第4話 警備兵ガーディアンゴーレム
全部ダメだった。
それはもう華々しく、現状思いつく限りの全てがわずか1日で失敗に終わった。
「……うまく行かないけど、逆にもっと燃えてきたわ……!」
ティアネの甘い目論見はどれも計画性がなかったが、幸か不幸かどこか微笑ましいものばかりだったこともあり……誰にもバレず、『いつもの日常』として過ぎるのみだった。
ティアネにとっては『歯がゆい日常』だが。
「こうなったら、最終手段……!」
引き出しに隠してあった、手のひらサイズの小さな鉄棒を取り出す。
「絵物語で見た解錠シーンの通りにやれば絶対にいけるはず!何回も頭の中で練習したし、余裕よっ!もうこれしかないわっ!」
最後の策。それは……
『堂々とすべての鍵をあけ、静かにこっそりと城下町へ抜け出す』という、およそ一国の姫と思えないストレートに盗人たるものであった。
「よ~し……いくわよ……」
時刻は就寝前。
いつもならおやすみ前のストレッチを済ませ、退屈な日常に不満を抱えつつも眠りにつく頃。
「こっちの扉から進むことができれば……」
城の構造はほぼすべて頭に入っている。
当然よ!生まれ育った場所なんだから!
「(……って、言いたかったんだけど……)」
ティアネが住むこの巨大な城……ベルハリア城は、とにかく規模がすさまじい。
老朽化を感じさせない設備。多くの使用人を寝泊まりさせる部屋数。
人によっては『難攻不落の要塞』。人によっては『平和を体現する住処』。
「(よ~し……このあたりはいつも歩く廊下だからわかりやすいわ……)」
本城だけでも小規模な町並みクラス。自身が足を踏み入れたことのないフロアの方が多く、そんな我が家を独り夜に『出歩く』。
廊下の角からこっそりと顔を出し、月明かりに照らされているところはより繊細に歩く。
外敵の侵入に備えるため開閉できる窓もごく僅かに限られており、
どの窓がどうだったかを記憶できていない以上、今はひとまずこの長い廊下を歩くしかない。
普通であれば盗人らしくひそみ前かがみになっていてもおかしくないところ、どこか舞を見せるかのように優雅な足取りになってしまうティアネであった。
「……えっ……この音、まさか……」
だが突然、異変……異音に気づく。
眼前の廊下の曲がり角からかすかに聴こえる足音。
金属の甲冑と、大きな石が擦れるような人工的な摩擦音。
「(っ!そんな……ガーディアンゴーレム……!?どうして、この時間に……!?)」
ベルハリア王国の各所で幅広く活動する警備兵・ガーディアンゴーレム。
見た目は普通のフルプレートアーマーの兵士だが、甲冑内には魔力を込めた鉱石が詰まっており、高い防御力を誇る。
「(お母様だわ……!お母様が城に戻ってきたから、いつもより数が多くなって……!)」
薄緑色の魔力光をくゆらせ、ゆっくりと背を向けたまま離れていく。
リーヴェをはじめとした一部の人間は鉱石に魔力を込める技術を会得しており、
付与された魔力を動力源としつつ、遠隔で命令を遂行する物言わぬ兵隊として動作させている……らしい。
「(動いているところ、久しぶりに見たわ……いつもこの時間は寝ているから……私……)」
幸いティアネの目的ルートとは逆を行ってくれたため、こっそりと見つからないように歩き続けながら……第一目標の扉に張り付くことができた。
「(急がなきゃ……!見つかったら一発で終わりよね……絶対に、確定で……)」
焦燥からか、指に震えがあり、拙い技術では全く扉を開くことができない。
かちゃ、かちゃと音を立てるだけで、虚しく時間が過ぎてゆく。
「(お、おかしい……!私がヘタってだけじゃ説明がつかないわ!鍵穴から全て、何か……!)」
解錠に意識を回してしまい、周りへの意識を割くことができないティアネ。
ふと、手元が照らされる。
「あら?ありがと……」
薄緑色の、ゆるやかな光で。
「っ……きゃああっ!!」
駆け出すティアネ。
普段は頼りになる甲冑姿も、今のティアネの目には処刑人にしか映らなかった。
「(だ、大丈夫っ!あいつ、動きはそんなに速くないはず!!た、確かっ!!)」
「私、体力には自信があるのよっ!とりあえず一回逃げ切ってから、改めて……!」
“ドドドドドドドド!!”
「(超すっごくめちゃくちゃ元気に走ってきてるじゃないのよぉおおおおおおお!?!?)」
我が家の頼りになる警備兵の新たな一面を知れたところで、
予定を変更し自室に逃げ込むことに成功した。
「はぁああーーっ……!はああーーっ…!あ、汗びしょびしょ……!」
肩で息をするようにすくめ、普段の姿勢よりもずっとだらしない座り方で(でもしっかり裾を押さえ、膝を揃えて)脱力するティアネ。
「もう少し走ってたら、絶対捕まってたわ……!まだ最初の扉で良かった……良くないけど……!」
激しく息切れをしつつ、膝のあたりをぽんぽんと叩きホコリを払う。
「それに、見つかったのがイルゥニとか、他の人だったらもっとマズかったわ」
「お母様に報告されて、こっぴどく怒られて……何か罰があるかも……んににに……」
頬につたう汗の雫を手の甲で拭い、ベッドに仰向けに倒れるティアネ。
いつも綺麗に整えられた髪は乱れに乱れ、先程までの必死さを物語っている。
「……ダメ……私ひとりのチカラじゃ、限界があるわ……」
疲弊していることもあり、珍しく弱気な声色でつぶやくティアネ。
「時間をかければ他にも策が浮かぶかもしれない……けど、もう煌王祭まであと少ししかないわ」
視線は天井を見つめたまま、放り出した拳を握りしめる。
「……協力してくれる人をさがすしかないわね……!」
弱気な声色はすぐに無くなり、次第にその瞳に『灯り』がともる。
「代わりに鍵を開けてくれる人……!ゴーレムを足止めしてくれる人……!仲間を集めなきゃ!絶対に…確定で!」
「……でも、城から出られないとなると……誰に協力を頼めばいいのかしら……」
途方に暮れつつも、疲労に抗えず……
汗だくのまま、ゆっくりと目を閉じていくティアネであった。
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