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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
特訓

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46/70

迂闊な発言


 リリナ。四方を海に囲まれた島国。

 ソルセリルから陸路で20日、海路で10日。国民は地 黒が多く、名物は魚介類。基本的におおらかな国民性で、争いごとは好まないらしい。やたらと祭りや国民行事が多いから、お祭り騒ぎが好きなんだろう。


 ネイブル連邦国。山が多い北の国。ユタルほど寒くなく、暖房に使う木を栽培、管理して成り立っている。建築資材の提供も圧倒的シェアを誇る。白髮、濃いブルーの瞳の国民が多い。

 

ユタル。北の極寒の国。

 食べ物、薪の確保が困難で、一冬に一定数の国民が亡くなっていたらしい。同じ北部にある国ということで、ネイブル連邦国との関係が親密になって以降はかなり減り、以降公私関係なく親しいのだとか。

 両国とも雪がない時期の方が少ないから、他国を訪問するのは限られた期間になる。夏の終わりが近づいてきた今がぎりぎりのタイミングということだ。


 3か国とも挿絵があったから、なんとなく雰囲気は分かった。リリナは普通に行ってみたい。バカンスをエンジョイしたい。

 ネイブル連邦国とユタルは……夏なら行きたい。

 ……なんだか旅行ありきで考えてしまう。


 3ヵ国ともソルセリルとの積極的な国交があるわけじゃない。公式訪問はソルセリル建国の時、召喚者達の処遇を決める時の2回だけ。今回の訪問は表向き、友好を深めるという実に曖昧なもの。本当にあたしの事をただ見に来るだけなんだな……。



 先に到着したのはネイブル連邦国とユタル。公私ともに仲良しな2国は、同じ馬車でやってきた。そんな事ある?

 しかも容姿も似ていた。ネイブル連邦国、ニルス国王。口髭に色白、国民の特徴である白髪、ブルーの瞳が綺麗。お腹ポッコリ。

 ユタルのカールス国王。色白肌に口髭、ブルーの瞳、明るい茶髪。お腹ポッコリ。

 寒い国の人は口髭が普通なのかな?

 2人とも50代半ばという風貌で、いかにも王様って貫禄がある。

 

「ラディウス陛下、お久しゅうございます」

「しばらくぶりですね、ニルス陛下」

「貴殿とは建国祭以来ですかな、ラディウス陛下」

「ええ、カールス陛下」

 身長、体格、声まで似ていて、兄弟かと思ってしまう。

「それで、そちらが……」

 2人がラディウスの横にいるあたしを同時に見る。

「はい。召喚者のイセ・ヒカリです」

 ラディウスから紹介され、

「お初にお目にかかります、ニルス陛下、カールス陛下」

 あたしはドレスの裾を持ち上げて頭を下げた。だいぶこういう作法にも慣れてきた。

「思ったよりお若いですね」

「ええ。黒目黒髪とは珍しい。あちらの世界では普通なのですか?」

「そうですね、わたしが産まれた国では普通です」

 頼むからいっしょに喋らないで……。どっちがどっちか分からなくなる……。

「そうですか。珍しいお色だが、夜空を切り取ったようで美しいですね」

「ええ、確かに」

「ありがとうございます」

 やっぱり王族は女性を褒める……。ラディウスからは一度もないけど。


 ずっと城の前で話していたので、ヘルムートが「ではこちらへどうぞ……」と城内に案内しようとした所、意外な申し出があった。

「ラディウス陛下とヒカリ殿、お二人と談笑したいのは山々なのですが、実は折り入ってのお願いがあるのです」

 多分ニルス陛下がそう言った。

 寝耳に水だったのだろ、ラディウスは少し沈黙した後、

「……どういったことでしょうか」

 やや声を硬くして尋ねた。

 ラディウスの雰囲気が変わったので2人は引きつった顔になり、

「い、いえ……。お手を煩わせることでは――」

「少し庭園を見せて頂きたいのです……。ソルセリルは今、夏の時期。北部でお目にかかれない植物を見たいだけなのです……」

 見てわかるほどに縮こまっていた。

 

 なんだ、そんな事か。

 それにしても、2人ともラディウスの顔色を窺いすぎでは?

