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予想外

 翌日。

 会場では、予想外なことが起きていた。

 準決勝を観戦しに来た観客も騒然となる。

 なんと琉海と準決勝を戦うはずだったイロフが突如の棄権。

 これにより、琉海は準決勝を不戦勝で勝ち抜け、決勝に勝ち上がった。


「団長も困った人だ。わざわざ真剣勝負の一騎打ちがしたいと言い出すなんて」


 イロフは会場上段の個室から中央の舞台を見下ろす。

 本当なら琉海と戦っていたはずだったのだが、表情からは何も感じられなかった。


「まあ、しょうがねえんじゃねえの。グランゾアの旦那が力を示したいって言うんだから」


 酒の瓶を片手に持って諦めろと目で訴えるシェイカー。


「わかっている。俺が戦って負け、団長が勝ったとしても、相手が消耗していたんじゃないのかと勘繰る奴もいることは」


 力を示さなければ、王国での居場所は無くなる。

 そして、傭兵出身が多いホルス騎士団は特に貴族たちから、難癖を付けられる標的になりやすい。

 面倒事から解放されるには、力を示すしかない。

 グランゾアは周りに何も言わせないために両者万全の状態で戦い、勝利することを選んだ。

 優勝すれば、王から褒賞も貰える。

 文句の付けようがない圧倒的勝利がグランゾアの筋書きだろう。

 グビグビと瓶に口を付けて酒を飲むシェイカー。


「そろそろ酒に溺れるのはやめたらどうだ」


 琉海に負けてから、シェイカーはずっと酒を飲み続けていた。


「うるせえ。お前は俺の母ちゃんか!」


「いや、違うが辛気臭い面を見せるのはやめろ。空気が重くなる」


「はッ! 勝負から逃げた奴がなに言ってるんだ」


 シェイカーは準決勝のことを言っているのだろう。

 だが、イロフはそんな挑発には乗らず、眼鏡のブリッジを中指で押し上げてため息を吐く。


「そんなに予選で負けたのがショックだったのか」


 イロフの言葉にシェイカーは顔を歪ませる。


「負けたのは別に初めてじゃないだろ。団長にも負けているんだからな」


 イロフの言っていることは、その通りだった。

 だが、自分の技を簡単に真似されたあの感覚。

 それも自分以上の完成度で。

 戦場に立ったこともなく、覇気のないあの少年に負けたことが、今も信じることができないでいた。

 空気を換えるようにイロフは話題を変える。


「戦ったことのある君なら、団長とどっちが勝つと思う」


「さあな、まあグランゾアの旦那が勝つんじゃねえの」


 再び、瓶を口に運ぶシェイカー。

 やれやれとイロフは首を振り、舞台へと視線を向けた。

 これから、決勝が始まる。


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