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この世は勇者であふれてる  作者: 栢瀬 柚花
力と力

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22/65

街への買い物


 会議室の大騒動から数日後に、工事が始まった。幸いなのは、会議室以外の被害が無かったこと。もともとお屋敷に防御魔法がかけられていた事と、あの時、とっさにヘルムートが会議室内に防御魔法を何重にもかけたことが功をなした。

 とは言っても壁も何もかも無くなったので、柱を組むところから工事しているようだ。

 

 血税を使わせてしまった…………。

 国民の皆様、申し訳ない。


 あたしは反省を態度で示すため、部屋から出ず静かに仕事をした。

 その間、後悔もした。

 あんなにも嫌悪していた力に簡単に頼り、使ってしまった……。 

 あの時は田岸さんの事を持ち出され心の余裕がなくなり、望むままに力を解放した。

 どうしてもラディウスに一矢報いりたかったからだ。

 例え形勢逆転できなくても、あたしの怒りを知って欲しかった。田岸さんを守りたかった。

 それは本当。


 あたしの力はそれに答えた。魔法攻撃から自分を守るようバリアを張るイメージをしたら、簡単に出来たのだ。そして実際、ラディウスの攻撃は一切当たらなかった。バリアに弾かれた魔法は部屋を粉々にし、見るも無残な状態にした。

 腹心3人は何とか軽傷だったらしいが、それが不思議なくらいの惨状だった。


 そんな事をしたせいで、あたしは衛兵、騎士や兵士、メイドさん、役人に至るまで、お屋敷ですれ違うみんなから恐れられるようになった。

 あからさまにギョッとされるし、ササッと道を譲られ頭を下げられる……。明らかに震えてる人もいた。

 

 不差別に襲ったりしませんよ…………。


 お屋敷にいるのがかなり肩身狭く、あたしは部屋から出なかった。

 ひたすらに仕事して、図書室へ行って調べ物して……。

 新たな家が決まるまでの間、あたしはお屋敷にいることを許可されたけど、ぶっちゃけ早く出ていきたかった。

  

 当のラディウスはと言うと、あれから顔を合わせてはいない。

 あたしが望んだ通り、後日正式な謝罪が行われる予定としか聞いていなかった。

  

 そんな中、条件付きで街に出ることが許された。

 これは相当嬉しかった。

 ソルセリルに来て初めての外出。なにより空気が重いお屋敷から出られる!

 気持ちが踊らないはずがない。



 

 外出当日は黒目黒髪が目立つからと、カツラを準備された。あとは伊達メガネ。こちらは魔道具で、眼の色を変える魔法が付与されているらしい。

 それにしても、変装の必要があるの?王都には日本人が住んでるから、何人か黒目黒髪はいるのに……。

 その疑問に外出の付添人、エッダが答えてくれた。

 

 そう。ヘルムートじゃなくて、エッダ。

 これは以外だった。

 

「黒髪黒髪だとすぐに異世界人とバレるだろうが?」

「それの何がいけないの?」

「今、王都では異世界人は人気なんだよ」

「人気?」

「ヒカリのせいだからな?」

「は?」

 

 あたしのせいってなんで?

 軽く口を開けてぽかんとするあたしに、エッダは教えてくれた。

 

 どうやらあたしが色々と開発したり進言したから、異世界人の知識が欲しい!と召喚者達の受け入れ要請が殺到したとか。

 その対応にヘルムートは追われ、かなり大変だったらしい。

 

「だから、ほとんどの異世界人の雇用先は決定してる。黒目黒髪だとすぐに異世界人とバレて雇い入れの話を持ちかけられるぞ」

「でも、すでに決まってるって説明すればいいんじゃない?」

「あほ!監視する身にもなれ!」

 あぁ、そっか……。

 いちいち全員を警戒してたら疲れるか。

「ごめん」

 エッダは「まったく……」と疲れた溜め息をついていた。


 エッダとはいつの間にかタメ口になっていてた。

 いつ、という明確なタイミングはなかったと思う。 

 エッダも何も言わないから、砕けた口調を続けている。

 彼女とは魔獣の森の帰りに一緒になって以来の2人きりだ。女性同士だから多少話しやすいかと思ったけど、エッダはあくまでもあたしの監視という仕事をしにきた、という顔だ。

