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優勝者、そして――

 琉海が攻め、グランゾアが守るという構図ができつつあった。

 琉海が駆け出す。

 さっきよりもさらに速くなる。


(まだ速くなるのか)


 グランゾアの汗が頬に垂れる。

 だが、さっきとは違って真っすぐ走ってくる琉海。

 グランゾアは琉海の前に自慢の盾を置き、壁にする。


 盾が吹き飛ばないように重心を傾けて待つが――


「ぐふっ!?」


 あまりの衝撃に盾ごとグランゾアの体が吹っ飛んだ。


(本気じゃなかったのかッ!?)


 空中を飛ぶ体は止まることなく、闘技場の壁にぶつかってようやく止まる。

 体がめり込むほどの勢いで直撃した。

 普通の人間では耐えられないだろう。

 だが、グランゾアの能力は倒れることを良しとしない。

 グランゾアは壁に嵌まった体を剥がし、壁から抜け出す。

 グランゾアの左手に持つ、オリハルコン製の盾も健在だった。

 扱う者がグランゾアでなかったら、盾が壊れる前に使い手が壊れていただろう。


「なるほど、これでもダメか……」


 琉海は片手に持っていた大剣が粉々になるのを見つめそう呟く。

 琉海の口元には笑みが浮かんでいた。

 今までの戦いでここまで壊せないものはなかったからだろう。

 その笑みを見たグランゾアの背筋に悪寒が走る。

 グランゾアの勘が警鐘を鳴らしているのだ。

 あれは戦うべきではないと。

 あの覇気のない少年から感じられるものは何もないはずなのに、自分が狩られる側だと生物的勘が訴えてくる。

 この勘は今までの戦場でも頼ってきたものだ。

 全力で戦ってみたいと思う衝動もあるが、これ以上は命を賭けることにもなりかねない。

 グランゾアの勘がそう叫ぶ。

 勝利も大事だが、試合で命を賭けるほどだろうか。

 いや、命には変えられない。

 琉海が再び二振りの剣を生み出し、駆け出した。

 俊足と呼ぶに等しい。

 今までの中で一番速い。

 グランゾアの目にも琉海の姿はもう見えなかった。


 だが、グランゾアは盾でガードせず――


「私は負けを認める」


 グランゾアの宣言と共に琉海は剣を止める。

 突風ともいえる暴風がグランゾアの周囲を舞った。

 寸止めかに見えた剣先はグランゾアの持つ盾にあたっており、剣は亀裂が走り、光の粒子となって粉々になる。


 だが――


 ピシッ!


 グランゾアは嫌な音を感じた。

 それは、自分の手元。

 盾を持つ左手からだった。

 次第に音が大きくなり、腕にかかっていた重量感を失う。

 盾の中心から亀裂が広がり、盾は原型を保てなくなった。


「なッ! 馬鹿なッ!?」


 想像していなかった現象にグランゾアは目を見開く。

 茫然自失。

 無残な塊となった盾の残骸と左手を見つめ、茫然とするグランゾア。

 そして、グランゾアの負けの宣言により、審判が琉海の勝利が告げられた。


「勝者、ルイ!」


 瞬間――


 観客たちが歓声を上げるかに見えたが、そうはならなかった。

 歓声が巻き起こる前に上流貴族専用の観戦席の一室が吹き飛んだ。

 瓦礫や破片が一般の観客席や舞台に降り注ぐ。

 予想外の出来事に観客たちは悲鳴を上げ、逃げ出す。

 琉海とグランゾアはこの状況の発生源に視線を向けた。

 離れた場所で見ていた者や状況を理解できてない人も琉海たちと同じように見上げた。

 砂煙で何が起きたのか見えないが、次第に煙は晴れていく。


 そして、そこに姿を見せたのは――


「ドラゴン?」


 琉海は個室を破壊し、こちらを睥睨する生物を見てそう呟いた。


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