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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
それぞれの思惑

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グラータの悪友


 グラータの一行が到着するまでの1日、あたしは城の図書館で外科処置の歴史、縫合・切開・止血方法の記載がないか探した。

 医学書は簡単に見つかって、具体的な処置方法を知ることができた。これで必要器具も分かる。

 外科処置の歴史はあるが、かなりお粗末で荒々しいやり方のように記載されていた。魔法で一瞬で治るなら、そう思われても仕方ないか……。やっぱり麻酔がないと、患者は痛みを感じるから選びたくないよね。

 薬草の本をみたけど、やっぱり毒薬の記載はない。鎮痛剤は作れそうだったから、材料と作り方をメモしておいた。しびれを取る薬、感覚を一時的になくす薬もあったけど、薬草がかなり希少なようだ。念のためメモしたけど、やはり決定的な薬はない。


 ――やっぱり禁書庫なのかもしれない。


 あたしは書き留めたメモの数々をもって辻車に乗ると、揺れる車内でそう考えた。

 あれからヘルムートからは何の報告もない。国賓が来ていて忙しいから無理もないんだろうけど……。

 今回の公式訪問が終わったら、また話を聞いてみよう。


 

 翌日、いよいよグラータがやって来た。

 今度はちゃんと城から迎えが来て、ドレスに着替えて謁見となった。

 この日のドレスはいつもよりふわふわが控えめ。ドレスというよりは綺麗めなワンピースのようで、動きやすい。まぁ、ちゃんと足首までレースがあるんだけどね。

 それにしても、毎回衣装が違うのは凄い。全部城が準備してくれるから、あたしはただ着せ替え人形になっていればいいんだけど……。

 このドレス達は、今後出番なくタンスの肥やしになるんだろうか……。

 

 庶民らしくそんな事を考えながら、客間でグラータの国主を待っていると、ラディウスが入ってきた。すぐ後ろに誰か従えている。

 ラディウスと同い年位に見える青年で、オレンジの短髪、鮮やかなブルーの瞳が目を引く凛々しい容姿だった。きらびやかな服装からしてグラータの国王と分かる。

 あたしはソファから立ち上がると、

「ヒカリ。こちらがグラータの国王、アリウェだ」

紹介に合わせて軽く頭を下げた。しかしアリウェ陛下はにこりともせず、冷ややかな目であたしを見るだけだった。

 アレ……なんか怖い人?

 

 ラディウスがあたしの隣に座ると、あたしも腰を下ろす。

「はるばるよく来てくれた。道中、大事はなかったか」

「ええ。お陰様で」

「今日の謁見は短めにしてある。明日の夜会に備えて、今日はゆっくりと休まれよ」

「お気遣い、痛み入ります」

 アリウェ陛下は側近らしき中年男性を後ろに従え、全く表情を変えずに淡々と話した。ほぼ真顔と言ってもいい顔で、ひたすらにあたしを見ている。

 戦場を偵察に来た騎士のような鋭さで、非常に居心地がよろしくなく、あたしはかなり苦しかった。

「先王はご顕在か?」

「ええ。父からもあなたによろしくと言われている」

「そうか。なかなかにしぶとい御仁だな」

「あなたも相変わらずの図太さで」

 

 なんだか、お互いの口調が随分と気安い。旧知の間柄なんだろうか?

 邪魔してはいけない気がして、あたしは黙って2人の会話を聞いていた。

 

 2人は近況報告のような内容をしばらく話していた。アリウェ陛下の幼少期の話も出てきたから、やはり昔からの顔見知りのようだ。

 

「ところで、ずっとだんまりの彼女が例の?」

 やっとあたしの話が出た。

「ああ、ヒカリだ」

「瞬きしかしないが、精神支配魔法でもかけているのか?」 

「この自由奔放な娘がそんな魔法にかかるか」 

 おい!それはじゃじゃ馬ということか? 

