザートは別腹って知らないの?」と言い返しておいた。

 

 ケーキは凄く美味しくて、大きめにカットしたはずなのにワンピースをペロッと食べてしまった。甘い物が得意でないラディウスはかなり小さめの物を食べていた。

 残りは空間収納魔法の中に入れておけばいい、と電子レンジサイズの箱もくれた。中は拡大魔法がかけられていて、見かけよりずっとたくさん入る仕組み。やっぱり魔法って便利だ。

「ヘルムートが2人から聞いて作った試作品だ。冷蔵庫?だったか。また使用した感想が聞きたいらしいぞ」


  

 3人だけの慰労会は楽しくて、解散したのは夜遅くなってからだった。

 ラディウスとここまで長くいたのも久しぶり。あたしはお腹も心もホクホクで、しばらくはその気持ちが消えなかった。


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