第35話 答え合わせの授業
ティアネたちが脱走計画を練り、実行に移し、そして脱走に至るまでの数日間。
その時感じていたことや、同時刻に起きていた出来事をイルゥニは共有してくれた。
「まず……あのベルハリア城に込められた、様々な仕掛けを突破できたこと……本当に、おめでとうございます♪」
「ほんっと~~~~~~に大変だったわよ!?!?あのゴーレムとかあのゴーレムとか、あのおっきなゴーレムも全部お母様の魔力だっていうの!?」
「大変な思い出、ゴーレムばっかりですね……」
「どれだけルートを変え、圧縮しても避けられませんでしたからね」
イルゥニはくすりと笑い、手にもった花びらごと両手をあわせいつものポーズで頷く。
「はぁい♪あれらすべて、正真正銘……現在はリーヴェ・エレンディル様おひとりの魔力によって稼働しております~♪設計に協力した方や、築城を担当された方は別にいらっしゃるそうですが……」
「……改めて言われると、スケールが大きすぎて信じられないわね……確か普通、もっと……1人の人間が動かせるモノって……」
授業を思い出そうとする……も、いずれも退屈で身にならないものとティアネが勝手に決めつけていたため、魔力を活用した知識は新鮮に感じられた。
「……もちろん……すぅ~っごく……すぅ~っごく……無理をされておられましたよ」
微笑みを絶やさないものの、珍しく寂しそうな雰囲気を出すイルゥニ。
「おそらくですが、お嬢様が脱走された当日の『ルート』は……それまでと比べ、とてもスムーズに進めたのではありませんか?
ティアネが頷くとともに、アルスティも会話に参加する。
「そ……そうでしたね。何かあったのかな、とは思ってましたけど……」
セニーナが以前より考察していた要素が噛み合い始める。
「……まるで、『別の場所』に魔力を回していたような……という印象でした」
「はい~♪皆様がお使いになった収納庫からのルートは……お察しの通り『非常口』のようなものです。リーヴェ様の身に何かが起きた時や、システムが悪用された際の保険として……」
加えて、そのルートは普段使用しないため……回される魔力によるトラップも少なく。
「そして、この煌王祭を無事……何事もなく、平和に開催できるように……当日は、ほぼ全ての魔力を町中に、広く……深く……」
「……成程……。我々は偶然にも、システムの穴を突けたという事ですね」
「ひぇぇ……ま、町中に、ああいう……ゴーレムを動かしたり、色々するための魔法を敷いてあるってことですよね……それも、ずっと……」
視線を動かすと、城で飽きるほど見たガーディアンゴーレムたちが護衛騎士と連携し、ゆっくりと歩き回っている。
「日中はわたしたち使用人が城を守ることで負担を肩代わりできますが、あの方は夜も……朝も……ずぅっと、わたしたちを……守ってくれているんです……♪」
これ以上なく誇らしげに、尊敬の念を持って微笑む。
娘であるティアネも同様の感情が芽生えるが、それ以前にスケールが大きすぎて。
「えっと……イルゥニも大概よ?いっつも、どこにでもいるし……」
「そうですかぁ~?♪ でも夜は疲れちゃって……毎日すぅ~っごく、ぐっすりですよ♪」
アルスティも一瞬納得しかけたものの、それでは説明つきませんよね?という疑念は拭えなかった。
「えぇっと……ちょっと頭がくらくらしちゃうんですけど、つまり……」
ベルハリア王国中にはリーヴェの魔力が広く根を張っていて。
特に城には大量の魔力が貯蔵されていて、リーヴェが離れていても日中は各施設を、夜は警備のゴーレムを稼働させていて。
すべてはティアネを守るため、侵入者を惑わせるために、あのダンジョンのような構造が出来上がったという考察は見事に当たっていた。
そして、それが的中していたからこそ……荒唐無稽な母の『脳筋施策』におののいてしまう。