 あたしは思わずラディウスをじとっと見た。

 その視線に気がついたラディウスは、可笑しそうに笑うと、

「ヒカリ、反論しないのか?いつもの多弁さはどうした?」

 揶揄からかってくる。

「随分とお話が盛り上がっていたので、邪魔をしなかっただけです」

「盛り上がる?アリウェとか?どこがだ?」

「随分と気安い口調で喋っておられたではありませんか」

「まぁな。アリウェのことは今の身長の3分の1くらいの頃から知っている。わずか20年で国王だ。人間の成長は早いものだ」

「鬼人の血が混ざっているあなたにとっては、人類の大半は赤子同然でしょう」 

 鬼人?

 ラディウスって鬼人なんだ。 

 そう言えば、ラディウスの種族について聞いたことが無い。見た目はほぼ人間だから、意識したことがなかった。

「ヒカリ、アリウェの前では形式ばった態度や言葉遣いは不要だぞ」

 こっそりと後ろに立つヘルムートに視線を向けると、特に表情を変えていないので、本当に気さくでいいんだと分かった。

 とはいっても、そちらは初対面。

 最低限の礼儀は通そう。 

「ラディウス陛下のように崩すわけにはいきません」

「アリウェはヒカリとほぼ同い年だが?」

「年齢の問題ではありません」

 いつものように言い返すと、アリウェはやや怪訝そうな顔をしていた。 

 何?その顔?

 さっきまで射抜きそうな視線だったのに……。 

「アリウェ。ヒカリへの言動には気をつけろ。先ほどから鋭く睨んでいるが、あまり冷たくしていると明日の夜会でしっぺ返しを食らうぞ」

 なんだ、そのしっぺ返しって……。

「どういう意味だ?」

 アリウェもあたしと同じ事を思ったらしい。眉根を寄せてラディウスに問うている。 

「わざと足を踏むとか、飲み物をかけられるとかだな」

 アリウェは疑いの目であたしを見ている。

「初対面の方にそんな事しません」

「俺には出来るんだろう?」

「ええ、まぁ」

 反抗してそう言うと、後ろから「ヒカリ!」とヘルムートのトゲトゲした声が振ってきた。 

 しまった……。

 ラディウスに引っ張られて、ついいつもの調子で言葉を返してしまった……。

 

 他国の王を前に失態だ……と正面を見ると、なんと肩を震わせて笑っている。

 ……え?なんで?


「アリウェ、ヒカリはこういう奴だ。分かったか?」

「ああ……よく分かった」

 顔を上げたアリウェ陛下は、凛々しい顔つきはそのままだが、警戒心が取れた今、雰囲気が柔らかい。

 第一印象と随分表情が違って見えた。 

「ヒカリ殿とは気が合いそうだ」

「……どういう事ですか?」

 理由が分からず尋ねると、

「アリウェはな、俺の事が嫌いなんだ」

 ラディウスはあっさりと言った。

「幼い頃から父親について俺と会っていた。散々いじって遊んでいたら、すっかり嫌われてな。国王になった今でも変わらず、俺を目の敵にしてくる」

「小さな頃から揶揄われ、イジメられれば嫌いにもなる。俺が次期国王になると、考えもしなかったあなたが悪い」

「こんなにも早く王位を継ぐとは思ってなかったからな」

「いずれは継ぐのだから、愛想は振りまいておくべきだったのでは?言っておくが、俺の子供にもあんたの悪行の数々は伝えるから、次期国王からも邪険にされる覚悟をしておけ」

 

 あたしは二人のやりとりに呆気に取られた。

 本当に国王同士の話し合いなの?

