(※友情の)誓い ◇白藤視点◇
予定時間より早いですが、本日分の投稿です!
《白藤視点》
―――あ…………っぶねー。
俺は蒼狼から初めて放たれた冷ややかな沈黙で、一瞬にして全てを悟った。
この程度の親密度じゃあ、まだこの話題は早かった……。
っつか咄嗟に誤魔化したけど『若者に大人気の雲母岩』ってなんだよ。人気あるわけ無いだろう。もはや言った俺も意味がわからないよ。
―――なのに蒼狼はオレの沽券を守る為に、物凄い無理やり話を合わしてくれた……。
蒼狼……お前ってやつは、ホントに想像以上に出来た人格者だなぁ。それに比べて俺という奴は……。
俺は自分の不甲斐なさに小さな溜息を吐き、またチラリと蒼狼を見た。
澄んた水のような薄く輝く青い髪に、真っ青な空色の瞳。整った中性的な顔立ち。
演武の衣装では一見少女のようにも見えたが、今濃紺の着物をきっちりと着込む姿は、どこからどう見てもカッコいい少年だ。
蒼狼は自分を無学と言う割に、無骨ではあるものの茶の飲み方は綺麗だし、礼儀もしっかりしてる。
俺の心はこんなにも蒼狼コールでバズってると言うのに、蒼狼は出会い頭以降、すっかり落ち着いて本来のクールボーイに戻っていた。
―――というかクール過ぎてなんだか蒼狼くん、さっきから俺と目を合わせてくれない。……ちょっと切ないんだけど。
俺はホロリと零れそうになる涙をこっそりと拭いつつ、それでも蒼狼の話に食いついた。
いや。雲母岩はもういいんだ。唱鶏が月餅を好きかどうかと同じくらいどうでもいいんだ。
食いつくのは当然、桃猿や琥珀を買った豹牙の話題の方。
「まあ、もしかして琥珀を買ったというのは、一緒に出場されていた豹牙の事?」
くくっ、こんな事もあろうかと事前に役場で【朱ノ三】の選出メンバーの木貨の流れは調べておいた。
だから豹牙が宝石店でそこそこの琥珀を買ったという情報など、当然既知なのだった。……あ、ストーカーじゃないからね。公務の一貫ですからね。
だけど間違ってストーカー扱いされては嫌なので、俺はその事実を伏せ、素知らぬ風を装う。
蒼狼はなんの疑念も無く、寧ろホッとした様に頷いた。
「はい、私と同じく6日目まで残っていたあの者です。来月に姉君の婚姻があるそうで、祝いに贈るらしいですよ。『―――戦争に行く男は、女に気持ちより物を残してやるべきだ』なんて事言ってましたか」
……なにそれ、カッコイイ。
俺はワクワクしながら更に踏み込む。
「男気のある男子ですね。因みに豹牙や蒼狼には、思い人などはいるのでしょうか?」
「豹牙はおそらくいないんじゃないでしょうか。『気に入った女がいれば側に置く』等と言いながら、それらしき者を連れてる姿を見た事はありませんから」
へぇ。豹牙は口は悪いけど、まぁ見た目はいいし、強いし、そんな男気もあるなら引く手数多だろうに……。
俺が意外だなと目を丸めていると、蒼狼はまた優しい口調で続けた。
「それからお察しかと思いますが、私にもいません。ご覧の通り年も若く、武の訓練に明け暮れておりましたので。―――それに今後は私の全てを姫君に捧げると、この胸に固く誓いました。だから今迄も、そしてこの先に至っては永劫に渡り、私が白藤様以外に心を割く事はないでしょう」
―――……。 ……ち、ちょっとぉ、蒼狼くぅん。
そんな聞いてて恥ずかしくなっちゃうような“萌キュン”なセリフは、もっといい人に吐いてあげなさいよっ!
……って、今俺が女のコに見られてるのか。いやいや、ダメダメッ! 俺なんぞで、君みたいないい男が道を踏み外しちゃ駄目だぞ!
「わ、妾はっ、蒼狼のお相手にはなれませんよ!?」
俺はドキドキしながら、それでもハッキリと断ると、蒼狼はここに来て初めて笑った。
「はい。私が姫君に向ける思いは、そういったものではありません。ご安心下さい」
……あ、そういったものじゃないの?
俺はその笑顔と言葉に、ホッとすると同時に嬉しくなり、俺もまた笑顔で頷き返した。
……今迄より少しだけ、蒼狼との距離が近くなった気がしたのだ。
俺は胸に手を当てて、その思いに言葉を返した。
それは俺なりの、今生まれたばかりのこの友情への誓いの言葉だった。
「―――ならば妾も誓いましょう。例えどんな未来が訪れようと、妾は永劫にそなたの“蒼”をこの胸に刻み続けると。妾の血がもたらす立場がどれほどこの身を縛ろうと、妾のこの心があの大空の様に輝くこの“蒼”を忘れる事はありませぬ」
まぁ、ちょっと大袈裟に言った感はある。でもそれだけ嬉しかったのだ。
だが俺の宣誓の後に流れたのは、どこか気まずい沈黙。
俺が不安になって顔を上げると、蒼狼は背筋を伸ばしたまま、何故か顎に指を添えてクールに窓の外を眺めていた。
「……蒼狼?」
「……っ」
……窓の外に何かいたのかな?
そう思いつつも、この続く沈黙に俺は念押しの一言を付け加える事にした。
「……あの、もしや気に触ってしまいましたか? 確かに『ずっと刻み続ける』など重い表現で御座いましたね。妾の胸の内の中だけの事ですので、気になさらずただの戯言と……」
「いえ! 光栄の極みにございます。今この時を以て消えても、悔いはないという思いに駆られておりましたっ」
「あ、はい」
存外に重い返答だったが、まあNOじゃなくてよかった。
勢いづいた俺は、そのままポツリと蒼狼に言う。
「実は妾には……蒼狼に打ち明けねばならない事があるのです」
「はい。何でしょう?」
「……」
―――……うん。あのですね、俺実は男なんです。それで神獣は辞めて、俺の友達になって欲しいのですが……。
「……」
「?」
しかしその言葉は声となって喉を越える事はなく、俺は頭を振った。
「それはまた後ほどにしましょう。それより、もっと蒼狼の事を知りたいわ。豹牙は蒼狼にとってどんな者? さっき話に出た桃猿とは? 【朱ノ三】では皆、どのような暮らし振りをなさっているのでしょう?」
いやだって、打ち明けれは間違いなく幻滅されて、ドン引きされて断られるもの。言えば即終了案件なのだ。―――でも後でちゃんと言うよ? もうちょっとだけ話してから、ちゃんと言うからさ……。
俺はそう自分に言い訳をしながら、この最後の交友の時間に今暫く縋り付くことにしたのだった。
そして蒼狼はそんな俺を訝しむ事なく、俺の頼み通り話を始めた。