 まぁいいけどね。


「あのあと、怪我は平気だった?」

「……大したことない」

「ごめんね?エッダやヘルムートを怒ったわけじゃないから、怪我をさせるつもりはなかったんだけど……」

「その話はもういい」

 怒ったように言われ、あたしはしゅんとした。

 グスタフに会った時も謝罪しようとは思ってるけど、やっぱり怒らせてるよね……。

 

「これから行く街ってお店が沢山ある所?」

 いたたまれず話題を変えたが、エッダは空気を読んでか、それについては何も言わなかった。

「ああ。王都でも商店が並ぶ区域だ」

 そうか。けっこうにぎやかな所に田崎さんは住んでるんだ。

 

 この外出の目的は二つ。

 一つは買い物。

 あたし自身の日用品や服を購入するため。薬や容器の開発でお金が貰えたから、自由に使えるようになった。

 

 二つ目は田崎さんに会うこと。

 ヘルムートが言ったとおり、外でも面会できるよう手配してくれた。

 

 移動は目立たない辻車。エッダの服装も、いつものカッコいい軍服じゃなくて、庶民っぽい質素なパンツスタイル。

 辻車は基本的に2人乗りだから狭くて、エッダとは肩が触れ合ってしまう。こうなることが分かってたから、男性のヘルムートやグスタフじゃなくてエッダが選ばれたんだな。グスタフじゃ一人しか乗れないだろうし。

 

「エッダはずっとこのソルセリルにいるの?」

 移動中の沈黙に耐えられず、あたしはなんとか話題を得ようと話しかけた。でも、

「……」

 沈黙。

「獣人族だよね、エッダ。冬はあったかそうでいいな。夏は暑そうだけど」

「……」

「こうして見ると、町中ではあんまり獣人族の皆さんは見ないね。数が少ないの?」

「……」


 種族の話はあんまりよろしくないかな?

 なら、得意な弓はどうだろう?

 ヘルムートから、エッダは弓部隊を率いる隊長と聞いていた。弓はエルフや翼人が得意とする場合が多いらしいけど、エッダは獣人族。けっこう珍しいことなんだって。

 

「エッダは弓が得意なんでしょ?それってあたしにも出来る?」

「……」

「学生の時、弓道してたから少しは扱い方がわかるんだけど、作りとか構造は一緒かな?今度練習用の弓を見せて欲しいんだけど」

「……向こうの世界にも弓があるのか?」

 お、食いついた。

「あるよ。戦いに使ったりはしてないけど」

「なら、何のために習得するんだ?」

「うーん……。自分と向き合うためかな?」


 弓道部の先生が言ってたことを思い出す。

 中学、高校と弓道部があったから所属してたけど、精神統一として楽しかったから続けてたんだよね。

 

「弓って心が揺らいだら的に当たらないでしょ?だから相手よりも自分自身の心が敵なんだって先生が言ってた。自分と向き合って平常心を保つのが、一番大切な事だって」

「ふん……」

「弓は射れば、答えを教えてくれる。自分の構え、動作が正しいのか、今放った射が正しいのか。集中して余計なことを一切考えずに、深く深く自分の中に入ったら全部の音が消えて、的しか見えなくなる……。その瞬間があたしは好きなの」

「……分からなくはない」

「ね?いいよね、あの時間」

 

 あたしは当時の感覚を思い出していた。

 的を射る音しか聞こえない、静かな緊迫感ある空気。礼に始まり礼に終わる規律ある場で、当たっても当たらなくても同じ心でいることを求められる鍛錬の場所。

 自然と背筋が伸びて、姿勢が良くなったのが懐かしい。

 ちゃんと練習意外では雑談も楽しくしたけど、オンとオフがはっきりしてきるのが好きだった。

 

「あとは技と身体と心とが一体になる瞬間も気持ちいいの。正しい射法で射った矢は必ず当たる。正射必中って言うの」

「――正射必中、か……」

「スパッと真ん中に当たったら、スカッとするだよね。あぁ……話してたらやりたくなってきたなぁ。エッダ、ヘルムートさんに頼んだら弓の一式、くれるかな?」

「さぁな……」

「あたしの力の弱点は上空だから、弓を持ってるのは良いかもね。力発動させたまま上空の敵を射れば安全になるし、弓は魔力関係ない技術だし」

 