 さっきの顔はそこまで怖くなかったよ?


「その程度であれは、お安い御用です」

 ラディウスの言葉にふぅ……と安堵のため息を漏らしている。冷や汗が見えそうだ。

 怯え過ぎでは?

 

 うーん、国王3人の散策について行っていいのか分かんないけど、あたしがこの3人の緩衝材にならないといけない気がする……。

 

「あの、ラディウス陛下」

 あたしは隣に座るラディウスに「温室はいかがでしょう?」と提案した。

「最近、城内を眺めていた時に見つけて……。一度行って見たいと思っていたのです」

 これは本当。

 図書館の窓から見える場所に球体の建物があって、ヘルムートに何をする場所か尋ねたことがあったのだ。

「そうですね。あそこであればここからも近いですし、温室なので色々な植物がご覧いただけるかと思います」

 後ろからヘルムートの援護がされる。

「おお、助かります」


 

 そういうわけで、早速庭に出ることになった。

 国王3人のすぐ後ろにあたし。

 さらに後ろに各国の側近が控えている。

 前の3人はどう見ても話が盛り上がっていない。ニルス陛下とカールス陛下が喋っていて、ラディウスが聞いてる……というか無言で歩いてる。

 

 おーい。国賓に対してそんな態度でいいのか?

 ラディウスはニコニコもてなすタイプじゃないけどさ、明らかに外交には向いてない……。

 

 見かねたあたしは、

「いかがですか、ニルス陛下、カールス陛下。庭園の様子もかなり違うのでしょうか?」

 2人の陛下に話しかけた。

「ええ、この時期は色とりどりの花が咲いていて、華やいでいますね」

「緑が濃くて美しい」

「そうですね。夏は色の濃い花が多く咲くので、とても色彩豊かです。北国はこちらで見かけない珍しい草花があるのですか?」

「ええ。紫や白の花が多いですね。マジョールやブランカ、ハツカズラなどが代表的でしょうか。しかし種類はここまで多くない。花だけでなく、薬草もですが」

「寒冷地ですから、どうしても薬草が少ないのです。高値で購入しなくてはいけないのが難点ですね」

「温室はないのですか?」

「ありますが管理が大変で……。雪下ろしもいりますし、何より温度の維持が困難です」

「炎魔法と風魔法でどうにかならないのですか?」

 そう言うと、2人はピタリと足を止めた。

「炎魔法と風魔法?」

 あたしはあまりにも2人がきょとん、とするので首を傾げた。

「ええ。髪を乾かす魔法と同じように、温風を注げば良いのでは?」

 ニルス陛下とカールス陛下はさらに目を瞬かせた。

 

 本当に動きが同じだ。血の繋がりはないんですよね?

 

「ヒカリ、髪を乾かす魔法とはなんだ?」

 前方を歩いてあたし達の話を聞いていたラディウスが、こちらを達を振り返り尋ねた。

「え?知らないの?」

 あたしは3人を見たが、全員ピンときていないようだった。

 あたしは田岸さんから教えてもらったけど、庶民の魔法なのかな?

