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第7話 商売許可証

ベナイース草。


飲み物として煎じたり、炒め物に使うことで滋養強壮効果を高め……入浴剤として愛用する層もいるほど、民間で幅広く愛されている草。


「そ……そそ、そんな……」


しかし、一部の『特殊な調理、または加工』を施すことで……使用者のステータスを短時間、限界以上に引き上げる強壮剤と化す。


「し……知らなかったよぉ~~~~!!」


その特殊な工程を加えられた『ベナイース薬』には当然デメリットもあった。


身体への負担だけでなく、精神にも異常をきたし……さらには……。


「イルゥニから学んだ授業が役に立ったわ……ああ、うちのメイド長のことね」


「そ、そんな危ない使い方があったなんて……あたしの国だと、そんなの……」


床に手をつき、四つん這いのまま少し涙声になるアルスティ。


日常的に摂取している食品や嗜好品が、隣の国では厳格に禁じられているということは珍しいことではない。


「あれっ?ちょ、ちょっと待ってください。門番の人にもちゃんと確認してもらいましたよ?」


「ほんと?ベナイース草ってことは伝えた?」


「い、いえ。全ての商品を名前で伝える機会はなくて、門番の人が目視で……」


アルスティは顔をあげ、頭上にクエスチョンマークを浮かべる。


「私の国にも、すごく似たような形の草があるのよ」


「……あ……さっき、城の正門近くのお庭にもベナイース草が生えていたような……。王族の方もお気に入りなのかな~、って思ってたんですけど……」


「いえ、お庭に生えているのはほとんどただの野草ね。だからきっと貴方のソレも、『そのあたりの野草を焚き火の素材として使う』ぐらいにしか思われなかったのかしら」


「……も、もし何も知らずにベナイース草として伝えたり……商売道具として宣伝してたら……あ、あ……!」


「ふふっ!危なかったわね!」


ふにゃふにゃと崩れ落ち、ふかふかに手入れされたカーペットにうつ伏せに寝転ぶアルスティ。



「戻しておくわね」と声をかけるティアネ。丁寧な所作で優しく腰の革袋にしまってあげた。



「他にそういう薬草はない?大丈夫?」


真っ当に心配してあげつつ、ふにゃふにゃのアルスティの顔を覗き込もうとするティアネ。


「あ、いえ……みんなが使ってるような水瓶とか、ありふれた素材の日用品ってぐらいで……」


自分の頭の中で確認作業を進めつつ、ふとたどり着きたくない答えを導いてしまう。


「うああああ……でもそれだと、最初の数ヶ月をどう乗り切っていけば……」


ふにゃふにゃ、ふにゃふにゃ。


「この平和なベルハリア王国で落ち着いて商売ができると思って、やっとの思いで着いたのにぃ……!」


ふにゃふにゃ状態から猫のようにうずくまる。


今にもうめき声とともに消えてしまいそうなアルスティの肩を、ティアネがぽんと叩く。


「大丈夫!私に考えがあるわ!」


「……へ……?」


涙と汗で乱れた前髪を整えることもせず、アルスティは再度顔を上げた。


「商売許可証の優先発行も、当面の資金難も、全部私が解決してあげる!安心して!絶対に、確定で!助けてあげるから!」


片手を腰にあて、もう片方の手でガッツポーズを作りながらの宣言。


それを土下座に近い体制で見上げるアルスティ。


「…………???」


頭上に浮かぶクエスチョンマークが3つほど増えてしまった。









「じゃ、じゃあ……えっと……解錠しますね」



アルスティが手をかざす。


先ほど聞こえたような金属音が響き、扉がゆっくりと開かれる。


内側からティアネが施錠した自分の部屋の鍵を、外から簡単に開いてみせたアルスティ。


「やっぱりすごいわ……!こんなに簡単に……!」


見慣れた自分の部屋の扉をまじまじと見つつ、廊下に出てくるティアネ。


「あ、ありがとうございます…えへへ。ちゃんと閉めておきますね」


ぎこちなく頬がゆるみ、かわいらしい少女の笑顔。


褒められ慣れていないのか、まだ不自然なこわばりがある。


「どんな素材の扉も開けられるのっ?」


「えっと、全部試したことはないんですけど……一応、これまで失敗に終わったことはなくて」


「百発百中ってこと!?本当に天才じゃない!」


「そ、そうですか?ぇへへ……」


片手で後頭部をかき、挙動不審な目の動きで照れる。


「(こんなに喜んでもらえるのって、初めてかも……)」


少し口元をもごもごとさせてから続ける。


「そ!それで……その~……実演もできたところで……先ほどのお話の続きをお願いしたいんですが……」


「ええ、そうね!ちょっと待っててね……ん~……」


きょろきょろと長い廊下を見回すティアネ。


アルスティの頭上にクエスチョンマークが出そうになった瞬間……


「イルゥニ~~~~~~っ!どこ~~~~~~~っ?」


「わひゃあっ!?」


小動物のように縮こまり、肩をすくめるアルスティ。


ティアネにとっては『いつもの呼びかけ』のつもりでも、アルスティにとっては大自然の巨大な滝壺のような轟音だった。


「お呼びでしょうか、お嬢様~?♪」


「わひゃぁあああああああっ!?!?」


一切の気配なく、2人の背後にふわりと佇むウェービーロングヘアの女性が応答した。


思わず大自然の滝壺の彷彿とさせる叫び声のアルスティ。


「イルゥニ!紹介するわっ!この子はアルスティ!私の……友達っ!♪」


「えっ!?えっ!?」


「あらあら♪可愛らしいお客人様ですねぇ♪初めまして♪」


「は、はは、はいっ!こんばんはっ!おおっお邪魔してますっ!」


優雅に頭を下げるベテランメイドのイルゥニとは対照的に、激しくぎこちない動きで頭を下げるアルスティ。


少し間をおいてから、横目にゆっくりティアネを見る。


「アルスティは私たちの国に商売をしに来たらしいのっ!それで……」


矢継ぎ早に事情を説明し、まくし立てるティアネ。


それを笑顔で優しく受け止めるイルゥニ。


アルスティの目には、どこか仲の良い姉妹のように映っていた。


「それでね!イルゥニ、この前言っていたわよね!先月、住み込みのメイドがひとり辞めて、空いた部屋があるって!」


「ええ、そうですね。いつ使う機会が来てもいいように私が今朝もお掃除を……」


よし、という表情で素早く頭を下げるティアネ。




「お願いっ!少しの間だけでいいから、そこに泊めてあげてほしいのっ!」




「ぇえええええええっ!?」



ティアネの『相談ナシ・確認ナシ・予告ナシ』全開な提案に面くらい、アルスティはひたすら目を丸くすることしかできなかった。



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