砕けた心
4章 「砕けた心」
『…えっお姉様とお兄様が?』
お母様がカップを落とされた。
こんなに動揺されたお母様を見るのは初めて。
ねえ、何があったの?
『ミレイユ、伯母様と旦那様が亡くなられたらしいのよ。』
従兄のシュナイザーが一人だからとあたしを連れて故郷へ戻られるお母様。
従兄のシュナイザー様とは小さい頃に何度か会ったことがある。
だけど、最近は手紙をやり取りすることだけ。
侯爵家の子息としての学問も優秀な成績だと聞く。
どんなお兄様になっていらっしゃるのだろう?
このときのあたしはまだ、何も知らずにいたんだ。
『シュナイザー、お姉様と旦那様は?』
ええ。墓所の方にて。
叔母様が最後の別れをしてから墓の下に…。
ミレイユ様は、僕と遊んでいましょうか。
お母様は一人で墓所に向かわれる。
まだ伯母様がデビュタントの頃にお祖父様とお婆様を亡くされたと聞く。
伯母様は家を継ぎ、気丈にも振る舞っていたらしい。
それどころか、妹が嫁に行くまで自分のことは後回し。
気丈なその性格までもがシュナイザー様に遺伝されたとこのときのあたしは思った。
『あっ、小鳥の雛が落ちている。』
ああ、本当だ。まだ、親に大切に育てられていなければいけないぐらいなのに。
そっと雛を掬い上げ、掌に乗せる。
器用にも片腕だけで木に登り、雛を戻してやる。
儚い笑顔を浮かべて。
その笑顔が悲しんでいるように見えてあたしは居たたまれなくなった。
どうして従兄に会えると言うだけで浮かれてしまったのか。
『シュナイザー様、泣いてもいいです。
ここにはあたししか居ません。
この事も口外しません。』
泣きたいときは泣いてもいいです。
あたし、側に居ますから。
側に居て抱き締めていることだけしかできないけど。
誰かに見られても今のあたしたちなら、一緒に居ても微笑ましいと思われるだけ。
だから、泣いていいです。
『シュナイザー様っ。』
カインか。叔母上は大丈夫か?
お気落としではないか?
さっきまで、泣いていた人間とは思えないほど気丈に振る舞っている。
大丈夫なのかな?
『カイン、これ片しといてよ。』
渡したのは拳銃。
すべてが終わったら、死ぬつもりだった。
だけど。ミレイユ。
つたない言葉だったけど、心に響いたよ。
ミレイユがかけてくれた言葉が俺を支えているんだ。
お父様たちを殺した犯人はわかっている。
お父様が殺される姿を見た俺にはわかった。
犯人は俺のことも知っていた。
だが、お父様が誤魔化してくれたから殺されずに済んだんだ。
そして、ミレイユが言葉をくれて粉々に砕けた心に言葉をくれたから生きようと決めたんだ━━━━。




