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モリビト ◇白藤視点◇

 

 《白藤視点》



「決めました。この小鳥の名は“飛喜彦(ピヨ彦)”にいたしましょう」


 白姫の塔に戻ってきた俺は、蒼狼達が入手してきてくれたモモイロインコを前にそう告げた。

 すると間髪を入れず、蒼狼が俺のネーミングセンスを褒めてくれる。


「素晴らしいです! “喜びに飛翔する”という意味ですか。何ともめでたい名ですね」

「うふふ」


 でもごめんな。

 実は何となく○ューと吹くジ○ガーさんが脳裏を過ぎっただけなんだよ。

 ついで、唱鶏も珍しく機嫌よさそうに発言してきた。


「突然動物を飼いたいと仰られた時は正直驚きましたが、犬でも猫でもなく鳥とは……。流石でございます」


 ……鳥が流石? 何故?

 犬は宮庭で散歩させてやれないし、猫はそこいらで爪とぎされたら困るから、消去法でそうなっただけなんだが、一体何が流石なんだろう?

 俺ははてと疑問に思いつつも、とりあえず頷いておいた。


「そう、唱鶏は鳥が好きだったのですか?」

「いえ、私は別段好きではありませんが」

「え……?」


 こいつはマジで何を言ってるんだろう? よく分からなくなってきた。

 周りを見れば、蒼狼と豹牙も俺と似たような視線で唱鶏をジトりと見ている。

 俺はそれ以上唱鶏に突っ込むことなく、鳥籠の中で怯えて身を小さくするピヨ彦に視線を向けた。

 そして籠の隙間に粟の穂を差し込んでやると、ピヨ彦は警戒しながらも直ぐにそれを啄み始める。

 市井の街頭で売られていたのだ。警戒心はあれど人を見慣れているのだろう。


 俺は粟の実を美味しそうに啄むピヨ彦を眺めながら、唱鶏に言った。


「唱鶏。ピヨ彦は今この時より、妾の愛鳥と定めます」

「はい」

「そして妾の大切なピヨ彦の世話は、そなたに全て任せます。さすればピヨ彦は、妾達の“小さな守り人”となってくれる事でしょう。期待しておりますよ」


 俺がそう言うと、ふと唱鶏の眉間にシワが寄った。そして凄く申し訳無さそうに小声で答えた。


「……尽力は致します。……しかし、流石にこの小鳥を兵士にするとなれば……」

「いえ、兵士にはしないでくださいね。こんなかわいい小鳥に、一体そなたは何をしようというのですか」


 俺はやつの言葉が終わる前に、すぐさま訂正をいれた。

 すると唱鶏の眉間からホッとしたようにしわが消える。

 ……まぁ確かに訓練次第によっては、人語を真似て話すとは言われているが、流石に戦いは無いだろうよ。


 どうも今回ピヨ彦を同胞として迎え入れた目的が、いまいち周りに理解されていなかった為、俺は改めて三人に説明をする事にした。


「―――今から約一月後、皇族と4大大名達が一同に介する“秋の定例会”が、本宮にて行われるのは知っておりますね。そしてその際、妾は蒼狼を始め、唱鶏と豹牙を伴い出席するよう言われるでしょう」


 と、その瞬間。ここまで沈黙を守っていた豹牙の肩がピクリと跳ねた。

 ま、聖獣の印が刻まれた者にとってそこは、まさに処刑場のような場所だろうからな。


「そこは互いの腹を探り合い、時に貶め、己の地位を確認しようとする場です。今迄の妾であれば皇帝の裾に隠れ、取るに足りぬ存在と周りに思わせておけばよかったのですが、今後はそうもゆきませぬ。神獣という力を手にし、蒼神楼を取り込んだ事により、彼等は妾を取り込むか潰すかを見定めにくるでしょう」


 そして、奴らは“戯れ”と称して、必ず探りを入れあう。―――それぞれが連れてきた聖獣を使って。

 冗談めかして互いの内情を敢えて聖獣に問い、それに答えられない聖獣達の表情を読み合うのだ。

 だが、呪印により当然答えられない聖獣達は、相反する命令に悶え苦しむ事になる。……何とも悪趣味な場であった。


「彼等は笑いながら嘘偽りの吐けぬ豹牙に尋ねてくるでしょう。……しかしその件に関しては、豹牙はなんと答えてくれても構いません。現状程度であれば“初めて手にした神獣や聖獣に浮かれる姫の盲言”や、“民を思う優しい姫の短慮な計らい”として笑い飛ばさせる事ができますので」


 ……ぶっちゃけ、獣人の復権を謳ったくらいなら、蒼神楼の店主が思った様に“夢見がちな箱庭の姫の戯言”って事で笑い飛ばされるだけだ。

 賢姫のイメージが崩れるのは痛手だが、状況によっはその程度の道化は演じてやる。


 だが一つだけ例外があった。


「しかし唯一、絶対に語ってはならない存在がある。―――それが明るみに出れば、どんな弁明も通らない。分かりますか? 豹牙」


 俺の突然の振りに、豹牙は苦々しげに……それでも言い淀むことなくスラスラと答えた。


「はい。地下の“草”の存在ですね。―――私がもしその事実を口にしてしまえば、白藤様は“魔獣を匿った罪人”として、その場で糾弾される事となる。……そして皇族家一同及び各大名の前で曝された罪状ともなれば撤回もし難く、朱蘭皇帝は白藤様を切り捨て、その後ろ盾も消える事となるでしょう」


