つかの間の日常
6章 「つかの間の日常」
『カイン、お前だけは俺の味方でいてくれ。お前だけはこれから俺がすることを知っていてほしい。』
もしも、俺が死んだときにはミリーが不幸にならないように見守ってやってほしい。
これが俺にできる精一杯なんだ。
主はまず、計画の実行を3年後と決めて小細工を始めた。
手始めに3年後、自由に動き回れるようにシュナ=クラヴィスという人物の架空の戸籍を作り出す。
在住地は主の所領の村。
母親はかつて領主館に仕えた娘。
当時の領主との間の子供だったために認知もされず、父無し子として育つ。
この度、領主の死亡によって異母弟であるシュナイザーの知るところとなり、正式な戸籍を作られた。
異母弟はどうしてだかなかなか頭の切れる異母兄を慕っているらしい。
簡単に作った経緯だ。
『俺は、両親の敵を知っているから復讐するんだ。』
シュナイザーの良くない噂をたてるために無理して酒を煽る。
身体が辛いはずなのに領地のことを采配し、良民に慕われる新しい領主になる。
酒なんて飲まずに、このまま良民に慕われる領主となってくれれば、と何度思ったことか。
だけど。止められなかった。
『酒量を知った今ではミリーに心配されたくて飲みすぎた振りをしてるんだ。』
ダメな婚約者だよね。
死ぬかもしれないのに、ミリーに冷たくできないんだ。
泣かせることしかできないなんて。
ミレイユ様はきっと、シュナイザー様が甘えていらっしゃることをご存知のはず。
それでも、シュナが生きていてくれたことが嬉しいと抱き締める姿はいじらしい。
『ハルファンの若君にミリーが見初められそうなんだ。』
シュナイザーのために、身近な裏切り者を炙り出して欲しいとミリーには言った。
悪いが、シュナイザーの子を宿した婚約者を領主館で保護の名目で護衛してくれ。
もちろん、子供のことは振りだ。
天に誓ってそんなことはしていないから。
主に了承の意を伝える。
『あと、もし、生きて帰れたら。
子供の嘘は本当にしよう、ってシュナイザーからの伝言として伝えてくれ。』
了解です。
もう、若君と呼べないですね。
ご主人様。
お帰りをお待ちしております。
ミレイユ様のことは、どうかワルトミュラー家の皆にお任せください。
ひとり、孤独な闘いに挑む主に精一杯の言葉をかけることしかできない自分を呪った。
どうか、ご無事で帰って、つかの間の日常を永遠の日常に。
あなたしか叶えられない夢を━━━。




