煌武祭六日目 ◇蒼狼視点◇
ちょっと早めですが、本日分の投稿です。
《蒼狼視点》
煌武祭6日目の夜。
オレは決勝戦を前に、他の選手達と舞台へと続く入場門の前でその時を待っていた。
午前の部は優勝者が決まり、今観覧者達の注目は、この夜の部に注がれている。
午前の部の優勝者は、青少年の部が“猩公”、そして成人の部が“鷹寛”だったと言う。
成人の部の優勝者についてはよく知らなかったが、青少年の部の優勝者猩公は、煌武祭の初日に象奉隊長が名前を挙げていた者の一人だった。
夜の部の決勝戦の出場者は6名。
こちらも象奉隊長に名を挙げられていた“赤兎”に“康梟”も、しっかり残ってきていた。
康梟は一見、ずんぐりむっくりとした小柄な男のように見える。だかこれ迄の演武で、その姿が正しくないことは証明されてきていた。
実はこの康梟、形と首の関節が信じられないくらい柔らかく、縮込めている間はあの体型たが、それを伸ばした時は、今の身長からして1.5倍程の細身の長身体型になる。―――正直言って不気味だった。
その他にはトビネズミの鼠山張に、狸の古黒狸……そして豹牙とオレがこの決勝戦での出場者だった。
「……前回の雪辱、この試合で必ず晴らすからね」
「……」
ふと、隣に並んだ赤兎が何か言った。オレは目前に控えた試合に集中する。
「……」
「……」
「無視か? ほんと腹立つなぁ蒼ちゃん」
「あ、オレに言ってたのか?」
オレはふと顔を上げ、赤兎を見た。
「前回の雪辱って言ったんだから、蒼ちゃん以外に誰がいるのさ? てか、え? それ煽る為じゃなく、もしかして本気で言ってる?」
「え? だって赤兎自身がが前に『オレなんかライバルにもならない』って言ったんじゃないか。なのに急に言われて分かるわけないだろ」
「……」
オレは尤もな主張をした筈なのに、何故か赤兎はオレをジトリと無言で睨み、関係ない筈の豹牙が溜息を吐いて首を振った。
「クソ腹立つだろ? アホな癖に胸張って揚げ足だけは取りに来る。しかも素でな」
「あ、分かるぅ。やっぱ素なの? 残念〜、外見いいのにホント勿体ない……」
「そう。無駄に面良いのが余計に腹立つんだよな。……この舞台で絶対に吠え面かかせてやる」
何故か突然意気投合しだした二人に、オレは眉間に皺を寄せながら尋ねた。
「おい待て。誰の話をしてる?」
「お前に決まってるだろ、この駄犬」
「そーだね。誰だかをハッキリさせないと分かってもらえないんだったね。全部蒼ちゃんの事でーすっ!」
「本気で煽るぞテメェ等」
「えー、充分腹立ってるけどぉ?」
「“……口数の多い男はウザい”」
「あー……確かに今ので更にイラッときたー」
そんな話をしていると、前方から進行をしてくれている宮仕えの聖獣の声が響いた。
「間もなく入場だ! 衣姿を整え準備しろ!」
オレ達は一斉に背筋を伸ばし、裾の皺や装飾品の位置を確認する。
そして全てを整えまっすぐ前を見据えた時、また隣から赤兎の声がした。
「絶対負けないからね。僕はこの時の為に全部準備してきたんだ」
「知らねーよ。白藤様の神獣になるのはオレだ」
オレはそう答え、視線だけで赤兎を見た。
そうだ。
いくら何を準備してようが、こいつは白藤様が高台から見下ろされていた事にすら気付いていなかったような奴。何を言ってこようが気にする事は無い。
自分にそう言い聞かせながら精一杯肩を張ってみせたが、赤兎は真っ直ぐ前を見つめたまま言った。
「僕は絶対に神獣になる。―――蒼ちゃんと僕じゃ目指す高みが違うんだ。この時間を埋める為に、僕はなんだって踏み台にする」
そう言った赤兎は、まるで少女のような立ち姿なのに、かつて戦の出陣で見送った武将達のような揺らぎない覇気を感じた。
オレもまた視線を前に戻し、ゆっくりと開き始める見上げるほどに巨大な扉を見詰めた。
ここで優勝したからと言って【神獣】になれる確証などはない。
そしてぶっちゃけこの演武の2時間を演じきる体力がオレにないことも理解してる。
だけどどれほど意気込んでも、後悔しても、この舞台がオレの思いを伝える最後の場。
―――オレに出来ることと言えば、死力を尽くしてオレの【勝利】を姫君に捧げるしかないのだ。
◇
あれから門をくぐって舞台に上がるまで、オレ達はもう一言も言葉を交わすことはなかった。
観客席に目をやれば、そこにはオレ達が目指す姫君が、今日も静かに鎮座されていた。
相変わらずご容態は芳しくないとの事だが、今はそれを感じさせぬ凛としたいずまいで、こちらを見下ろされている。
オレは一度深く息を吸い、気持ちを落ち着ける。
そして間もなく鳴らされる太鼓の音を、身動き一つせずに待った。




