第6話 解錠の【スキル】
「私っ!この城から出たいの!それも!次の煌王祭までに!絶対に!確定で!」
「ごっごごゴメンナサイ意味がわかりません!順番にお願いしますっ!」
ティアネの部屋のソファに座り(座らされ)、向かい合う2人。
連れられるやいなや怒涛の勢いで話しかけられ、ただ謝ることしかできないアルスティ。
「(お、お姫様のお部屋……すっごく広くて、綺麗……)」
「(こんなところ、初めて来た…すっごく、いい匂い……)」
濁流のようなティアネの自己紹介や勧誘を顔面に浴びつつ、アルスティの視線はゆらゆらと視界の端を清流のように泳ぐ。
「聞いてるっ!?もう一回言うわよ!手伝ってほしいのっ!」
「て、てつっ……?!」
「ええ!貴方のその【スキル】、本当にすごいわ!さっき開けたあの部屋、というかあのあたりの扉は全部、厳重に施錠されてたはずなのに……!」
ティアネの疑問を聞き、アルスティは人差し指を頬に添え、思い出すように視線を泳がしつつ答える。
「ああ……確かに、魔力の流れを感じましたね。それも、鍵だけじゃなくて扉全体というか……」
「やっぱり!?私も一回試してみたんだけど、うまくいかなくって……」
「えっと……お姫様も何か、そういうチカラが……?」
「ティアネでいいわよ!いいえ!見様見真似!全然ダメだったの!」
アルスティはおずおずと胸の前で指を組み、前のめりな体勢のティアネから少し距離を取りつつ会話を続ける。
「んっと……あたしの【スキル】、と言っていいのでしょうか。いろんな扉を、すぐに開けることができまして」
「そうよね!?その【スキル】が欲しいのっ!今の私にっ!」
【スキル】……つまりは職人技、職人芸のこと。
眠る才能が開花――または、磨き上げた技術が発展し、昇華された概念。
時には個人ごとに違う魔力を変異させ、操られるその技を……自らの得意分野とし、世渡りに使うために名称をつけ――看板として掲げ、ブランド化する冒険者や商人が多い。
「そ、その……何か、開かない扉がある、とか……でしょうか?」
巷によっては【スキル】を伝授するための施設や、技術が記された書物を探し、旅を続ける者も。
「ええ!アルスティ!貴方に開けてほしいの!」
「は、はい……あたしで良ければ……。カギを開けるコトだけなら、得意ですので……。……でも、その……」
上方を泳いでいた視線がゆっくりと下を向く。
「えと……罪になっちゃうようなコトは避けたくて……」
過去を思い出し、少し胸が締め付けられるようなこわばった表情。
「良ければ理由とか、お伺いしてもよろしいですか?」
影が落ちる表情と上目遣いで見つめる先には、きらめく眼で自信たっぷりに言い放つティアネの姿。
「私がこの城をこっそり抜け出すためよっ!」
「大犯罪じゃないですか!?!?!?!」
満面の笑顔から放たれると思わなかった犯罪教唆にのけぞり、ソファから崩れ落ちるアルスティ。
◆犯罪教唆◆
誰かをそそのかして、
犯罪を実行する決意を抱かせること。
「ひ、姫様を、つまり……えっと……」
「夜中にこっそり、厳重に施錠された鍵を開けまくって……」
「お外に連れ出せ、ってコトですか?」
「ええ!!アルスティ!!貴方に開けてほしいの!!」
「大犯罪じゃないですか!?!?!?!?!?!」
ふたたびソファから崩れ落ちるアルスティ。
ソファの金属部分に軽く頭をぶつけ「にぎゃ!」と声が出る。
「別にアルスティが罪に問われるコトじゃないわ!こっそり抜け出して、こっそり街を見て帰るだけだから!」
「お、お姫様にとっては「ティアネでいいわ!それに、敬語もやめて!貴方、私と同じぐらいでしょう?」
目を輝かせたまま割り込み、アルスティの手を取るティアネ。
ティアネにとってはとても貴重でとても珍しい、同年代の……それも、『国同士の付き合いによる挨拶』ではない……身分差がノイズとならない少女にやっと出会えたのだ。
「う、うう……じゃあ、えっと…………ティアネ…………さん」
「『さん』もいらないわよっ!♪」
ぐっとティアネの手にチカラがこもる。
「そ、そそそれは勘弁してくださいスミマセン!それで、えっと……お、お姫さっ……ティアネ、さん……にとっては『ただの家出』でも……」
手を握ったまま、アルスティはまた視線をそらす。
「あたしは『誘拐犯』になっちゃうので……!」
「そうかしら?じゃあ私があとでお母様とか、みんなにちゃんと説明するから!安心して!」
ノータイムで返されることで、もしかして自分が間違っている?という錯覚に陥ってしまうアルスティであった。
「そ、そぉ言われてもぉ~…………」
せっかく舞い込んできたチャンスと、『友達候補』のひとりを逃したくないティアネ。
ただ同じお願いの言葉を繰り返しても、今のアルスティを説得しきれないと勘付きはじめた。
「んにににに……」
アルスティの手を握ったままうつむき、必死に知恵を絞る。
ふとここで、イルゥニの『授業』を思い出す。
「……ねえアルスティ。商売許可証を発行してもらいに来たって言ってたわよね」
顔をあげるティアネ。
「あ、はい。でもその……受理とか発行まで、すっごく時間がかかるみたいで……」
おずおずと目をあわせるアルスティ。
「それ、私が口利きしてあげる!アルスティがいい人だってことを、私から伝えてあげるの!」
「ええっ!そ、そんなことができ……」
「できるわ!絶対に、確定で!だって私……『お姫様』、だしね♪」
糸口を見つけたと言わんばかりに、ニヤリと笑顔で畳み掛けるティアネ。
もちろん、確証はない。確約もできない。
それどころか、姫をそそのかした不審者として、アルスティは更に厳重なチェックを受けてしまうかもしれない。
でも、『手札』が少ないティアネにとって……まず利用できることは『自分の立場』しかなかった。
「うっ……そ、そうしてくれるとありがたいです……正直に言いますと……滞在中の生活費も、開業資金から切り崩す必要が出てくるし……」
アルスティは視線をそらし、腰にさげた革袋から紙束に巻かれた草を取り出す。
「早くこれを売って、お金に換えなきゃ……本当にギリギリで……」
「? それって……。ねえ、ちょっと見せて」
髪を指に通し耳にかけつつ、受け取った草を見つめるティアネ。
黄色と緑色が混じった色だが、形状は普遍的な雑草と変わらない印象をうける。
「えっと……どうかしました?」
「この草……薬草よね。確か、ベナイース草……」
「そ、そうです♪ご存知だったんですね。滋養強壮薬として有名ですもんね♪おフロのお湯に漬ければ癒し効果も……♪」
ここで初めて、『怯え』以外の表情を見せるアルスティ。
苦労して仕入れた素材なのか、お気に入りの愛用品なのか。
上機嫌に、声にリズムが宿りはじめベナイース草の使用用途を語り始めたところ……
「……これ、うちの国だと……持っているだけで危ないわよ」
「――――え゛っ」
上機嫌に上がった眉だけでなく、アルスティのカラダ全体が凍りついた。




