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第8話 社宅あり

お城を抜け出すため、百発百中の解錠スキルを持った少女アルスティのチカラが絶対に必要!


そのアルスティから協力を取り付けるため。ティアネが『王家の娘』としてとった行動、それは――



「なるほど……事情は伺えました♪」


両手を体の前で揃え、美しい立ち姿勢で頷くイルゥニ。


「確認しますね♪そちらのアルスティ様を少しの間……私たち使用人にあてがわれる空き部屋に、住まわせてあげてほしい、と」


「ええっ!あ、やっぱりお金とかって必要かしら!?」


金銭のやり取りの経験自体乏しい『お嬢様』であることが伺える質問である。


「いえ♪それ以前にお嬢様。少しよろしいですか?」


微笑みを絶やさず、柔和な雰囲気のままティアネとアルスティを交互に見据える。


「大変申し訳ありませんが……そのお願いを今すぐ叶えるのは難しいかと」


「ええっ!?」


深緑色の髪を静かに揺らし、イルゥニは続ける。


「お嬢様。この国とこのお城が平和を保ってきた理由は……おわかりですよね?」


「え、ええ。悪い人が悪い事をできないように、皆でちゃんと交代で街を見て……あと、すっごく厳しい審査とか…… あっ……」


「くす♪ 『例外』を増やしてしまうと、『予想外の事件』も起きやすくなってしまいます」


オブラートに包んでいるものの、つまりは……


「お……お願いっ!この子は悪いコトなんて考えてないわっ!この国で普通に商売がしたいだけでっ……!」


「あらあらぁ……困りましたねぇ……」


イルゥニは少し眉を八の字にする程度で、本心から余裕が感じられるまま。


時折目を細め、優しく見つめる視線。


普段と同じ表情なのに、ティアネは緊張が隠せない。


「は……初めてできた友達なのっ!友達が困ってるのっ!手を貸してあげたいのっ……!」


また、という顔でティアネを見つめるアルスティ。


「……友達……」


聞こえない程度に、ぽつりとつぶやく。

当のティアネはイルゥニの手を握り、大きな声量で同じ言葉を紡ぎ続ける。


「……えっと……イルゥニ、さんっ……」


「? はい♪」


ぎゅっと拳を握り、アルスティは震える声で伝え始めた。


「スミマセンっ……あたしからも、お願いしますっ!えと、そのっ……そ、そうだ!」


手をあたふたと交差させ、慣れない『プレゼンテーション』へ移行を始める。


「お、お仕事!何かできることがあれば、雑用とかっ!て、手伝いますからっ!え、ええとっあたし、在庫の管理とかっ整理が得意なんですっ!城に入ってきた、備品を、仕分けるとかっ!」


はじめの印象とは大きくかけ離れた声量と勢いで、一息に言い切る。


アルスティなりの誠意と必死な気持ちが、ティアネに呼応する。


「そうよっ!私も一緒に手伝うからっ!メイド服の着方とか教えてっ!」


二人の『子ども』からの熱いお願いが響き続ける。


はじめは少し目を丸くしていたものの、徐々にイルゥニの表情が元の笑みへ戻り……



「……くす……♪そうですか……♪では……お嬢様?」


「うん!なにっ!?」


ティアネに握りしめられていた両手を優しく解き、改めて姿勢を正すイルゥニ。


「結論から申し上げますと……素性が判明していない者を、今すぐ我が城に宿泊させることは難しいです」


「うぐっ……」


「ですが」


イルゥニにしてはわざとらしく、よそ見をしながら明るい声色で続ける。


「使用人が不足してしまったことにより、とあるお仕事に支障が出かねない現状です。それも、早急に……♪」


「たとえば……『大倉庫の管理と、備品整理』に優れた人でもいらっしゃれば……♪」


横目に見ながら、アルスティに向けウインクをしてくれるイルゥニ。


察したティアネとアルスティは、ぐっと飲み込むような表情から、次第に目を輝かせ……


「っ!はいっお願いし「ありがとうイルゥニ!大好きっ!!」」


アルスティのお辞儀を遮断する勢いでイルゥニに抱きつくティアネ。


「ふふっ♪私もすぅ~っごく大好きですよ、お嬢様~♪」








「ほんと~~に!ほんと~~に良かったわねっ!アルスティっ!」


「あっ、は、はい……ていうか、ちょっ……」


夜もふけ、例の空き部屋へ案内された二人。


「さ、さっきのって……ほ、ほほ……本当に、おフロっ……なんですか!?」


「? ええ、そうよ?何言ってるの?」


ティアネの装いはいつもの部屋着に。


アルスティも取り急ぎ、客人対応として貸してもらった着替えに身を包んでいた。


「だ、だだだだって……あんな、おっきくて……水が出るところがたくさんあって……!あったかいお湯がすぐに出てきてっ……」


「?普通のことじゃない!ていうか、やっとまともに喋ってくれるようになったわね♪お風呂に入っていた時、慌ててばっかりだったし!」


普段通り、入浴の時間をイルゥニに提案された二人だったが、圧倒的なスケールで脱衣所から入浴場まで案内されたアルスティにとってはすべてが『怒涛』だった。


「(せっかくたくさん喋ってもらったのに、なんにも頭に入ってこなかったよぉ……!)」


「これからは毎日入っていいからねっ!あ、私も一緒に!いいわよねっ!?」


「ええっ!は、はいっ!それは全然っ!」


同じベッドに腰掛ける。


アルスティは「ぽすん」と何も考えずに座るような動作だが、

ティアネは腰回りの布をしっかり素早く手で揃えてから優雅な仕草で隣に座った。


「(わぁ~~~っティアネ様、さっきよりもすっごくいい匂いっ……!)」


同じ染髪剤や入浴剤に身を包んだため、自身からも同じ香りがすることにも気づく余裕はなく……。


「じゃあいろいろ確認するわよっ!まず私が知ってることを色々話すわ!♪」


「あ、えっと、ティアネ様っ……あ、ティアネ……さ、ん!その前に……少しいいですか」


「どうしたのっ?」


胸の前で手を握り、視線を数度泳がせてからティアネを見つめ、小さな声が発される。


「……さっき……友達って、言ってくれたの……すっごく、嬉しかったです……!」


「あたし、頑張りますから……いろいろ!」


「! ……ええっ!よろしくねっ!」


イルゥニにしたように、激しい勢いで抱きつくアルスティ。


「わひゃあああああっ!」



初めての『お友達』を得て、ティアネの夢のひとつが叶いつつあった。



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