 そう考えると、本格的に練習をしてもいいかもしれない。

 弓道は趣味みたいなものだから、ストレス発散にもなりそう。


 そんな事を考えていると、

「お前、これ以上強くなるのか?」

 エッダが恐ろしげにあたしを見た。

「ん?強く?」

 

 あたしは全然強くない。魔法から身を守れるだけで、武術なんてからっきしできない。受け身も取れなければ、剣や槍から身を守る方法も知らない。

 そう考えると、弱点の方が多いと思う。

 

「あたし強くなんてないよ?」

「いや強いだろう!あのラディウス様を負かしたんだぞ?!」

「でもあれはラディウスが剣を持ってなかったからよ?追い詰めた時に剣があれば、あたしは刺されてた。剣術なんてやったことないから、きっとサクッと簡単にやられてたよ」

 エッダは呆れたように眉を八の字にした。

「いや、そもそもあそこまでラディウス様を追い詰めたのが凄いんだよ……。あんなに魔法攻撃浴びてヒカリは怪我一つしてないし……。あの方は今まで敵無しだったのに……」

「ふーん、そうなんだ」

 あっさり言うと、

「…………ヒカリ、もっと事の重大さを知れ」

 さらに呆れられた。

 

 そんなこと言われても……。

 

 エッダは口をへの字にすると窓の外を見て、また喋ってくれなくなった。

 主であるラディウスが負けたから、悔しいのかな?

 でもあれは田岸さんを人質にとったラディウスが全面的に悪い。




 街に着くとあたしは目を見張った。

 思わず「おおっー!」っと声を上げそうになる。

 確かに王都と違ってにぎやかな商店街という活気。

 大小様々な魚や色とりどりの野菜、パンにハーブ、薬草、日用品、装飾品の店が立ち並ぶ。

 路地を入れば服屋、本屋、喫茶店。

 通りを変えればいい匂いがする露店がズラリ。

 

 なにここ!めちゃくちゃ楽しそう!

  

 ふらふら左右の店を見て回るので、エッダはずっとあたしの袖を掴んでいた。たまにグイッ、と引っ張るから後ろに転びそうになったのは、1回や2回じゃない。 

「ちゃんと目的の店に行け!」 

 だって、何処になんのお店があるのかも分からないのに……。 

 まぁ、少なくとも食品を売ってる市場に用事はないけどさ……。 

 あたしは興味を惹かれながらも、かなり頑張って目を逸らして路地に入った。

 

 服屋を見つけると何店舗か回り、気に入ったブラウス、シャツ、スカート、パンツを買った。下着も靴下も何着が購入すると財布はけっこう軽くなり、手荷物が増える。

 もちろん、エッダは持ってくれないから、あたしは両手にガサガサと袋を抱え、一度辻車に戻った。

 荷物を置くと美容室の様な所で髪を切ってもらう。

 もともとこちらに来る前から切ろう思ってたのに、こんな事になったからすっかり行けなくて、随分と長く伸びてしまっていた。前髪だけは自分で切ってたけどね。

 短く切ってもらうと軽くなり、気分も変わる。装飾品の店もあったから、ハーフアップにできる髪紐や髪留めを買った。



 希望の物を買うと、本日の目的の二つ目。

 田崎さんに会いに行った。


 田崎さんは仕事を始めてから仮住まいのアパートを出て、召喚者としての力を活かした製図の仕事をしていた。

 王都の地図作成をしていて、今後はもう少し先の街にも行って、描ける地図を増やす予定らしい。


 田崎さんの家は一軒家。ソルセリルでは独身者が暮らすには一般的な大きさらしいが、日本で考えると立派な大きさの家だった。


  

 エッダは玄関前で待機してくれ、あたし達はゆっくりと話す事ができた。 

「ヒカリがここにいるのは不思議な気分ですね」

 出してくれたお茶を飲んでいると、田岸さんがそう言った。

 ヘルムートからは知らない人から何も貰うな、口にするなと言われているが、田岸さんはいいだろう。

 それにそんな子供みたいな注意をされなくても、ちゃんと分かってるし。

「すっかり元気なって良かったです」

「お陰様で、今は何ともありません」

「髪を切ったんですね」

「長すぎて鬱陶しかったんで。買い物も色々出来て、楽しかったです」


 他にも露店や服屋、装飾品の店、見たことない野菜、果物、食べ物……。物珍しいと思ったことや面白かった事を嬉々として喋った。

 

