表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/13

第6話 解錠の【スキル】

「私っ!この城から出たいの!それも!次の煌王祭こうおうさいまでに!絶対に!確定で!」


「ごっごごゴメンナサイ意味がわかりません!順番にお願いしますっ!」


ティアネの部屋のソファに座り(座らされ)、向かい合う2人。


連れられるやいなや怒涛の勢いで話しかけられ、ただ謝ることしかできないアルスティ。


「(お、お姫様のお部屋……すっごく広くて、綺麗……)」


「(こんなところ、初めて来た…すっごく、いい匂い……)」


濁流のようなティアネの自己紹介や勧誘を顔面に浴びつつ、アルスティの視線はゆらゆらと視界の端を清流のように泳ぐ。


「聞いてるっ!?もう一回言うわよ!手伝ってほしいのっ!」


「て、てつっ……?!」


「ええ!貴方のその【スキル】、本当にすごいわ!さっき開けたあの部屋、というかあのあたりの扉は全部、厳重に施錠されてたはずなのに……!」


ティアネの疑問を聞き、アルスティは人差し指を頬に添え、思い出すように視線を泳がしつつ答える。


「ああ……確かに、魔力の流れを感じましたね。それも、鍵だけじゃなくて扉全体というか……」


「やっぱり!?私も一回試してみたんだけど、うまくいかなくって……」


「えっと……お姫様も何か、そういうチカラが……?」


「ティアネでいいわよ!いいえ!見様見真似!全然ダメだったの!」


アルスティはおずおずと胸の前で指を組み、前のめりな体勢のティアネから少し距離を取りつつ会話を続ける。


「んっと……あたしの【スキル】、と言っていいのでしょうか。いろんな扉を、すぐに開けることができまして」


「そうよね!?その【スキル】が欲しいのっ!今の私にっ!」


【スキル】……つまりは職人技、職人芸のこと。


眠る才能が開花――または、磨き上げた技術が発展し、昇華された概念。


時には個人ごとに違う魔力を変異させ、操られるその技を……自らの得意分野とし、世渡りに使うために名称をつけ――看板として掲げ、ブランド化する冒険者や商人が多い。


「そ、その……何か、開かない扉がある、とか……でしょうか?」


巷によっては【スキル】を伝授するための施設や、技術が記された書物を探し、旅を続ける者も。


「ええ!アルスティ!貴方に開けてほしいの!」


「は、はい……あたしで良ければ……。カギを開けるコトだけなら、得意ですので……。……でも、その……」


上方を泳いでいた視線がゆっくりと下を向く。


「えと……罪になっちゃうようなコトは避けたくて……」


過去を思い出し、少し胸が締め付けられるようなこわばった表情。


「良ければ理由とか、お伺いしてもよろしいですか?」


影が落ちる表情と上目遣いで見つめる先には、きらめく眼で自信たっぷりに言い放つティアネの姿。



「私がこの城をこっそり抜け出すためよっ!」


「大犯罪じゃないですか!?!?!?!」



満面の笑顔から放たれると思わなかった犯罪教唆にのけぞり、ソファから崩れ落ちるアルスティ。



犯罪教唆はんざいきょうさ

 誰かをそそのかして、

 犯罪を実行する決意を抱かせること。



「ひ、姫様を、つまり……えっと……」


「夜中にこっそり、厳重に施錠された鍵を開けまくって……」


「お外に連れ出せ、ってコトですか?」


「ええ!!アルスティ!!貴方に開けてほしいの!!」


「大犯罪じゃないですか!?!?!?!?!?!」


ふたたびソファから崩れ落ちるアルスティ。


ソファの金属部分に軽く頭をぶつけ「にぎゃ!」と声が出る。



「別にアルスティが罪に問われるコトじゃないわ!こっそり抜け出して、こっそり街を見て帰るだけだから!」


「お、お姫様にとっては「ティアネでいいわ!それに、敬語もやめて!貴方、私と同じぐらいでしょう?」


目を輝かせたまま割り込み、アルスティの手を取るティアネ。


ティアネにとってはとても貴重でとても珍しい、同年代の……それも、『国同士の付き合いによる挨拶』ではない……身分差がノイズとならない少女にやっと出会えたのだ。


「う、うう……じゃあ、えっと…………ティアネ…………さん」


「『さん』もいらないわよっ!♪」


ぐっとティアネの手にチカラがこもる。


「そ、そそそれは勘弁してくださいスミマセン!それで、えっと……お、お姫さっ……ティアネ、さん……にとっては『ただの家出』でも……」


手を握ったまま、アルスティはまた視線をそらす。


「あたしは『誘拐犯』になっちゃうので……!」


「そうかしら?じゃあ私があとでお母様とか、みんなにちゃんと説明するから!安心して!」


ノータイムで返されることで、もしかして自分が間違っている?という錯覚に陥ってしまうアルスティであった。


「そ、そぉ言われてもぉ~…………」


せっかく舞い込んできたチャンスと、『友達候補』のひとりを逃したくないティアネ。


ただ同じお願いの言葉を繰り返しても、今のアルスティを説得しきれないと勘付きはじめた。


「んにににに……」


アルスティの手を握ったままうつむき、必死に知恵を絞る。



ふとここで、イルゥニの『授業』を思い出す。



「……ねえアルスティ。商売許可証を発行してもらいに来たって言ってたわよね」


顔をあげるティアネ。


「あ、はい。でもその……受理とか発行まで、すっごく時間がかかるみたいで……」


おずおずと目をあわせるアルスティ。


「それ、私が口利きしてあげる!アルスティがいい人だってことを、私から伝えてあげるの!」


「ええっ!そ、そんなことができ……」


「できるわ!絶対に、確定で!だって私……『お姫様』、だしね♪」


糸口を見つけたと言わんばかりに、ニヤリと笑顔で畳み掛けるティアネ。


もちろん、確証はない。確約もできない。


それどころか、姫をそそのかした不審者として、アルスティは更に厳重なチェックを受けてしまうかもしれない。


でも、『手札』が少ないティアネにとって……まず利用できることは『自分の立場』しかなかった。


「うっ……そ、そうしてくれるとありがたいです……正直に言いますと……滞在中の生活費も、開業資金から切り崩す必要が出てくるし……」


アルスティは視線をそらし、腰にさげた革袋から紙束に巻かれた草を取り出す。


「早くこれを売って、お金に換えなきゃ……本当にギリギリで……」


「? それって……。ねえ、ちょっと見せて」


髪を指に通し耳にかけつつ、受け取った草を見つめるティアネ。


黄色と緑色が混じった色だが、形状は普遍的な雑草と変わらない印象をうける。


「えっと……どうかしました?」


「この草……薬草よね。確か、ベナイース草……」


「そ、そうです♪ご存知だったんですね。滋養強壮薬として有名ですもんね♪おフロのお湯に漬ければ癒し効果も……♪」


ここで初めて、『怯え』以外の表情を見せるアルスティ。


苦労して仕入れた素材なのか、お気に入りの愛用品なのか。


上機嫌に、声にリズムが宿りはじめベナイース草の使用用途を語り始めたところ……



「……これ、うちの国だと……持っているだけで危ないわよ」


「――――え゛っ」


上機嫌に上がった眉だけでなく、アルスティのカラダ全体が凍りついた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
今この部屋に犯罪者しかいないw(誘拐教唆、単純所持禁止物品密輸)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