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いたずら  作者: あるとII
21/24

【21】再請求・山本

今度は英美が出張ります。

 中原の奥さん、いや元奥さんに会うのは久しぶりだった。

 おそらく何かあれば連絡してくるだろうから、そのときはお前の判断で対応していい、と中原本人から言われていた。弁護士の五条にも似たようなことを伝えているらしい。

 会社近くの喫茶店で落ち合う。社内でもよかったが、退職して半年以上経過しているから、外の方がよかろうと判断した。

「おひさしぶりです」

 英美さんはおぼろげな印象と比較すると、やつれたというか、やさぐれたというか、尋常ではない感じはした。細い体に何か凄みを感じる。

「お元気でしたか」

「ええ、まあ。それで、電話でお話ししたことですが」

 正直、口調にとげとげしさを感じた。こんな話し方をする人だっただろうか。

「彼の連絡先ですか」

「教えてくれませんか」

「教えてどうされるつもりですか」

「連絡を取りたいんです」

「私は確かに中原の連絡先を知っています。あなたがたには絶対に教えないようにときつく言われています」

 この状態の彼女を会わせるわけにいかない。人事部長としての勘が働く。

「どうしてもですか」

「なぜそうまでして連絡を取りたいんですか」

「私から直接連絡をしたいんです」

「ですから、どうして連絡をしたいんですか」

「あなたに言う必要はありません」

 質問に対して俺の方を向かずに主張ばかりを通す。後ろめたさを感じてる者のしぐさだ。

「ならば、私も中原に伝える必要はないと判断します。五条弁護士を訪ねてはどうですか」

「……五条弁護士には娘が行ってます」

 すでに連絡を取っていたとは。

「いったい何があったんですか? お金はじゅうぶんにあるはずです。それに、失礼ながら、ずいぶん痩せられたように見受けられますが」

「そのお金がなくなりそうなんです」

「……は? 離婚して八ヶ月でですか? 詳しく説明してくれませんか」

 中原から分与された一億五千万のうち。五千万は娘の美香さんの進学と財産分与で分け、残り一億が今後の生活費と英美さんの財産となったらしい。

 観念したのか、英美さんは現状を語り始めた。

 好きな人がいてその人に貸した、少しずつ貸していたけど一千万単位で貸してくれと言われた。すぐに返してくれると言われたが、半年経っても返すめどもなく求められ続けているとのことだった。

 好きな人、とは、どうやらホストか悪い男だろう。見た目や口調から精神も病んでいるようだ。

 英美さんは過去に証券会社に勤めていて、中原の投資の師匠だと聞いている。お金についてはシビアなはずなのに、あいつから離婚を切り出されたことがよほどショックだったと見える。もっとも、これまでの仕打ちを反省しているわけではなく、プライドを傷つけられた感じだが。

「なんてばかなことを……」

「お願いです。お金が必要なんです。彼に会わせてください」

「すみませんが、それを聞いたらなおさら会わせるわけにはいきません」

「なんで、なんでですか!!」

 英美の大声が店中に響き渡る。視線が一斉にこちらに向かい、またすぐそれぞれの席に戻る。

「いまのあなたでは、いくら出したところで、その男に貢ぐだけなのが明白だからです」

「そんなこと言っても、彼が……」

「お金だけの関係なんてすぐに切れます。そんなことは、あなたのほうがよくわかっているはずです」

「彼のこと以上に、家が……」

「家が、どうしたんです?」

「税金や光熱費やカードの決済を滞納していて……」

「それは五条弁護士に頼む話ではないですか。配分されたお金がまだあるのでは」

「これ以上生活の質を下げたくないんです」

 この状態にあって自分の生活を優先するのか。よほど入れ込んでいるようだ。

「必要だったら私から五条に言いましょうか? 出してくれるかはわかりませんが」

「え、言ってくれるんですか?」

「そのかわり条件があります。ホストや借金とは完全に縁を切って、最低限の暮らしに変えることです。家を売ってマンションにでも移る。今の生活レベルは半分以下に落とす前提です」

 そういうと、英美さんはさらに細くなったように呆然とした表情に変わった。

「そんな、だからさっき下げたくないって」

「だったら、ご自分でなんとかしてください。部外者の私が言うのも何ですが、娘さんのことも少しは考えてください」

「あの子も財産ができてからずいぶんと遊び歩いてます。どうして私だけ制限しなければならないんですか」

 話によると、本当にブランド物を買いあさっているらしい。

「でしたら、母娘揃って生活を改めてください。財産なんていつかは消えるんです。仕事もないなら減るだけですよ」

「ですからあの人に……」

「中原はたしか株の利益も含めて五千万を分与したんですよね。利益を引いたら三千万くらいでしょうか。あなたが期待するようなお金は出てきませんよ」

「その三千万を私にくれたらいいじゃないですか」

「……は? 本気で言ってるんですか?」

 かなり強く言ったつもりだ。それでも今の彼女には通じない。

「あたりまえです。全部ほしいです」

「……そうですか。そうまでいわれては仕方ないですね」

 俺は席を立ち上がって、英美さんに言った。

「なら、私は友人として、あなたに中原のことを教えるつもりはありません。お引き取りください。もう話すことはありませんので、これで」

「え、まだ話は……」

「終わりましたよ。連絡先は教えないしつなぎも取りません。ここのお代は払っておくので。それでは」

 残念だが、これ以上は進展が望めないと判断し、一方的に打ち切った。

 一応様子を見ておいてくれと会計の時に口添えしておいた。後から聞いたところ、二時間ほど自腹で飲み食いして帰ったらしい。

 

こういうことには山本さんのほうが長けてますよね。やっぱり。

感想、ご意見などお待ちしています。

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