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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
ヒカリの魔法

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27/60

疑念


 その後ヘルムートが来くると、ラディウスは肩を怒らせながら城に帰っていった。

 ヘルムートは「ヒカリ……。またラディウス様を怒らせたんですか?」と呆れていた。

「怒ったのかな?不機嫌になっただけだよ?」

「いや、それは怒っているでしょ……」

 深いため息をつきながらも、ヘルムートはあたしに指輪の解除呪文と風魔法で声を飛ばす方法を教えてくれた。

 他の魔法についてはまとめて教える、と言われて、

「一覧にして今度見せてください」

 忙しそうに帰っていった。

 ……やっぱりラディウスよりヘルムートの方が忙しそうだ。



 次の会議では「魔法を見せてくれ」と言われることなく、順調に話が進んだ。

 一仕事終えたあたしは、いつものように辻車に乗って帰宅する。

 登城するのはもっぱら辻車だったが、季節も変わり夏になると俄然外に出るのが楽しくなったので、いつも車の窓を開けていた。本当は徒歩がいいんだけど、以前「歩いて行きたい」と要望したら、かなり丁寧な言葉で護衛の騎士からお断りされてしまった。

 しかも後から話を聞きつけたヘルムートに、

「余計な雑務を増やさないように。ちゃんと辻車を使いなさい」

 と叱られる始末。

 

 そんな経緯があって、不本意ながら辻車を使い続けてる。

 やっぱり敷地内以外は散歩もダメなのか……。

 登城は仕事の一部だから徒歩出勤として許可されるかな、と期待したけど……残念。

 なんと言ってもこちらの夏は日本ほど暑くない。普段は室内か林で遮られた場所にしかいないから、紫外線なんて気にせずたっぷりと太陽を浴びたかったんだけどなぁ。

 帰宅の道すがら、辻車に揺られながらそんな事を考えた。


 

 次の休みの日、あたしは久々に田岸さんと会う約束をしていた。

 これは日光を浴びるチャンス。

 いつものようにエッダと辻車に乗って街まで出ると、ここならいいでしょ!と帽子なしで街中を歩いていたら、

「熱中症と日射病は警戒して下さい」

 と注意され、帽子をプレゼントされてしまった。

「…………アリガトウ ゴザイマス」 

 厚意を無下にすることもできず、あたしはお礼を言って受け取るしかなかった。

 

 ……まぁいいか。結構可愛い帽子だし。

 

 そのまま服屋を見ていると、 

「こんなブラウスとかいいんじゃないですか?半袖だし、これからの季節にいいですよ?」

 指差されたのは袖がふんわりした可愛い系。

「いや……これはちょっと………。萌え袖が許されるのは20代前半までですよ……」

「そうですか?ヒカリには似合うと思いますよ?前に着てたドレルもフリフリだったじゃないですか」

「あれはあたしの希望要望は一切入ってませんから!」

「ヒカリはあと20年は20代なんですから、色々と試して着てみればいいのに……」

「それを言うなら、田岸さんもあの時のビシッとした貴公子みたいな服を着ればいいんじゃないですか?似合ってましたよ?」

「いや、あれはどう考えても夏向きじゃないでしょう……」

 あたし達の会話を後ろで聞いていたエッダは、

「お前たちは本当に仲がいいな……」

 と呆れていた。

 結局、半袖ブラウスは購入されプレゼントされてしまった。 



 そのままお昼ごはんを食べるためお店に入る。エッダも同じテーブルで食べるように勧めたが、頑なに断られた。

「オレは仕事だと言ってるだろう!」

「でもご飯は食べていいんでしょ?」

「それはそうだが……」

「ならいいじゃない。ほら、座って。その方が監視しやすいよ?」

 あたしは自分の隣の椅子をトントンと叩いた。

「監視対象としての自覚があるのか?オレはあくまで、ヒカリが逃げたりおかしな動きをしなか見張る役目だぞ?」

 小声でコソコソいうエッダは、周囲に聞かれないか警戒していた。

「知ってるよ」

「なら、仲良しこよしの関係じゃない方がいいだろうが」

「必ずしも仲悪い必要はないでしょ?それにそんなにコソコソしてるエッダの方が怪しいよ?」

 うっ……と言葉に詰まると、エッダは数秒考えた後、しかたなさそうにあたしの横に腰掛けた。

 