 そう。そういう事なのだ。

 印のない獣人は、この煌華帝国の敵であり、罪人であり、生かしておいてはいけない存在とされている。

 だが俺は地下に捕えているあの子供を、今更殺す気など当然ない。

 とはいえ、大名達は自分達の送り込んだ刺客がどうなったのかの探りを入れてくるだろうし、上帝様に至っては陵叛に多く食事を作らせている事など筒抜けだろう。

 まぁ、俺という手札を失いたくない上帝様は、多分あまり突っ込んで来ないとは思うが、大名達からその話題が出るのは必至。よって、それを問われた時、俺達には抜け道が絶対に必要だった。 

 そして、その抜け道と言うのが、このピヨ彦様なのである。


「秋の定例会に集まる者達は皆、獣人を自分達と同じ人とは考えぬ者達です。豹牙を問い質すにしても、必ず“何を飼っているのか?”と言ってくる筈。―――いいですか? 豹牙は元より、二人心に刻んでおいてください。妾が地下で()()()()()()()()()()のは()()()()()だと。そして名もないあの子は、妾達と何ら変わらぬ人であるという事をハッキリと認識していれば、何を問われてもあの子について話す事はないでしょうから」


 聖獣は問われれば嘘はつけない。しかし問う方も正しく質問しなければ、情報は引き出せない。……その穴を突こうというのだ。


 俺はこの件の重要な鍵となるピヨ彦に、また視線を落とした。

 ピヨ彦はキラキラと輝くつぶらな瞳で、俺をじっと見上げている。

 その様子はまるで“俺に任せろ”とでも言わんばかりに胸を膨らませて……―――いや、そんな訳ないな。

 さっきやった粟の穂の大半を食べ尽くしてるあたり、多分“おかわりはまだ?”とか思ってるんだろうなぁ。だって唯の無垢な鳥だもの。

 もう一束やろうかな? いや、よく見りゃこいつ結構肥満体型だしやめとくか。


 俺はピヨ彦の期待に満ちた眼差しから目を逸らせると、唱鶏の方に籠を押して言った。


「そういう訳です。頼みましたよ、唱鶏」

「はっ。飛喜彦を私が預かる意味、然と理解いたしました。餌は粟や麦、青菜や果実……それに“華”といった所でよろしいですね」


 唱鶏の答えに、俺は思わず笑った。

 “華”とはつまり、皇族を指す隠語の一つ。

 つまり“檻に閉じ込め飼われている獣は華を食す”と言えばそれは紛う事無く事実であり、奴等を勘違いさせるにも十分な意味合いを持っている。

 俺は頷き、唱鶏に言った。


「よいと思います。ピヨ彦は妾達の命綱。皆もこのピヨ彦を、妾の分身の様に大切にしてやってくださいね」

「御意に」



 それから唱鶏は、今後朝夕の報告の際はピヨ彦を連れて来ると言って訓練場に戻っていき、俺は蒼狼と豹牙から報告と土産話をたっぷりと聞いたのだった。

 朱ノ三の兵士達から勝ち星を奪ってきた事や、朔黄姐様の挙式の様子など、二人は楽しそうに俺に語って聞かせてくれ、俺もまた、目を輝かせながらその話に聞き入った。

 ただその間少し気になったのが、蒼狼が何故かお忍びように着ていった着物の包みの方に、チラチラと何度も目をやっていた事。

 しかし結局何を気にしていたのか、蒼狼がその日話してくれることはなかった。






 ―――またこれは余談になるのだが、それから三日後、ピヨ彦が喋った。



「シロタン、カワイィ、カァーワイーィ! キョキョ」

「ピヨ彦! もう喋れるのですか!? 天才ですか!!? 賢すぎますぅーっっ」

「キョーッ、シロタンカワイィ、フウゥー!」

「きゅぅーんっ! ピヨ彦もかわゆいですぅー!!」


 その天才ぶりに俺は歓喜し、ピヨ彦に葡萄やら栗の実やらを望まれるままにあげていた。しかしその途中で、ふと我に返る。


 ……待てよ? こうしてピヨ彦が話すには、それ相応の反復訓練が必要だった筈。一体誰が教えた……?


 俺はふと、ピヨ彦の世話係が粟の穂を片手にピヨ彦に向かい合っている姿を思い浮かべる。そして………―――うん。


 そして例の雨の夜以来、俺は初めて思考を放棄したのだった。





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― 新着の感想 ―
[一言] お久しぶりです すっごく面白いですっ!! 今回も楽しく読ませていただきありがとうございます! 蒼狼のお祖母さんが蒼狼のことを想っているのが感じられて素晴らしかったです、あと蒼狼に白藤の想いが…
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