「はい♪そして、今朝のお話です。いつもの時間に姿を見せないお嬢様……わたしは真っ先にリーヴェ様に報告へ向かいました。……もう既に色々と、察しておられたみたいですけどね♪」
あとは、ミルキスからも報告があったことを共有してくれた。
『姫様はもう弱くない。町の護衛騎士を信じて、少しだけ見逃してやってくれ』と庇ってくれたらしく、ティアネたちは感謝の声をあげるも……セニーナは少しだけ真剣な表情になった。
「お嬢様のお父上である、ヴェルヒング様の行方がわからなくなってから……リーヴェ様はより強く、『家を守る』ことを意識するようになりました」
行方不明の父という新情報を知り、アルスティは気まずそうにティアネを見る。
「ああ、言ってなかったわね。気にしないで!私がす~っごく小さい頃だったから、あまり記憶に残っていないの。肖像画とかで見ても、いまいち馴染みがなくって」
「リーヴェ様の過保護さも、あの一見無謀とも言える施策をすべて実現できているのは……ひとえに……『母の愛』……でしょう♪」
暗い話にならないよう、温かい表情でティアネにまっすぐ目を向ける。
ティアネもまた、それを歪みなく受け取った上で同じ表情を返す。
「……ええ!それと、先にイルゥニに言っておくわ。……勝手に出ていって、ごめんなさいっ!!」
元気に、まっすぐに。
「……くす……♪お祭りは、楽しかったですか?」
「…………ええっ!すぅ~っごく!♪」
「「楽しすぎておかしくなってしまいそう!♪」」
娘の言葉と全く同じ言葉を母が被せ、大量にラッピングされた包みや花束を抱え戻ってきた。
「わひゃああああリーヴェ様!?どうなってるんですかその持ち方!!」
ありえない角度で包みを重ね、大道芸のようにバランスをとりながらベルハリア王国の代表は感情豊かに声をあげる。
「フ……新記録達成よ。このまま私も広場で大道芸と洒落込みましょうか。手伝ってもらえますよね?アルスティさん♪」
「ぅああたしですかっ!?いやいやいや!!」
ティアネと似た強引さを感じながら一国の代表に対し距離をとる一介の商人。
「あと私、転移魔法の類は実は本当に苦手なの。維持するのすっごくキツいわ♪ふふ♪」
「なんかサラッと自分で言いますね!?!いやいいんですけど!!」
まるで今日の天気の話をするかのように気さくに会話に割り込み、重大な情報を提供してくれる母リーヴェ。
「ふふ。こういうお話はイルゥニに影から伝えてもらえると格好がつくのですが……今もすっごいキツいです。でも余裕よ。『誇り』があるので」
およそ大国ベルハリアの王妃と思えない奇妙なポーズでバランスを取りながらドヤ顔を披露する。
リーヴェが国民から親しまれる理由のひとつを、これまでの体験もあわせ身をもって知ることができた。
「本当に文字通り……身をもって、ですね」とセニーナ。
「ティア。皆さん。積もる話は無限に湧いたり降ったり生えたりしてくるものです。一度置いておくとして……まずはお祭りを楽しみましょう。イルゥニ、じゃあ私は……」
「ああ、そろそろですねぇリーヴェ様~♪どうぞ~♪」
「今年はティアも交えて行ってくるとするわ。もちろん、娘とは思わず他人の振りをしてあげる。あの催しは……真剣勝負だもの」
「え?何が?私も参加していいやつ?」
「当然♪行くわよ!煌王祭名物……『エンチャント・ジャンケン大会』に!!!!!!!」
ティアネの手を掴み、近くの人混みへ割り込むように突っ走り始める。
「えええええええっ!?!何それおもしろそ~~~~!!!!」
叫びながら引っ張られるティアネ見送るアルスティたち。
改めて親子の血を感じつつ、この祭を最も楽しんでいるのはリーヴェ様だ……と確信せずにはいられなかった。
大陸で最も華やかなお祭りは、夜が明けても賑わい続ける――




