第5話 【挿絵あり】商人の少女
へこたれない!諦めない!
自身が定めたタイムリミットまで、あと約7日。
先日の疲れなど何も無かったかのように飛び起きたティアネは、いつもの『永遠に感じる長い自由時間』に警備兵ガーディアンゴーレムの観察を始めていた。
「今は大人しくしているけれど……」
城内のゴーレムは主に夜間のみ動き、普段は廊下の端に立ったまま光を灯さず動かない。
「確認するわよ!え〜っと…」
まず、動きは…意外と速かった。
喋らないし、考えたりもしないはず(みたいな感じのことを聞いた気がする)なのに、どうして私のことがわかって、追いかけて来たの?
「まさか目があって、バッチリ見えてるとか……?」
甲冑の頭部に手をかざし、ぽんぽんと無邪気に触れる。
すると、見覚えのある薄緑色の光が不意に灯り始める。
「えっ?うそ、うそうそ!?まだお昼よっ?!」
ティアネの思いもよらぬタイミングで、『追いかけっこ』が再開となった。
「きゃあああああーー!!」
気づけば他のゴーレムも起動しており、呼応するように集まり……
合計で3体の大柄な『追跡者』となってティアネめがけて走り始めた。
「誰かいないの?!か、隠れなきゃっ…!あれっ?!」
大きな廊下を走り抜け、角を曲がった瞬間。
数メートル先には大きな荷車と一人の少女の姿。
「はぇっ?えっ?」
騒音に気づき振り向く少女。
背中を丸め、両手を胸の前で構えた体勢できょろきょろと振り向く。
「ごめんなさいどいてどいてっ!」
「わひゃあっ!なんですか?!」
小動物のように困惑する少女を背に、近くの荷台へ飛び込むティアネ。
「これあなたのかしら?!ちょっと隠れさせて!」
「えっ?!ど、どういうこっ…とでぇええええ誰誰何何?!!?」
ティアネに続けて曲がり角から現れた3体のゴーレム。
勢い良く荷車の方へ突撃してくる事がすぐに理解できた。
「んぶぶぶぶつかっちゃう来ないで!!ど、どうしよっ……っ!」
荷車を引いて向きを変えつつ、少女は後ろを向いて大扉へ手をかざす。
「スミマセンっ緊急事態ってことでっ!」
少し激しめな金属音が響いた後、勢い良く扉が開かれた。
「(えっ?!いま、何が起きたの?!)」
繊細な動きができないゴーレム達は、ティアネを見つけることなくそのまま扉の先へ走り抜けていく。
少女は小さく謝りながら、すぐさま扉を閉める。
物陰から伺うことしかできないが、いま開け放たれた部屋は確か……何かを集める物置だったはず。
それも、しっかりと『施錠』をされた。
――それを、見知らぬ少女がすぐに『解錠』してみせたのだ。
「す……すごぉいっ!どうやったのっ?!」
「わひゃあっ?!スミマセン、ゴメンナサイっ!」
「ねえっ!ねえっ!手伝って!!」
「何が!?そもそもアナタは!?」
ティアネより少し低い程度の背丈だが、過剰な猫背により小柄な印象に映る。
紺色の前髪が瞳にかかっており、人と目を合わせることが得意ではなさそうな印象を醸し出す。
「あっ、自己紹介が遅れたわね!私、ティアネ・エレンディル!この城にずぅう~っと閉じ込められて、もうどうにかなっちゃいそうなの!」
「エレンディル、って……ええっ!!じゃあ、おひっ……お姫様!?すす、スミマセンっ!!」
「どうして謝るの?それよりスゴいじゃないさっきの!」
「ど、どど……どれのコトでしょうか……?」
怯えるように肩をすくめ、縮こまるように姿勢を斜めにする少女。
決して目を合わさず、横に流れてしまった前髪を指でつまみ、瞳の前にカーテンを作るように撫で揃える。
「ゴーレムたちを逃がしたさっきのアレよ!そこの鍵、どうやって開けたの?」
「え、ええっと、うまく言葉にできないんですけど……あたしの唯一の……数少ない得意技、といいますか……」
「そういう【スキル】ってこと!?解錠が得意ってことなの!?あっ名前はなんていうの?ココに何をしにきたの!?この荷車は何が入ってるの!?」
「わひゃあああスミマセンっ!!」
目を輝かせつつ、前のめりに顔を近づけるティアネ。
微笑ましく噛み合わない二人のテンションが、徐々にすり合わせられていく。
「えっと……あ、ま、まずは名前……ですよね。アルスティ・メルミンって……言います」
アルスティと名乗る少女は、指をもじもじと重ねながらうつむき答える。
「このベルハリア王国で商売をしようと思って、許可証を発行してもらうためにお城へ来ました」
「好きな食べ物は何っ!?」
「えっ!こ、コーンレイズ牛の甘辛照り焼きっ…!」
「意外と重めのやつが好きなのね。続けて!」
「さ、さっき受付に行ったんですけど、申請してから発行まで、すっごく時間がかかるらしくて……」
「とりあえず、城下町の宿屋に戻ろうと思ってこの荷物を……と思っていたら……」
「私がぶつかってきたってワケね。得意科目は何っ!?」
今聞くこと!?と疑問を持ちつつも素直に答えてしまう少女、アルスティ。
「えっ!す、すす数学、です多分!ほとんど学校には行けなかったんですけどっ……!」
「ありがとう!貴方……天才よ!とりあえず私の部屋に来てっ!」
「へえっ!?いや、荷物……わひゃあっ!」
アルスティの手を掴み、宙に浮く勢いで部屋に連れ込むティアネ。
嵐のように騒がしく去っていき、アルスティが持ってきた小さな荷車のみがぽつんと廊下に残った。




