誤算
「ねえ、イブラス。イロフって男、棄権したみたいなんだけど」
リオナが白い目でイブラスを見る。
「こ、これは私も予想外ですね」
イブラスの口元は引き攣っていた。
これから言われるだろうことが想像できてしまったからだ。
「へえ、そうなの。でも、棄権するんだったら、イブラスが準決勝に出たほうが良かったんじゃない?」
首を傾げて言うリオナ。
可愛い仕種で言ってくるが、イブラスの心境は恐怖だった。
イブラスの主人はかなり怒っている。
それがひしひしと伝わってきた。
幼馴染のティニアが危険なときは心配するが、基本的に負けず嫌いなのがリオナの本質。
イブラスが昨日あっさり負けてしまったことをあまり良く思っていなかった。
それを何とか言いくるめた矢先にこれだ。
イブラスは内心でイロフに罵声を浴びせていた。
だが、それよりもまずは己の主人の怒りを鎮めるのが先決だ。
「そ、そうですね……。ですが、昨日の試合で勝って私が出たところで消耗していて何もできなかったでしょう。むしろ、去年の優勝者と万全の状態で戦うことで、彼本来の強さが計れるでしょう」
苦し紛れの言い訳をするイブラス。
リオナはジッとイブラスを睨んでいた。
無言の圧力が痛い。
イブラスの額に汗が浮かぶ。
すると――
「はあ……」
リオナは大きくため息を吐き、
「まあ、あなたでも相手の行動までは操れないわよね」
リオナは一応納得してくれた。
内心ほっとするイブラス。
だが――
「でも、準々決勝での負けを許したわけじゃないわよ」
リオナの怒りは完全に収まることはなかった。
「は、はい……」
今後、イブラスはことあるごとに今回のことを持ち出され、リオナの暴走を止めるのに苦労することだろう。
リオナはイブラスのことはもういいのか、いまに始まる決勝の舞台を眺める。
「はあ……」
イブラスはリオナに気づかれないように小さくため息を吐いた。
イロフに恨み言を言いつつ、イブラスも決勝の行く末を見守ることにする。




