露店 三
ちょっと早めの投稿になります!
「狼のお兄サァン! お待たせしました! 魚肉饅頭ですっ」
「あぁ、ありがとう」
振り返れば女店主が、小さな青い饅頭をこれまた可愛らしい飾り紐付きの葉皿に包んで差し出してくれていた。
……てか、今更だけど青い饅頭ってキモイな。色とりどりに並べてると可愛いが、単色だと食欲のなくなる色だ。
オレが木貨を渡しそれを受け取った瞬間、背後からギョッとするような黄色い悲鳴が上がった。
「うわぁーっ! ソレ可愛いぃ―――っっ!!!」
振り返ると、さっきの兎少年が目に星を浮かべながら、オレの饅頭を見ている。
更に透かさず饅頭屋の女店主も、拳を振り上げ被せてきた。
「なんと!? この可愛さを分かってくださいますか! て、あれ? 貴方ウサギ耳? もしかして貴方も選手の方なんですか?」
「うん! 僕も出るの。初参加なんだけど、露店って凄いね。こんな可愛いお菓子なんて、僕見たことない!」
「はぅーん! なんて可愛らしいウサギさんなんでしょ!? あ、ウサギさんにピッタリの牛蒡人参味の饅頭がありますよ!」
「え! 僕が可愛い? お姉さん上手だなぁ、じゃあ三個貰おうかなぁっ」
「ま、毎度ありですぅ!!」
戦略は失敗してても、商売人だな……この人。
オレはそう呆れて、桃色の饅頭を受け取る兎少年を横目に見ながら、小さな青い饅頭にかぶりついた。
「わぁー、これが牛蒡人参味? 桃色って可愛いよねぇ」
「可愛いウサギさんなら、何色でも映えますよぉ!」
「じゃあ“映饅頭”だね」
「いいえ“華饅頭”ですぅ」
―――耳にそんな楽しげな会話が聞こえてきいる。
……だがその時オレは、それどころじゃない衝撃を口の中に受けていた。
―――……これ、
超美味いっ!!!
「あ、狼のお兄さん、すごい尻尾振ってますね! どうです? 美味しいでしょう! 味には自信があるんです!」
オレは感動に打ち震えながら、得意気にそういった女店主にコクコクと言葉も無く頷いた。
口を開いて、外気を口の中に取り込む事すらもったいない程の美味さだ。
小さいものだから二口もあれば完食してしまうが、そんな事勿体なすぎてオレは小リスのようにちびちびと齧り食べた。
「蒼ちゃん美味しそうに食べるねぇ。じゃあ僕も……はむ。っていうかコレ、本当に美味しいぃ!!!」
チラリと見れば兎少年も、満面の笑みで桃色の饅頭を頬張っていた。
ふと人混みの向こうから、綺麗な着物を来た二人の女性達がこちらを見て、ヒソヒソと話を始める。
『見てみて、あの兎の子可愛いんだけど』
『本当……ていうか隣にいる子って蒼狼クンじゃない? ほら、去年も6日目まで残ってた子』
『え? 本当だわ! 嘘!? あぁーん、すっごい尻尾振ってるわ! かっ、可愛いぃーっ!』
「何食べてるのかしら? ……“華饅頭”?」
『可愛いお饅頭をすっごい嬉しそうに食べててっ、破壊力超アップなんだけどぉ!?』
……。
……少し恥ずかしくなって、オレがぎゅっと尻尾を捕まえ俯くと『垂れ耳子犬系男子っ! 萌!!』とか叫ばれた。
続いて隣から、ボソリと低い苛立たしげな声が聞こえてくる。
「―――……蒼ちゃんて結構あざといね?」
不思議に思い隣を見れば、そこには相変わらず愛らしい笑顔で、モクモクと饅頭を食べる兎少年。
……聞き間違いか?
首を傾げていると、兎少年がヒソヒソと話す女の人達に手を振った。
「美味しいですよぉ! お姉様達も御一緒にどうですか? “映饅頭”!」
「“華饅頭”ですぅ!」
空かさず訂正を入れた女店主。声を掛けられた女性達は、困ったような素振りをしつつもこちらに近づいてきた。
「えー、どうしよ。こんなに食べれるかしらぁ」
「昼食がまだだし、何とか食べられるんじゃない? 本当にギリギリだけどぉ」
……都の女達は、胃袋が極小らしい。
「じゃあ食べ切れなかったら僕が食べてあげるよ!」
「もー、うさちゃんがそう言うならしょうがないわねぇ。本当にこんなに食べ切れないのにぃ……。じゃあ、すみませんが3箱頂くわ」
っ3箱!?
冷や汗が出るほど驚いたが、それはどうやらオレだけじゃなかったらしい。女店主もあたふたと、目を白黒させながら頷いた。
「ふっ、ふぁい! 只今っ、ごごご用意をばっ!! えっと、13500穀になりますが!?!??」
「はい(チャリーん)」
嘘だろ!? 13500穀!? 饅頭に!!?
「じゃあ私は5箱貰おうかしら」
「ご!? ごっ、ごっ、ゴホン、5箱でございますか!? かかかかしこまりましたぁ!! 22500穀ですぅ!」
啞然とそのやり取りを見ていると、とうとう痺れを切らした象奉隊長と豹牙がやって来た。
「饅頭一個に何をやってるんだ蒼狼。そろそろ帰る時間だぞ」
「あ、象奉隊長。すみませんす」
オレがそう言って見上げると、ふと隊長の目が驚いた様に大きく見開いた。
その視線の先に居るのは、3個目の饅頭を食べ終え、満足げに息を吐く兎少年だ。
「ぷぅ……美味しかったぁ」
象奉隊長はその笑顔に、少し強張った声で尋ねかけた。
「―――……お前……“赤兎”か?」
「え!?」
「!!」
オレと豹牙は同時に兎少年……いや、赤兎を見た。
だって赤兎と言えば、隊長が“大粒”だと褒めそやしていた者の一人だったのだから。




