嘘の心
7章 「嘘の心」
『生きて帰れたらって、シュナは死ぬつもりなの?
ねえ、教えて。カイン。』
シュナの身に何が起こってるのか?
どうして嘘ついてまであたしを王都から連れ戻したのか。
涙ながらに婚約者を想う心に、主を裏切れない心が造反する。
教えられない。
『シュナイザー様がミレイユ様を守りたいためなのです。』
今、シュナイザー様がなさろうとしていることはご自身の命ばかりかミレイユ様を傷つけることになるやも知れない。
シュナイザー様はそれがわかっていてあなた様を逃がしたのです。
あなたを大切だと思っていなければできないことです。
況してや、自ら冷たい態度をとった。
これは、どういう意味だかわかりますね?
『ねえ、カイン。
あたし、シュナが帰ってきたらシュナを幸せにする。』
だから、幸せにされに帰ってこさせるんだ。
笑うミレイユ様にシュナイザー様がもう、生きる希望を持っていないことを伝えられない。
シュナイザー様は文字通り、命を棄てる覚悟で王都に出た。
『これは、ミレイユ嬢。
この度はお子を授かったとか。』
まだ、父親のシュナイザーは16になったばかり。
子供が子供の親とは。
なんだか、この人は受け付けない。
伯父様の兄だとか言う人だけれど、全く似ていない。
少なくとも、伯父様は紳士で女性を大切に扱い、下世話なことを言わなかった。
本当に妊娠した訳じゃないけど、気分が悪くなる。
『確かに、シュナイザー様は16におなりですけど、私とて15になったばかり。』
しかしながら、シュナイザー様は領主として立派に務めておいでなので、生活の心配はしておりませんの。
むしろ、どこかのどら息子と違い、婚約者のいる後宮仕えの娘を口説くこともない。
最も最良の夫といえましょう。
それに、私を愛してくれて、この子の誕生を待ちわびてくれている。
最も最良の父親といえましょう。
怒るでも無しに淡々と言い募る。
『奥方様、あまり気を荒立てるとお腹のお子に障りますよ。』
落ち着いて、と声をかけるカイン。
彼と使用人は妊娠が嘘だと知っている。
だけど、口をつぐんでくれている。
それどころか、こうしてごまかしてくれている。
先頃から、奥方様へ下世話な会話をされている人間がいると下女から噂になってございます。
少し、口を慎まれたらいかがでしょう?
それに、年若くても旦那様はワルトミュラー侯爵家のご当主。
跡継ぎは早いに越したことはないでしょう?
ミレイユ様はしっかりしておいでですし、立派にお子をお育てすることでしょう。
すらすらと嘘をつくこの侍従にさすがにシュナの一番の懐刀だと感心した━━━。




