戦場の朝
8章 「戦場の朝」
『今日も、生きていられる。』
ミリーを送り返してから一ヶ月がたった。
陽光にうっすら透ける掌の血脈に目を細める。
ミリー。ごめんな。
あんなに泣かせると思わなかった。
『僕の愚弟がどこで何をしようと知ったことじゃないね。
僕は、今の地位を守るだけで忙しいんだ。』
吐き捨てるようにあらかじめ決めていた台詞を吐く。
どうして、そんなに冷たいの?
問いかけるミリー。
ああ、どうして諦めてくれないんだ。
『情なんてあるわけがない。
僕は正妻を迎えるワルトミュラー侯爵に母親共々捨てられた。』
そのあと、シュナイザーが生まれ、僕と言う存在は消し去られた。
母を早くに、あいつなんかよりも早くに亡くし、祖父母からは庇護されず。
1人、村にあばら屋を建てて暮らしてた。
自分の暮らしを何とか立てられるまでになって、仕事も楽しめるようになった時に…!
あいつは、ワルトミュラー侯爵が亡くなったから、兄として協力しろ?
認知をしてやった、感謝しろ?
僕のこれまでの苦労は!
母さんが早くに死んだのは!
何になるって言うんだ。
なりきる力は凄いと知った。
『ミリー。帰ったら、シュナイザーとしてミリーに愛を伝えるよ。 』
生きたいと、今、本当に思える。
生きられないかもしれない。
世の中には、自ら無意味に命を捨てるものが居ると聞いたことがある。
そんなに棄てるほどなら、俺にくれよ!
生きて、大切な人を幸せにしたいし、守りたい。
笑いあえるような家族を作りたい。
そんなの、幻想でしかないのに。
『ミリー、会いたい。会いたいよ。』
自分で送り返しておいて何だけど。
会いたい思いが止まらないんだ。
ああ、どうしてだか父さんがあそこまで母さんを大切にしていたかわかったよ。
この闘いに勝って、帰ったらミリーを幸せにする。
これ、決定事項。
『いつまで、偽りのこの姿で過ごせるかな。』
田舎領主だったために、年をごまかしたことはばれずにすんでいるけど。
証拠も粗方集まってきたな。
この国で最高の司法機関である貴族院。
そこに3年前、俺の両親の命を奪った犯人を引っ張り出す。
その為だけにこの3年を生きてきた。
『シュナイザーの兄とか言う貴公子が現れました。』
おかしい。
あれのところには、未だ未婚の少年の成りをした嫡子が1人。
議会に入れる年齢ではない。
手駒にすることは可能かどうか。
一度、面会をしてみなければ。
戦場の朝仁それぞれの思惑━━━━。




