前向きに
5章 「前向きに」
『カイン、この手紙をポルックス男爵に。
お前が使いとして行け。』
我が主は絶賛公務中である。
王都の貴族院に提出する予定のレポートを適当に製作しているらしい。
領主様がおっしゃっていたことがある。
こいつにとって領地運営は赤子の手をひねるようなものだと。
何を教えてもたちどころに吸収して最早、教えることは何もないのだと。
領主館に仕える数人余の使用人たちは知っている。
ご子息のシュナイザー様がとても秀でておいでの若君であることを。
よって、失業の心配なんていらない。
『皆、此度は両親の墓所などのこと、積極的に働いてくれてとても感謝している。』
感謝の言葉から始まった会見。
皆変わらずに仕えてもらいたいことと、今までと給料面は変わらないこと。
爵位と地税権を先のレポートでの仕事ぶりを買われて継承したこと。
後見人として叔母の夫であるポルックス男爵を指名したこと。
そして、ポルックス男爵家のミレイユ嬢と婚約を交わしたこと。
最後に付け加えられたことは、主が幼い頃より知っている使用人たちを喜ばせた。
まだ、幼くて何かと至らない自分とこの、ワルトミュラー家を支えてほしい、と最後に締め括られた。
『若君、ハルファン家の領主様がいらっしゃいました。』
伯父様が?わかった。
すぐ行くよ。
父方の叔父がいるのにも関わらず、母方の叔父に後見人を指名したことがわかって飛んできたのかな?
『お待たせしました。叔父上。』
おお、待ちくたびれたわ。
此度のことはとても辛かろうな。
して、後見人のことだが。
うん。お悔やみなんて秒殺で、本題を喋り出すとは。
あなたの弟が死んだんですよね?一応?
『その件でしたら、ワルトミュラー家の血筋と両親の遺言に乗っ取って後見人の選定を行いました。』
本来のワルトミュラー侯爵は母だ。
そして、本来、母が亡くなりし時には叔母が引き継がなければならないが、俺がいる。
本当は叔母に頼みたかったけど、いろいろ考えた末、貴族院で議席のある近親に委ねただけのこと。
『婚約のことは?』
別に、従妹だからというわけではなく。
ただ、嘆き悲しむ僕を癒してくれたのです。
彼女にはまだ何も、話せていない。
いつかは想いを告げたいけれど。
気恥ずかしそうに答え、誰にも言わないでと甘えたような顔をしておく。
前向きに生きてる。
自暴自棄にもなったけど、前向きに生きることを考えられる。
俺だけが生き残った意味を考えたい━━━。