 

 開いた口が塞がらないあたしに、見かねたヘルムートが声をひそめて教えてくれた。

「このお二人はいつもこうなのです……。もっと臣下を増やして緊張感を保たないと、すぐに言い合いになって話が進まない……」

 

 言い合いというか、ただの悪友に見える……。


「ヒカリ殿はラディウス陛下に随分と気安く接している様子ですね?」

「え、ええ……」

「これまで色々とされたのでは?」

「まぁ…………色々とありました」

「ラディウス陛下は容赦ない所がある。怒る時は本気で怒った方がいいですよ」

 

 もうやりました……。

 

 あたしはこっそりと心の中で返事をした。

 お屋敷の事を思い出して苦い顔になったが、ラディウスがすかさず、

「すでに一度、盛大に怒っている」

「ほう?」

 強く興味をそそられたアリウェ陛下は、キラキラと目を輝かせ、

「どんな事を?力を使ったのですか?」

「屋敷の一部屋を木っ端微塵にされた」 

 アリウェ陛下は目を見張ると、次の瞬間に盛大に吹いた。思わず後ろの中年側近が「アリウェ陛下!」と嗜め《たしな》ている。

 我慢して忍び笑いになっているが、それでもクツクツ声は漏れて腹を抱えているから、相当に愉快なのだろう。

 ちょっと面白い人だ……。

 あたしは思わず「やってやりました」とアリウェ陛下に乗っかりそうになったが、ぐっと我慢した。

 

 ひとしきり笑うと、アリウェ陛下は「やはりヒカリ殿とは気が合いそうだ」と嬉しそうに言った。

「凄い才能だ。是非とも現場を見てみたかった!その時のラディウス陛下の顔を拝めるなら、領地の一つくらい差し上げるのに!」

「アリウェ陛下!」

 側近も大変そう。

 あたしはわずかに顔をしかめると、

「いえ……領地はいりません」

 そこだけはきっぱりと断った。

「変わりに、アリウェ陛下がこれまで面白いと思ったラディウス陛下のお話を聞かせてください。いざという時、楽しい嫌がらせが出来そうです」

「ヒカリ!」

 ヘルムートに窘められるが、出た言葉は消えない。

「本当に愉快な方で嬉しい」

 アリウェ陛下は満面の笑みを見せると、「ヒカリ殿とは楽しい話ができそうだ」と握手された。

「恐ろしい力の持ち主がどんな方かずっと危惧していたが、ヒカリ殿なら大丈夫でしょう。ラディウス陛下の良い抑止力になりそうだ。いや、すでになっているのか」

 確かに。

 力を使えば多少の無理は通る気がした。

「ええ、そうかもしれません」

「なんと頼もしい。素晴らしい友を得た気分です」

 握手した手にさらに力が込められた。

 どうしよう。ちょっとシンパシーを感じるものがある。


「やはりこうなるか……。だからお前たちを引き合わすのは少し嫌だったんだ」

 ラディウスはあたし達のやり取りを、諦めたような顔で眺めていた。

「アリウェとヒカリは共犯になりそうだと、ずっと思っていた。似たもの同士だからな。これから愉快な悪戯でも仕掛けてくれるんだろう?」

 絵に描いたようなやれやれ、という顔を表情をしているが、決して不快そうではない。

「なら、顔合わせで良かったではないか」 

 アリウェ陛下はそう言ったが、「2人が共謀した時、何をするのか見たくなった」とラディウスはほくそ笑んだ。

 考えていた通り、あたし達が通じ合ったのを見て密かに満足しているよだ。

「愉快にはしゃぐ子供の悪戯を眺めている気分なんだ。悪くない」

 この言葉にあたし以外の全員が目を見開いて驚いていた。アリウェ陛下の側近など、大口を開けている。

「――ラディウス陛下は随分と変わったな」 

 アリウェ陛下はぽかんとした顔のまま、本音が漏れ出たように呟いた。そしてあたしを見て、

「本当に、貴方が力の持ち主で良かった」

 改めてそう言った。

「今後、グラータはヒカリ殿に協力しよう。ラディウス陛下の事で困りごとがあれば、頼って頂いて構わない」

 その言質に、あたしはピクリと反応した。

 これはチャンスなのでは?

 思わずほくそ笑んでしまいそうになったが、顔を引き締めた。ラディウスと同じ顔をするわけにはいかない。

「……でしたら、内々にご相談したいことがあります。後ほど、少しお時間を作って頂いてよろしいですか?」 


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