四人とかないし
俺は項垂れ、とぼとぼと歩きつつ深い溜息を吐く。
そして現実問題として今後の予定について、考えを巡らせた。
ここ数日意識が飛び飛びとなっていたが、現実の時間はちゃんと進んでいる。
明日……いや、日付が変わってるから“今日”と言った方がいいかな。今日6日目が実演される演武の最終日となる。
そしてそれも終った七日目には【聖獣の選出】と【神獣選び】を行わなくてはならないのだ。
―――とは言え、聖獣選びは上帝様の仕事だ。その件で俺に出来る事はといえば、はんなりと選手をディスって、聖獣に召し上げられにくい様に無駄な抵抗をするくらいしかない。
だが神獣選びについては、俺がたった一人で決着をしなければならないのだ。
……しかし騙されてるとはいえ、護衛獣側にそう言う事情があるのなら、護衛獣でも無い唱を【神獣】にと公に宣言するには問題が出てくる事になる。
何も知らない彼らに『国が護衛獣を突き放した』とも取られかねないからだ。
俺が護衛獣達から神獣を選び出さないと言う事は、既に決まっている。
だが俺のその意思を主張する為の言い方一つで、護衛獣達から皇室への不信を招き、下手すれば暴動にもなりかねないという事になる。
更にはそれにより護衛獣郡で暴動が起こった場合、そこは今いる聖獣達によって【静粛】という名の殲滅対象となる可能性も出てきた訳なのである。
その事を踏まえ、俺は思う。
―――っ超・絶・面倒くセエェぇぇっ!!
叫び出したくなる衝動を必死に抑え、俺はまた溜息を吐く。
「はぁ……護衛獣から神獣を選ばない言い訳、なんて言おうかな……。もう何ていうか―――愛が重い……」
いや、愛でない事は重々わかってるケドもね。
あまりの重圧に俺がそう呟けば、ふと円慶が慰める様に優しげな口調で声をかけてきてくれた。
「そう重く考えすぎなくてもよう御座いますよ、白藤様」
「ありがとう円慶さん。そうだよな、もう少し軽くいくよ…。フヘ、ふへへへへ……」
俺が引き攣った笑いを無理矢理溢すと、円慶は首を振って溜息を吐いた。……酷くない?
俺が少し悲しい気持ちで円慶を見つめていると、円慶は若干呆れ気味に……それでも優しさを滲ませながら言い直してくれた。
「―――そうでは無くて。慣習や儀礼に則ってご自身を蔑ろにする必要はないと申したかったのです」
だが色々と精神的に限界を迎えつつある俺は、口を尖らせ円慶に文句を言う。
「また円慶はそうやってすぐ難しい事を言う……」
「難しくなど御座いませんよ。先日ご自身が嬉々として申されていたではありませんか。【聖獣】と【神獣】は選定基準が違う。神獣は【信】ある者を選びたいと」
「まぁ、俺の理想論だ」
「白藤様だけにはございませんよ。事実、現皇帝である朱蘭陛下におかれましても、その神獣である獅王との繋がりは私共には押し測れぬ程深くございます」
そう言われ俺はふと、気付けば上帝様の側に佇んでいる金髪のナイスガイを思い出した。
「ただ言えることは、白藤様が『腐り切った』と称するこの宮廷の全容を知りつつ、尚も朱蘭陛下にお仕えし続ける【信】ある者である事は間違いございません。―――白藤様も、そのような者を見つける事が出来たのなら、迷わず招かれればよいのではないでしょうか」
俺は今迄気にした事もない“獅王の存在の在り方”への思いもよらぬ見解に、思わず目を見開いて円慶を凝視した。
すると円慶は、何処か面倒臭そうにポツリ付け加えた。
「……と、ここ数日の白藤様の百面相を見て思った訳です。気になる方がいらっしゃるんでしょう?」
「ヒャい!?」
百面相!? 俺そんな動揺してたか!!?
「なな、な何を申しておるのですか円慶。わ、妾にそんな気になる者など、いる訳がごじゃいませんでしょう!?」
「……」
しまった、噛んだ。
「コホン、それに妾の神獣(仮)は唱にすると申したではありませんか……」
「あぁ、その件でしたら問題ありません。【神獣選び】とは本来、四神獣に因んで4名まで選出して良いことになっております。なので唱様を含め、後3名までは可能でございますね」
「いやいやいや。『一人も出したくない』って悩んでんのに、何で増やそうとするんだよ?」
俺は思わずじとりと円慶を睨んだ。
そしてその視線を、ふと円慶の遥か後ろにある闇に浮かび上がる本宮に移す。上帝様の寝所のある宮殿だ。
じっとそちらを見上げていると、円慶が首を傾げながら尋ねてきた。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いや。上帝様は凄い神獣を見つけていたんだなと、改めて尊敬し直したんだ」
俺がそう言えば、円慶は嬉しそうに笑った。
「白藤様は、本当に上帝様がお好きでいらっしゃいますね」
俺も笑いながら円慶の言葉に頷いた。
―――俺は思うわけだ。
誰かにとって『可愛い』と思われる為には、見目だけではいけない。寧ろ見目だけよくて愚かであれば顰蹙を買い、その見た目で陰口でも叩こう物なら嫉妬を買う。
だから『可愛い』と思われる為には、見目よく、健気な努力家で、相手を心から好きでいければならない。
だから俺はどんなに恐ろしくても、嫌悪しても、尊ぶべきその一面に縋り付き、こう言い続けるのだ。
「うん、俺はお母様が大好きだょ!」
俺がにこにこと愛くるしい笑顔で上帝様を褒め称えていると、ふと朴念仁の唱が空気を読まずに俺を促してきた。
「さあ、もう行きましょう。早くお休みにならねば明日の演武観覧に支障が出かねません」
俺はその言葉に頷き、円慶から視線を逸らすとまた前を向いて歩き始めた。




