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第9話 解錠のリスク

翌朝。


国をあげて行われる由緒あるお祭り、煌王祭こうおうさいまであと6日。


溜まった心労から一気に開放され、静かに目を覚ますアルスティ。


「(すっごく柔らかくて、気持ちよかった……)」


自らが身を預けていたベッドシーツに視線を落とす。


これまでの商人生活は安値の宿か、野宿を繰り返すだけの生活だった。


ティアネの部屋と比べるとさすがに手狭ではあるものの、大貴族の城の一室であることに変わりはない。


「(昨日の夜だけで色々あったなあ……)」


指折りで昨夜の出来事を振り返るアルスティ。


まず、あたしがここに着いてか「ア~~ルスティ~~~~~~!!」


“だだだだだだ!” 


「おはよっ!!♪♪」


“かちゃっ”


「わひゃあっ!?」


騒々しい足音からギャップを感じる開閉音。


アルスティが驚いたのはティアネお嬢様の声量だった。


「お、おはようございます、ティアネ様っ……あ」


「『さま』はやめてって言ったじゃない♪友達なんだから♪」


満面の笑顔で朝の挨拶を済ませるティアネ。


右手には食器皿。その上には山盛りのサンドイッチ。


左手にはたっぷりの水瓶。両腕をぐいっと体の前に差し出す。


「はい!イルゥニたちに作ってもらったわ!貴方の分っ♪」


「ぇええっ!そ、そんな……」


ベッドに座ったまま、有無を言わさず食器皿ごと押しつけられる。


「ねっ!ねっ!メイドとしての研修は夜からだったわよねっ?」


「そ、そうですねっ。今朝はイルゥニさんが用事があるからとかで……」


「食べていいわよっ♪すっごく美味しいの♪貴方にも食べてほしくて!」


目を輝かせるティアネの視線をうけつつ、流されるままに小さな口で「はむ」と頬張る。


「……~~~っ!♡ おいひぃ~~……!♡」


ティアネに負けないほどのきらめく瞳になる。


「でしょお?♪」と返ってくる得意げな声を聞きつつ、夢中で頬張る。



「そのままでいいから聞いて!じゃあ今日だけは、夜まで時間があるってことよね?」


「んむ、んむ… はぃ… ごくん。一応は……」


「じゃあ行きましょっ!城の外っ!」


「んぶっ!?んぐ、げほっ、げほっ!ぇほっ!」


「どうしたのっ大丈夫!?ほら、飲んで!」


ティアネに背中をさすられながら、頬についたソースを拭うこともなく水分で気道を確保する。


「ん、ぷはぁあっ……はぁあっ……さ、早速ですかっ?だ、だってまだ朝……」


「言ったじゃない!私、時間がないの!煌王祭こうおうさいまでに!」


水瓶がこぼれないようしっかり手に持ち、ぐっと力強く宣言するティアネ。


「煌王祭……ああ、そういえば城下町も何か、お祭りの準備をしていたような……」


「そう!私、それを見て回るのが夢のひとつなの!」


「なるほど……だからそんなに急いで……」


すると、扉の方から規則正しい間隔のノック音が数回。


「失礼します。ティアネ様。セニーナです」


綺麗に磨かれたガラスのように、冷たくもクリアな声が聞こえる。


「セニーナ?入っていいわよ~!」


現れたのはティアネたちよりも少し背が高く、美しい姿勢の女性。


「アルスティ!紹介するわね、この人はセニーナ!私の城を守ってくれる騎士!」


「おはようございます、ティアネ様。……初めまして、アルスティさん」


セニーナと呼ばれた女性騎士は順番に二人に目を向け、しっかりと頭を下げて挨拶する。


「(キレイな人…)あ、お、おはようございます。初めまして」


「どうかしたの?というか、どうして私がここにいるって……」


腰まで伸びる長いポニーテールを小さく揺らし、セニーナの視線はティアネに固定される。


「イルゥニさんから伺いまして。――ティアネ様。昨夜……城の大倉庫付近にて、異変が起きたとの報告が」


「(あっ……昨日の……!)」


罪悪感が降ってきて、さっと目をそらすアルスティ。


「ガーディアンゴーレムが普段と違う時間に起動し、騒音を」


もしかして、無許可で開けてしまったことが、何かしらの罪に問われてしまうのでは――


そこからティアネの脱走計画を勘付かれてしまったら……?


