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いたずら  作者: あるとII
22/24

【22】再請求・進

再請求編の最後です。

最後は進本人。

 離婚して十ヶ月ほど経ったころ、五条弁護士から連絡が入った。

 美香が俺に会いたがっているから連絡先を教えていいかの確認だった。

 今回以外にも来たがそのときは彼の判断で教えなかったと聞いている。たらふく奢らされたという分は、依頼料を上乗せして半分だけ立て替えた。

 同期だった山本からも、英美が来たと連絡をもらった。こっちはひたすら金を求められたので山本のほうから話を打ち切ったらしい。


 もともと、五条と山本には、もしそれぞれ必要と判断したなら、俺に連絡をしてほしいと最後に伝えてあった。その約束を律儀に守ってくれたのだ。山本には一度伝えなくていい旨はいい含んであったが、離婚してしばらくたって撤回した。

 現状については二人から話を聴いた。カネがあるとこうも変わってしまうのかと悲しくなった。俺に離婚されたショックもあるのだろうが。

 まともな会話をするなら、ホスト狂いの英美より、まだ美香のほうがいいだろうと思い、連絡を許可して、五条を介して仙台で落ち合うことにした。

 今の住所は仙台ではない。もっと小さな町だ。当日と翌日は休みをもらった。地元に来られると居所が知れてしまう危機感があったし、小さい街ではあらぬ噂は広まりやすい。ここなら東京ほどでないにしろ二人で話す場もあるからだ。

 自宅から車で四十分ほど飛ばして駐車場に停める。都心とほぼ変わらない賑やかさがある。

久々に大きな駅を見ると、東京が懐かしくなる。駅に入り、連絡をもらった新幹線が着くまでに改札口へと向かった。


「お、おとうさん……」

「美香……か?」

「会いたかった。おとうさぁん!」

 美香はそういって俺に飛び込んできたので、とっさに後ずさりした。転びそうになったが自分でなんとか持ち直した。

「おおっと、なんだいきなり?」

「なんだじゃないでしょ。そこは抱きつかせてよ」 

「ああそういうことか。空気読めなくてすまないな」

 親子の感動の再会でも演出したかったらしい。もちろん俺はそんな気分ではないから、軽く流して社交辞令を伝える。

 軽く流し、改めて娘を見る。

 ひどくやつれていた。今の応対で不快に思う表情は見えない。

 服装は、五条から聴いた話とはだいぶ違っていて、ブラウスにロングスカートで、見た目にもいいものを着てるのがわかる。おそらく話に聞いたとおり、どこぞのブランド物だろう

 いま娘が俺に向ける表情は、かつて家族だった頃に俺に向けられた表情とさほど変わりがない。何か情報を得ようとしているようにも見える。

 こっちに来てから、そういう印象がわかるようになった。人間関係が良くも悪くも濃厚になったからだろうか。家族でいた頃なら、もしかすると俺を慕ってくれたのかと表情が綻んでいたかもしれない。

 血のつながった娘を相手に駆け引きすることになるとは、いささか悲しいが、仕方ない。

「とりあえず、駅を出てどこか入ろう」

「ねえ、おとうさん、車じゃないの?電車で来たの?」

「いや。車だ。列車は本数が少ないからな」

「列車?」

「ん? ああ、仙台はそうでもないが、こっちは東京と違って気動車、ディーゼルカーもある。鉄道のことは”電車”とはあまり言わない」

「ふーん」

 まったく興味はなさそうだ。あたりまえか。

 先頭に立って個人経営の喫茶店に行き着く。この辺では来たことはないものの、運良く二人で座れて密閉空間にならないで済む席があった。

 美香を奥に座らせ、紅茶でいいかと確認する。うなずくと、コーヒーと紅茶を頼み、一服する。五条の二の舞はごめんだから、注文は仕切ることにした。

「さて、少し落ち着いたか」

「え、うん」

「弁護士にはだいぶ奢らせたらしいな」

「だって、好きに食べていいっていうから。連絡先も知りたかったし」

 やはり相変わらずのようだ。

「お父さん、他人には連絡して、私たちに連絡はくれないんだね」

「連絡する必要があったのか? 離婚も絶縁もしたのに」

 美香は押し黙って紅茶をすする。

「ねえ、助けてほしいの」

「助ける? なにを?」

「もう一度、やりなおさない?」

「やりなおす。とは?」

「過去のことは水に流して、また一から家族にならないかってこと」

 なぜそういう話になるのか。自分たちが原因だと考えないらしい。

「今の俺には何もないよ。たいした収入もない。一人で食べていくだけで精一杯だ。家族を養う余裕なんかない」

「そんなこと言わないで、私とおかあさんを助けてよ」

「……いったい何があったんだ?」

「助けてくれるの!?」

「助けるなんて一言も言ってないぞ。それでも何があったか言う気があるなら、聞くだけ聞いてもいいが」

 明るくなった声から意気消沈した表情に暗転する。

「うちはもう崩壊寸前だよ。家は汚部屋状態だし、お母さんはホスト狂いしてるし」

「学校はどうしたんだ」

「行ってるよ。学費の口座は別にしてくれたから。生活費とお小遣いはもらっているし、自分のお金もある」

「なら問題ないんじゃないのか」

「お金はあくまで私の分だけ。お母さんは毎月自分のお金をホストにつぎ込んでいるの。もうあの家を売るか私のお金を出さないといけなくなってる」

 実際はそこまででもないらしいことは五条から聞いている。だが今の生活を続ければ近いうちに家も売りマンションすら無理になりそうだ。 

「俺はおまえたちと縁を切った。俺が助ける義理はないし、俺に助けを求める権利もないはずだ」

「そんな。私はおとうさんの娘でしょ。娘の頼みを断るって言うの?」

「もう娘ではないよ」

「血がつながった娘を娘じゃないっていうの?」

「こんなのと血がつながってるなんて最低、って以前言ってたよな。都合良く血縁を出されても説得力はない」

「私たちが飢え死にしてもいいっていうの?」

「助ける余裕はないと言ったが」

「あんたの生活なんてどうでもいい。とにかく私たちが困らないようにしてよ」

「本音が出たな」

 誘導したつもりはないが、とっさの一言が気になった。

「……え、あ、そ、それは……」

「俺がホームレスになって二十四時間休みなく働いて、その賃金を全部おまえたちを助けるのに使うのが当然、そう考えているのか?」

「そ、そこまで言ってないでしょ」

「じゃあどこまでだ? 俺がどうなろうと、おまえたちがよければいいんだよな?」

 そこまでいうと、さすがに何も言えなくなったらしい。というか反論してほしかった。

 紅茶をさらに二杯お替わりするまで沈黙が続く。

「あえて繰り返すが、俺は以前ほどの収入はない。ホストや大学に費やすような金はもう出せない。仮に収入があっても、おまえたちのために拠出しようとは思わない」

 言うだけ言って、事前に準備した封筒を差し出した。 

「なにそれ」

「今夜の宿の予約と、帰りの新幹線のきっぷだ。使おうが使うまいがどうでもいいが、それで帰ってくれ。そして二度と来ないでほしい」

「帰れってこと?」

「金を出さない俺にこれ以上つきまとう意味はないはずだ。帰るかどうかは任せる」

 美香は封筒を受け取りそのまま黙って出て行った。


 数日後、俺は五条弁護士に五百万円の通帳コピーとともに手紙を託した。

実際に訴訟されたらどうなるんだろうとは正直思います。

感想、ご意見などお待ちしています。

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