 一通り街の話をすると、初めての外出の高揚感はようやく落ち着く。 

「それで、ラディウスと話したことなんですけど……」

 ここへ来た本題を振った。

 

 あたしは会議室で大暴れしたこと、これからラディウスからの公式な謝罪が2人にあることを伝えた。


「そうですか……。謝罪に関しては受け入れましょうか。せっかく大抗議をして勝ち取ってくれたみたいですし」

 嬉しそうに笑われると、なんとも言えない気持ちになった。

 ちょっとむずがゆい……。

 照れて下を向くと、

「ヘルムートからまた声がかかると思うので、お待ちください……」

 と、なぜかおかしな立場からの言い方になる。

「それで、力を使ってからヒカリの体に変化はないんですか?結構な魔法攻撃を浴びたようですけど……」

「そこはなんともありません」

「そうですか。なら良かった。でも、もう暴れないほうがいいでしょうね。随分と騒ぎになりましたから」

 あたしは意味がわからず、

「何がですか?」

 首を傾げた。

「あの日、この付近まで音が聞こえたんですよ。ドカンドカンという騒音と、ビカビカ光る閃光が見えました。あれ、ヒカリのせいだったんですね」

「うえっ?!」 

 こんな場所まで響いてたの?!

 被害はあの会議室だけだったから、てっきりお屋敷周辺しか騒動を知らないと思ってたのに……。

 

「まだ昼間だったのに、急に爆音がしたので何事かと思いましたよ。周りは『戦争か?』って焦ってましたけど。まぁすぐに収まったので、パニックにはなりませんでしたがね」

「ええ……」

 

 国民の皆さんに不安を与えていたなんて……。

 しかもそんなに酷い音だったんだ………。

  

 お屋敷の方々があたしを見て震え上がるわけだ。 

「すいませんでした……」

「いや、ヒカリが謝ることはないと思います。でもラディウスをもう怒らせないほうがいい。いや、正確にはヒカリを怒らせないほうがいい、かな?2人が喧嘩をすると、えらく騒ぎになって街が吹き飛びそうです」

「さすがにそこまではしませんよ……」

 

 ラディウスが良かぬことをして、あたしが怒って、ラディウスが逆ギレして、あたしがキレる。

 この流れは負の連鎖であるらしい。

 次に理不尽な事があっても、できるだけ理性を働かせよう。

 そう決めた。


 反省しているあたしに向かって、田岸さんは、

「で?どうやって場は終息したんですか?」

 

 あたしは大暴れの事の顛末を話した。

「結局、ソルセリルを出ることは出来ないそうです。勝手に姿を晦ます《くらます》と各国から暗殺されるかも、って言われましたし……。どのみち、この力がある限り、どこに行っても監視は続くんだとよくわかりました」

「………そうですか。なら、まだこの国にいた方がマシかも知れませんね。ヒカリの仕事が評価されているわけですし、結果を残せている分、優遇もありそうだ。現にこうして街に出て、俺とも会えている。交渉出来る立ち位置に立てたことは、ヒカリにとって大きいでしょう」

 それはそうだ。

 ただ監視され、隠され、閉じ込められるよりはよっぽどいい。

「あたしもそう思います。あとはまた居住先が変わるので、そこでの生活がどうなるか、ですね……」

「もう無下にはされないでしょ。ラディウスを窮地に追いやったヒカリですよ?怒らせたらラディウスでも止められない」

「そんな恐妻家みたいな言い方、やめてください……」

 田岸さんは苦笑いしていたが、実際にあたしを止められなかったのだから、あながち間違ってはいないのかな……。

 本意ではないけど。


 

 それから少し雑談した。

 田岸さんは生活魔法を教えてもらったようで、家事が楽だと笑っていた。洗濯、料理、掃除だけじゃなくて、家の施錠や忘れ物をした時の警告アラームなんてものもあるらしい。

 朝は目覚まし時計のごとく、起こしてくれる魔法もあるんだとか。

 いいなぁ。魔法が使えるって。

 羨ましい。


 

 夕方、あたしはお屋敷に帰った。

 お屋敷では相変わらず、みんなから遠巻きにされる。かなりの恐怖を植え付けたらしい。

 ああ……悲しい。

 早くこのお屋敷を出ていきたい……。 

  

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