だとすると――マズい。自分のことはいい。それよりも、『友達』の脱走計画が……。


「あ、あのっ!それは、昨夜あたしが「ごめんっ!私が勝手に起動させちゃって!」」


言っちゃっていいんですか!?怒られない!?


「ティアネ様が、ですか?……お怪我は?」


セニーナの表情は変わらず、かといって威圧的にもならず、事務的ながら真摯な態度で見つめる。


「ケガもしてないから安心して!この子がちょうど通りがかって、助けてくれたの!」


ティアネの表情に焦りはなく、罪悪感の類は感じられなかった。


仮にも脱走計画を実行する瞬間だったというのに、その目は『友達を紹介したくてたまらない』という無邪気さに満ちていた。


「……成程。ゴーレムが起動した際の状況をお聞きしてもよろしいでしょうか。情報を圧縮し、整理します」


「いいわよ!えっとね……それが、頭を触ったぐらいで……」


進む会話のキャッチボールを目で追いつつ、言葉を挟む余地がなくなったアルスティは二人を観察する。


「(……庇ってくれたのかな……?ティアネ様……)」


真意がわからないまま、セニーナとの会話が区切りを迎えた。


「承知しました。ティアネ様の身に異常が発生しておらず、安心しました。」


腰にさげた剣がテーブルに当たらないよう、セニーナは腰の向きを軽く変える。


「私は本日この後、東門の方に向かいます。有事の際は予定を圧縮した上で戻りますが――」


「もちろん!ありがとう、セニーナ!あ!サンドイッチ食べて?たくさん作ってもらったから余っちゃって」


「ありがとうございます。ですが朝食は既に終え「はいっ♪あ~~ん♪」んむんぐ」


セニーナの整った顔立ちがぷくっと膨らみ、半ば強引にサンドイッチが口内へ放り込まれていく。


「ごくん……。ティアネ様、いつもながら強引ですね」


「ええっ!私以上に食べっぷりがいいし、セニーナは!あ、でも今もう食べたって言った?」


「いえ、ティアネ様の『あーん』でしたら、無限にいただきます」


『罪を追求しそうな騎士』のような冷たい雰囲気から一転。


親しみやすく護ってくれる存在へと、ティアネがガラッとイメージを変えてくれた。


その姿に肩の力が抜け、アルスティもおずおずと会話に参加する。


「あ、あの~~……良かったら、お水もどうぞ……」


「んむんぐ……こくん……。……いただきます」









「すごい、すごいわアルスティ!♪」


「あわわわわ……スミマセン、セニーナさんっ……イルゥニさん……!」


お昼頃。


早速ティアネに連れ出され、こっそり(というには大胆に)付近の扉の解錠を行い、進み続ける。


「ねえ!この調子なら、あと2つぐらいで正門の近くに一気にショートカットできるわ!行けそう?」


「んと、それがですね……さっきから、頭痛が……」


不意の体調不良報告に驚くティアネ。


「ええっ!?大丈夫?!少し休む?」


「だ、大丈夫です。普通に動けると思いま……す!」


アルスティが強がっていることは明らかだった。


「いえ、やっぱり休憩しましょ!ここを開けたら階段、で……」


視線を扉の隙間へやる。だが……何かがおかしい。


「……あれ?階段がないわ……」


「えっ?ま、間違えた……とか?」


前後左右に振り向きながら、ティアネにしては珍しく抑えられた小声で語る。


「いいえっ、そんなハズは……。あれっ……どういうこと?」


気づけばこの廊下……私の部屋の近くの……。


「それって、どういう…… あ、ぅっ……」


「っ!?アルスティ、大丈夫っ!?」



アルスティの突然の体調不良と、謎の『思い違い』。


突如あらわれたふたつのアクシデントに、決断を迫られるティアネであった。




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