【16】離婚弁護士(2/3)
烏丸さん登場。
さて・・・
「初めまして。弁護士の烏丸です」
正直、サイトを見ていながら弁護士の顔さえ確認しなかった。思ったよりずっと若い女性で驚いた。声も声優ほどではないが高めだ。
「あなたが離婚に強い弁護士さん? 失礼だけど、そうは見えないわね」
「よく言われます。背が低くて幼く見えるとか。ですからお気になさらず」
「女性の希望を叶えるのが得意だとかネットにありましたけど」
「内容によりますが、結果として依頼人の皆さんには評価をいただいています。座ってよろしいでしょうか?」
英美がうなずくと、落ち着いた様子のままの烏丸が席に着く。
「早速ですが、ご依頼内容をうかがえますか?」
「それは申し込んだときに書きましたけど」
「変わっているかも知れませんので、確認の意味で、ご依頼人の方から改めて話を伺っています。ホームページや、先ほど秘書が出した承諾書にも、あらためて話を伺う旨は記載しています」
目に入っていない。
めんどくさいと思いつつも、目的を話し始める。
「実は主人から離婚をつきつけられました。それと同時にこの書類を渡されました」
持参した冊子とUSBを烏丸の前に差し出す。
「こんなものを突き出されて、相談もせず退職して離婚だなんて冗談じゃありません」
「なるほど。それはひどいですね。中身を拝見してよろしいですか?」
「どうぞ」
烏丸が書類を手に取り、中身の確認をはじめる。USBも自分のそばに寄せる。
すると、優しそうな顔が少しずつこわばっていく。
「中原さん、でしたね。いくつか確認したいのですが、よろしいですか?」
「は、はい」
烏丸の緊張が、伝わるほどに強い。
「資料には、旦那様が奥様と娘さんから受けた虐待や暴言などが記されています。これらは事実なのでしょうか」
「え? 事実かどうか関係するんですか」
「もちろんです。どうでしょうか」
さっきまでと違い、烏丸の語気が強くなった。
脅されたような諭されたような妙な感覚で回答した。
「……じ、事実です。動画や画像も一緒に添付されていました」
「わかりました。つぎに、この資料は、旦那様の視点で記載されていて、奥様やお嬢様の意見は反映されていないように見えます」
「え、ええ、それはそうでしょう。あのひと、いえ主人が一方的に作りましたから」
「では、奥様とお嬢様から見て、ご主人様に不満はありますか? たとえば、掃除や洗濯をきちんとしてくれないとかはどうですか」
「それは当てはまりますね」
「では、その不満を具体的に教えてもらえますか?」
烏丸の質問に気をよくしたのか、英美は一気にまくし立てた。
「例えば、私たちと夫の洗濯は分けてほしいのに一緒に洗濯するし、分けたら二回洗濯することになるから、私たちのは週六回、夫は週一回にしろというのに週三回も洗濯しています。掃除も毎日娘の部屋と夫の書斎以外はするように言いつけていますけど、休日を含めて週五回だけでした。ああ、それと出張したときはしてくれず、部屋は汚れたままで、大変に迷惑しています」
「あの、出張中はさすがに無理だと思いますが」
「車でも這ってでも帰ってきて掃除してくれないと私たちが困るんです」
「ご主人様が掃除をしている間、奥様とお嬢様はなにをなさっているのですか」
「私はテレビを見たり友達と会ったり自分たちの食事を作ったりして忙しいんです。娘も友達づきあいや買い物で忙しい。その分夫が家事をしてくれないと私たちが困るんです。ああ、主人が台所を使うのは仕方ないですけど、できれば勘弁してほしいです」
「旦那様を手伝おうとは思わないわけですね」
「あたりまえじゃないですか。どうして私たちが手伝わないといけないんですか。私たちが快適に過ごすために主人は働いているんですよ」
英美の淀みない証言に、烏丸は少し感心してしまった。ここまで確信的に自身の行為を正当化する人はそうはいない。
「次に奥様は、わたしに、離婚の取り消しをお求めなのでしょうか? 引き続き夫婦でいたいということなのですか?」
「離婚は取り消してほしいですが、あの人が稼いで私たちに供給してくれるなら、夫婦でなくても別にいいです」
「なるほど。それでしたら、離婚を受け入れたらどうでしょうか?」
「……え?」
意外な提案。
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