「髪を乾かす時に、火魔法と風魔法を併せて温風を出すんです。すぐに乾いて便利ですよ?」

「……そんな魔法があるのですか?」

「ヒカリ殿は使っておられるので?」

「え、ええ……。兄から聞いた方法ですけど」

 そもそも向こうにドライヤーがあるから、単純にそれに倣った《なら》だけだけど。

「なるほど……。火魔法と風魔法ですか……。確かにその方法であれば簡単にできそうですね……」

 カールス陛下が関心した様子で呟いたので、あたしは思わず、

「え?温室ってそういうものじゃないんですか?」  

聞いてしまった。

「はい?」「は?」

 ニルス陛下とカールス陛下は同時に首を傾げる。

 あれ?何その反応……。

 あたしも呆然として二人の陛下を見てしまう。

「ヒカリ、温室は太陽の光で室内を暖めるものだ。わざわざ魔法で温度を維持なんてしない」

 ラディウスが教えてくれる。

「え?そんな自然現象任せなの?夏しか機能しないじゃない」

「それが普通だ」

「えぇ……。意味なくない?」

「そう言われてもな……」

「魔法があるなら使えばいいのに」

「丸一日温風だけひたすら送り続けるなんて、誰がやるんだ?」

「交代制にすればいいじゃない。それに配管を伝わせて台所から熱を送ったり、お風呂の熱を送ったり……色々やりようはあると思うけど」

「…………お前は建築にも首を突っ込むつもりか?」

 ラディウスは呆れているが、ニルス陛下とカールス陛下は「ヒカリ殿、詳しくお聞かせ願いたい!」と前のめりだ。

「なんですか、その独創的な発想は?」

「配管を伝わせるとは、具体的にどうするのです?」

「え、ええっと……」

 2人は目の色を変えていた。

 

 これは…………マズイ事を言ったのかな?

 

 チラッとラディウスを見たけど、『お前がなんとかしろ』とそっぽを向かれた。

 

 くそっ、あとで覚えていろ……

 

「――あの、とりあえずお茶でも飲みながら説明いたしましょうか?」


 

 それから数時間、あたしは2人の陛下に捕まって根掘り葉掘りと聞かれた。臣下の人も加わって、ちょっとした会議になった。ヘルムートが一応控えてくれてたけど、喋るのはあたしだから実質1人。ラディウスはさっさと下がってしまった。


 

「ちょっと!なんであたし1人が国王2人を半日相手にしてるの?」

 夕方、日が落ちた頃にようやく解放され、疲れきったあたしはドレス姿のまま、怒りに任せてラディウスの執務室に押しかけてそう言った。

 ラディウスは優雅にお茶してた。

「しかも優雅にブレイクタイムじゃん!あたしずっと説明しっぱなしだったんだけど?!」

「それはヒカリが迂闊な発言をするからだろう」

 ティーカップ片手に足を組んで、のんびりとそんな事を言う。

「温室っていったら、普通は温度管理を年中キチンとするものじゃん!」

「異世界ではそうなのか?」

「なんで魔法があるのにそういう事に使わないのよっ。それに髪乾かす魔法も知らなかったの?」

「知らんな」「私も知りません」

 ラディウスだけでなくヘルムートまでもそう言った。

 

 え?そうなの?貴族階級でメイドさんがいるから知らないとか?

 

「庶民の間では普通なんじゃないの?あたしは田岸さんから教えてもらったんだよ?」

「ノボルは他の国民から教わったと言ったのですか?」

 

 ん?

 んー……。

 ……………………。

  

 そう聞かれ、あたしはしばらく考えたが、

「………………………………言って……なかったか……も?」

 あれはソイエラの指輪を受け取った頃の話で、結構記憶が曖昧だ。

 でも、もし庶民にも主流じゃないなら……

「食器洗いの自動化とか、ドライヤー代わりの風魔法とか、洗濯の自動化とか、やってないの?みんな……」

 ラディウスもヘルムートもじっとあたしを見て、一瞬思考が止まったように固まると、

「自動化ってなんだ?」「どういう魔法ですか?」

同時に聞かれた。

 

 マズイ……。これは嫌な予感がする……。

 全部家電を真似て独自に作った魔法なのだとしたら……。

 

「―――なんでもないです。忘れて下さい」

 あたしは踵を返して執務室を去ろうとしたが、王佐兼魔法師のヘルムートがそれを許してくれるわけがなかった。

 ガシッと腕を掴まれ、「ヒカリ、詳しく」と凄くいい笑顔でニッコリされた。

 

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