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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
特訓

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リリナ

リリナ

 好奇心で目を輝かせたヘルムートに捕まると、物凄く大変。あたしはかなりの質問をされたが、もう日が暮れるのを理由に何とか解放してもらった。そして、

「田岸さんも呼んでくださいよ!そもそも田岸さんから聞いたんですからっ」

 彼を巻き込んだ。

「そう言えば補助魔法や支援魔法の助言も、ノボルから受けたのでしたね」

 あたしの実戦訓練のことを思い出し、愉快そうに笑うと、

「後日お二人から聞かせてもらいます」

 生き生きと言った。

 

 ……やっと解放された。


 真っ暗な中、辻車で家に帰るとぐったりした。進んで陛下2人の相手をするんじゃなかった……。

 これからはもう少し口を慎もう……。


           ◆


 それから数日後、今度はリリナから女王陛下がやってきた。こちらに来て初めての女王だ。

 あたしは謁見の前、隣に座っているラディウスに、どんな女王様?と尋ねたら、

「とにかく凄い」

「凄いって何が?」

「全部だ」

「全部?」

「とにかく全部。俺とは合わない」

 そうとしか教えてくれなかった。

 

 ラディウスがそんな事言うなんて……。どんな人なんだろう。


 

 ちょっとドキドキして待っていたら、入室してきたと同時に言っている意味が分かった。 

 ひと言で言えば、ブラジルでサンバを踊ってそうな女性。見かけはそんな感じ。

 ボンキュッボンなスタイル。短いスカート、惜しみなく露出させた胸と脚。そこから覗くこんがり焼けた肌、チリチリとクセの強い髪、はっきりした大きな目、常に笑いの形をした唇、真っ赤な口紅。年齢不詳。

 うーん……見るからにラディウスと合わなそう。

 

「あら!こんにちは!あなたがヒカリかしら?」

「は、ハイ……」

「お会いしたかったわぁ!」

 いきなりハグされた。香水のいい香りがする。

 ギュッと強く抱きしめられると、

「素敵な黒目と黒髪ね!生まれつきなの?」

「は、はい……」

「肌も白いわぁ!あたくしと大違い!」

「陛下も素敵ですよ……」

「あらっ!ありがとっ!」

 頬にキスされそうな勢いで、また抱きしめられた。

「そしてご機嫌よう、ラディウス陛下。相変わらず陰気臭い顔ね?」

「………………ご機嫌よう、カミラ・アウローラ•ペレイラ陛下。俺の事が見えていたようで何よりです……」

「あたくし、暗い殿方って苦手なのよね。ラディウスへいはいつも陰鬱でジメジメしてるわ」

 ラディウスにここまで言う人を初めて見たので、思わず、

「プッ……」

「………………ヒカリ。何か言いたい事があるなら聞くが?」

「い、いいえ……ラディウス陛下…………フフッ…………」

 

 陽気な女王カミラ・アウローラ•ペレイラ陛下は、ラディウスを恐ろしく思っていないようで、

「まずはその眉間に寄せたシワを何とかなさったら?そうでなくては永遠に取れなくなるわよ?」

 まるで気にせず話していた。

 その後も応接室であたしと美容の話やファッションの話ばかりして、まるでラディウスを相手にしない。

 

 

「夜会の前に王都の服屋を案内してくださらない、ヒカリ?あたくし、ソルセリルの衣装や流行は初めてなのっ!」

 本当にオシャレなんだな。

 でも仕事はいいの?陛下……。

「あたしもお店はあまり知りませんよ?」

「それでもよくってよ!一緒に回りましょう!」

 …………これも外交――なのかな?


 翌日、あたしはカミラ・アウローラ・ペレイラ陛下と共に色々とショッピングを楽しんだ。しかも全部経費。ヘルムートに「いいんですか?」と隙をみて小声で尋ねたけど、

「仕事の一つですから……」

 と苦い顔をしていた。

 カミラ・アウローラ・ペレイラ陛下は、

「あたくしの名前って長いでしょ?気軽にカミラって呼んでいいわよ、ヒカリ」

 お許しが出たので、カミラ陛下と呼ぶことになった。

 

 カミラ陛下はファッションセンスがすごく良くて、面白い組み合わせをしては鏡の前にあたしを立たせ、

「これは買いね。これはナシ」

 あたしに次々と服や帽子、靴、ブーツなどをあてがっては店員に渡していた。

「これからの季節、上着やコートもいるでしょ?」

 まだ店に出ていない冬物も店員に要望し、倉庫から引っ張り出させていた。

 さすが王族……。遠慮ない。

 でもお店の人は王族が買い物に来てくれたと大喜びで、満面の笑顔だった。

 

 

 2人あせて辻車2台分も買うと、

「あたしの家では全部収納できませんから……」

さすがにこれ以上は無理と思い、そう言った。

「あら?ヒカリは城に住んでいるんじゃないの?」

「別の家に一人で住んでます。その方が気軽なので」

 そう伝えると形相を変え、

「城に貴方の部屋をもらわないと!ヘルムートっ!!」

 まるで自分の臣下のように名前を呼ぶと、あたしに一室部屋を与えるようにキツく言っていた。

「あたくし、てっきりヒカリはラディウス陛下の隣に部屋を頂いていると思ってましたわ!」

「えっ……。どうしてですか?」

「あのラディウスですもの。女性をわざわざ傍に置くなんて、そうとしか考えられませんもの」

「いえ、ラディウス……陛下はそういう意味であたしを引き取ったわけではないので……」

「それでも小さな収納室しかないなんて!女性をなんだと思っているの?!まったくおしゃれを楽しめないじゃない!」

「いえ、あたしはそこまで――」

「ヒカリ、あたくしに任せてちょうだい!」


 

 カミラ陛下は買い物後、ラディウスの執務室に押しかけ、ラディウスと同じ階層にあたしの部屋を用意させるまでここから出ない、という強気な手段をとった。

 無言でソファに陣取り、じっと見つめること約1時間……。

 これにはさすがのラディウスもかなり苦い顔をしていて、

「分かりましたから、ご退室下さいっ!」

 と根負けし、早急にあたしの部屋は準備された。

 この日買った服も靴もコートも全てこの部屋に置かれることになり、あたしはクローゼットにしては大きすぎる一室を手に入れる事になった。

「これだからリリナは嫌なんだ……」

 珍しくぐったりとしたラディウスは、執務室の机で項垂れていた。



 そして夜会。本当にあたしの視察に来たんですよね?と言うくらい、3人の陛下は夜会を満喫していた。

 ニルス陛下、カールス陛下はダンス中もずっとあたしの魔法の話をしていたし、カミラ陛下は音楽なんて関係なく好きに踊っていた。しかも女性同士のダンスもオッケーらしく、あたしは3曲も付き合わされた。

「ラディウス陛下とは踊らないのですか?」

 4曲目に誘われた時、思わずそう尋ねたが、

「まさか!陰気な殿方は陰気な踊りしかしなくてよ?あたくしの好みではないわ!」

 と突っぱねる始末。

 それを聞いていたラディウスは苦々しい顔をしていだが、それ以上にリリナの臣下達が目も当てられない……、と言わんばかりに目を覆い首を振っていた。

 苦労しているんだな……。

 

 そんな感じで3ヵ国の訪問は幕を閉じた。

 かなり賑やかで慌ただしかったが、とてもいい気分転換になった。女性に振り回される珍しいラディウスも見られたし、あたしは結構満足した。

 

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