 あたしは満足げに笑うと、メニュー表をエッダに渡した。

「エッダは経費が落ちるんじゃない?好きな物頼んだら?」

「任務中に監視対象と食事して、お咎めがないと本気で思うのか?」

「ああ………それもそうか。なら、もう腹決めて好きな物頼んじゃえば?どうせ食べるならその方がいいでしょ?」

 エッダはメニュー表で顔を隠すと、口をへの字にして、 

「……ヒカリは本当に変わってるな」

「そう?」

「まぁ、いいじゃないですか、エッダさん。もう席に座ったんですし、諦めて食事して下さい」

 田岸さんはあたし達のやり取りを見て笑った。

「お前達兄妹を見てると、色々と崩れそうだ……」

「崩れる?何が?」

「――知らなくていい」

 それからエッダは喋ってくれなくなった。

 

 最近は前より雑談してくれるようになったけど、まだ沈黙の時間の方が長い。

 弓部隊のトップだし、立場とかもあるのかな……。


 

 食後は念願の文房具に案内してもらった。

 メモや色ペン、ノート、ファイルみたいな物などなどを買い込んで、あたしは大満足した。

 それから田岸さんの家で指輪の事を話した。公の場で話せる内容じゃなかったから、安全な場所に入ってやっと本題に取り掛かれる。

 

「それにしても水と風魔法ですか……。ヒカリの仕事に役立ちそうですね」

「どういう事ですか?」

「風魔法は結界が得意らしいので。風壁と水魔法の浄化を合わせれば、空間の浄化ができるじゃないですか?地球で言うところの無菌室みたいな。そうなれば手術も可能でしょ?」

「確かに!」

 思い当たらなかった発想に、あたしは思わず声が大きくなった。

 

 無菌状態が可能なら、ガーゼや器具の消毒に似た効果が期待できる。外科的手術が魔法の世界で受け入れられるか分からないが、手段が多いに越したことはないだろう。

 

「田岸さん、天才じゃないですか!」

「えっ?そこまでですかね?」

「まずは浄化魔法を覚えないと……。風魔法の風壁のやり方も聞かないとな……。両方とも魔力量の消費が大きいから、あんまり練習できないかも……」

 ブツブツと計画を立てていると、

「ヒカリはまた多忙になりそうですね」

「田岸さんも会議に参加して欲しなぁ。マッサージ師ですよね、地球での本業?きっとリハビリとかみんな食いつくと思いますよ?」

「いや、理学療法士とは違うので……」

「それでも話を聞きたがりますって。あたしも医者や薬剤師の領分まで質問されますし、一緒にどうですか?」

「えー……出来れば遠慮したいです……」

「今度話しておきますね!」

「…………ヒカリ、話し聞いてます?」

 あたしはなんとか田岸さんを巻き込むために、ヘルムートと画策しようと暗い笑みをした。それを感じてか、田岸さんは困り顔をして後ずさっていたが、観念してもらおう。

 

 それから便利そうな生活魔法もいくつか教えてもらった。食器洗いの自動化、ドライヤー代わりの風魔法など、今夜から生活が少し楽になりそうだと浮かれた。


 

 少し薄暗くなり始めた頃、やっと帰路につく。ラディウスに送るクッキー作りのため、小麦粉や砂糖、麺棒なんかも買った。お菓子作りなんて小学生以来だ。レシピは図書室で調べたし、早速明日からやってみよう。

 こちらの世界には甘いものが少ない。原因は砂糖が高いからだ。日本でも昔は金平糖が高級だったみたいだし、それと同じなのかな?


「エッダは甘いもの好き?」

 辻車に揺られながら、リサーチをかけた。

「甘い物?」

「今度焼菓子を作ろうと思ってて。良かったらエッダにもあげるよ。弓の稽古つけてもらってるお礼ね」

「あれも仕事だ。気にするな」

「仕事だからお礼言わなくていい、って事はないでしょ?」

「…………好きにしろ」

 エッダは言葉とは裏腹に、結構表情に感情が出る。今もつっけんどんな事を言いつつも、頬が緩んで口角が上がってる。

 きっとお菓子好きなんだ。

 護身術を増やす相談をした時、エッダに武器の置き場所や家の中に侵入された時の避難方法のアドバイスを受けた。真剣に答えてくれたし、ラディウスよりクッキーは多めにしておこう。


 

 お屋敷に到着すると、辻車を降りて城壁に沿って歩いて林に入る。いつも防護魔法の結界内に入るまで見送ってくれるから、この日もそうなった。

「焼菓子は次の稽古の時に渡すね。楽しみにしてて」

「よく作るのか?」

「いや?15年は作ってない」

「――それは大丈夫なのか?」

「普段から料理はしてるから平気だよ。お菓子を作らないってだけ。ちゃんと上手く出来るから」

「……まぁそう言うことにしておく」

 

 お喋りしていたら家の敷地内に続く門が見えて、そこに手をかけ、

「じゃ、また明後日――」

 別れの挨拶をしようとした時、

 『バチン!!』

「痛っ!」

 大きな音と共にあたしの手が弾かれた。

 衝撃で買った物が地面に散乱し、あたしは尻もちをついた。

 

 右手がじんじんする。見ると指3本が真っ赤に腫れ上がっていた。血も滲んでいる。おかしな方向に曲がっているから、折れているのかもしれない。

「な、何?!」

 痛みよりも何が起こったのか困惑と衝撃が勝ってあたふたしていると、

「見せろ!」

 エッダが慌ててあたしの指を掴み、回復魔法をかけてくれる。

 じんじんした痛みが少し引いていくが、出血が止まらない。あたしは念のため腕を高く上げて心臓より低くならないようにした。あいにくと清潔な布は持っていないので、圧迫止血はできない。


 そんな事をしていると、

「何事ですか?!」

 ヘルムートの声がした。

 振り返ると走ってこちらに駆けて来るヘルムートとラディウスが見える。

「ヒカリが結界に弾かれた」

 エッダの言葉に、2人があたしの手を見て顔をしかめた。

「見せてください」

 ヘルムートはさらにレベルの高い回復魔法をかけてくれる。

 なんとか血が止まり、指も元の形に戻ると、あたしは水魔法で患部を洗って手をきれいにした。まだ腫れているが、とりあえず治癒できたみたい。

「ありがとうございました、ヘルムートさん」

「一体何があった?」

 ラディウスが辺りに散乱した荷物を見て、怖い顔をしている。

「いつものように街に行って、買い物をして、田岸さんと会っただけ……」

「はい。別段、変わりない1日でした。不審者の接近もありません」

 ラディウスだけに敬語を使うエッダは、言葉を追加して報告してくれる。

「しかし防護魔法が発動した……。ヘルムート、荷物の鑑定が出来るか?」

「はい。今やっています」


 優秀なヘルムートは、既に鑑定魔法で荷物チェックを始めていた。

 文房具、帽子、ブラウス、砂糖、小麦粉……。

「…………これですね」

 ヘルムートは砂糖を指さした。

「毒の反応があります」

「これを購入したのはどこだ?」

「……一番最後のお店。田岸さんとも別れた後……」

「オーケンの店です。他にも砂糖は陳列されていました。一番手前の物を取っています」

「まずはその店を抑えるか。ヒカリ」

 ラディウスが屈んで膝を折り、あたしと目を合わせると、

「今日は屋敷に泊まれ。情報がはっきりするまでは家への立ち入りは禁止だ」

 鋭い目でそう言った。

「わ、分かった………」

「エッダは引き続きヒカリについていろ。ヘルムート、風を飛ばせ。店の周囲の騎士に伝達だ。すぐに店主と従業員を抑えろ」

「はい」

 バタバタと指示を出すラディウスを見ながら、あたしはエッダに立たされる。

 

 荷物をまとめてお屋敷に連れて行かれながら、だいぶ暗くなった道をとぼとぼと歩いた。

「今夜必要な物があれば言え。あとで取りに行ってやる」

「うん……」

 エッダの声を聞きながら、あたしは不安が広がっていた。

 

 砂糖に毒………。

 たまたま陳列されていた毒入りの砂糖を買ってしまったんだろうか?

 それとも意図的にあたしを狙って……?

 もしかして、ラディウスに作ると話したから?

 ラディウスを狙うために材料に仕込もうとしたのかな?

 でも……あたしを狙ったにしろ、ラディウスを狙ったにしろ、どこからそんな情報が漏れたの?

 焼菓子を作る話は辻車の中でしかしてない……。

 あとはあの家の中……。

 

 あたしは緊張で強張って青ざめた。

 

 あの家が盗聴されているなら……。

 指輪の事もぜんぶ聞かれてる――。


 敵に知られてしまったなら、もうどうすることもできない。

 より周囲を警戒して気をつけるしかない……。


 

 あたしはその夜、なかなか寝付けなかった。

 ヘルムートともっと緊急時の対応を話し合わなくちゃ……。

 自分の力の発動速度も上げて、護身用に短剣を持ち歩いた方がいいかもしれない――。

 

読んでいただきありがとうございます!とても励みになっています。

誤字・脱字報告もありがとうございます。助かっております。

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