第34話 祈りの舞
「……あれ?……夕焼け……?」
時間を忘れて楽しみ続け、気づけば――
「わっ……ほ、ほんとだ……!」
奇抜なファッションショップから出てきたティアネとアルスティは驚愕する。
「う、うそっ……!だ、誰にも見つかってないわよねっ?さ、さすがに、誰か来てもいいぐらいなのにっ……」
「で、ですよね?イルゥニさんがいつものお声で、背中からとか……」
「……確かに。朝の時点で、ベルハリア城は騒ぎになっているはずですが……」
すると、近くで大きな拍手が巻き起こった。
ベルハリア王国城下町の中央大広場。そこに設営された舞台から登壇したのは……
「あっ……お母様……!」
「ぇえっ!リーヴェ様ですか!?」
「うんっ!いっつも煌王祭の時期は、平和を願う舞を披露しているらしいの!その時間が来たってことかしら……」
「……ひとまず、少し高めのところに移動しましょうか。ここからでは、見えてしまう可能性が」
「そうね!あっちに行きましょ!」
リーヴェが開会の挨拶や感謝を述べる中、3人は城下町内の高台へ。
舞台が一望できる景色で、改めてリーヴェへ視線を集中させる。
ティアネが脱走直前の朝に会話した時と同じく、普段よりも優雅できらびやかなドレスを身にまとっていた。
純白の生地に縫い付けられた宝石が夕焼けの光を受け、幻想的に輝いている。
普段の柔和な王妃の雰囲気よりもさらに『希望の灯』であることを体現したかのような、見る者の心を柔らかくする華やかで魅力的な装いだった。
「……このベルハリア王国が、今日も平和を謳歌できているのは……私だけの力ではありません」
魔力で増幅された音響が、城下町中に優しく響く。
「皆さんが平和を尊び、それを維持する心のおかげです。……長い前置きはこれまでとして、今日から数日間、どうか心ゆくまで……お楽しみください♪」
深く一礼した後、柔らかな光の粒子が舞い上がり、夜の訪れを優しく彩り始めた。
「……きれい……」
流麗な動きで、リーヴェが舞いはじめる。
「名前は、確か……」
平和を願う祈りの舞――“ルミナ・エレンディア”。
エレンディル王家の名をもじり、自身が希望の灯でいられるよう祈りを込めた舞。
かつて中庭でティアネに見せてくれた舞よりも、今年は遥かに華やかで、観客を魅了するものだった。
「……お母様……」
時折起こる拍手や歓声に、母が市民から愛されていることをより深く感じる。
城で働く人間から見聞きするだけでは具体的に想像できなかった、母の偉大さ。
彩られた大舞台で見る舞と併せて、心に染み入る。
「……姫様」
感じ入るティアネへ視線を向けるセニーナも、同様に目を細める。
おそらく舞が佳境に入ったであろう頃――
ふと、リーヴェがこちらの高台へ向かって、手を差し伸べ静止した。
傍目にはパフォーマンスや舞の動作の一環としか思えない静かな動きだが――
「……えっ……」
美しく、穏やかな笑顔で。
ティアネは、目があった気がした。
その後に、ウインクをするような目の動き。
いや――絶対に、確定で。
「…………やっぱり…………」
察しが悪い娘でも、すぐに気づくことができた。
母リーヴェは、私が城を抜け出し、祭を堪能していることを……すべて把握していたのだ。
その上で、見逃してくれていた。きっと、どこかから見守ってくれていたのだろう。
今、この瞬間も――
「……もぉ……お母様……どこまで……」
母から愛されている自覚はあった。
その上で、甘えていた。甘えから、我儘もたくさん言った。
そして、人生で最も大きな「ワガママ」を貫いた。
それでもなお――
夕焼けと夜空が混じる幻想的な時間。
3人は静かに、母の舞を最後まで見届けた。
―
「お母様ーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
舞が終わり、まだまだ祭の賑わいが耐えない夜……ステージの裏側。
スカートを軽く抑え見栄えよく、かつとてつもない速さでリーヴェが休憩する陣営に激突してきた愛娘。
「いつから知ってたの全部知ってたのなんで知ってたのどうして知ってたのあれもお母様の仕業だったのどこまで知ってるのっ!!!!」
「あらティアネ♪はいこれ、『ノワード・ベィル』からのお祝い差し入れスイーツよ♪」
「えっやったぁ!!んむんむんむごくんっんむ甘ぁ~~~~~~い♡ねっセニーナもはいっ!」
「えっ本当ですかんむんむんむごくんっ極上の甘さですこれはとても言語化できるものではアルスティさんもどうぞ」
「わひゃっあたしもですかんむんむんむごくんっんむうわぁ甘ぁ~~~~♡って確かに美味しいですけども?!?!」
あまりにも唐突に国の代表と体当たりコンタクトがとれることにも驚く。
「このあとは私も自分の足で煌王祭を楽しむつもりだったもの♪ですがその前に……ふふ」
周囲の兵に目配せし、人払いをする。
祭の喧騒が少しだけ遠くなった状態で、ティアネは改めて疑問を考える――が、先に口を開いたのは、リーヴェだった。
「――本当にごめんね、ティア」
深く頭をさげる母の姿に、考えていた疑問がすべて吹き飛んだ。
「過保護だとは自覚していたけれど、貴方がここまで成長しているとは思わなかったわ。イルゥニや他の皆に感謝しないとね」
「お、お母様……ううん……私も、ごめんなさい!」
「……城を空けることが多いから、貴方がこんなに大きくなっていることにしっかり目を向けることができなかった。私からすると……母親からすれば、いつまでも小さくてかわいい子どもに見えてしまうの」
「…………」
珍しく遮らず言葉を聞く。
半分はこれまでティアネが食らわされた『説得』と全く同じだったが、今回に限ってはまったく意味が違って聞こえたから。
「リーヴェ様、失礼します!イールディンからの皇太子殿下がお見えになっていて……」
突如、近くの護衛兵からの声。
「ああ、すぐに向かいます♪――ごめんね、ティア。あとで必ず戻るから。絶対に、確定で……ね♪」
ティアネの両手を優しく包むように握り、とびっきりの優しい目を向けてから来賓対応に向かった。
「……お母様……んににに……」
質問がお預けになったことに名残り惜しくも、こちらとしても言いたいことはたくさんある。
両手に母のぬくもりを感じていたところ――
「……リーヴェ様は、国民の皆様すべてを守る必要がありましたから……♪」
「……?……えっ、イルゥニ!?」
「わひゃあああああっ!い、イルゥニさん!」
「お嬢様ぁ~♪すぅ~っごく楽しいお祭り、楽しんでおられますか~?」
両手に花びらを持ち、相変わらず温和な雰囲気で現れるメイド長イルゥニ。
「リーヴェ様が戻られるまで、わたしがお付き合いします♪」
ティアネの教育係、アルスティの研修係……そして、セニーナ達護衛騎士と肩を並べる使用人。
ベテランメイドのイルゥニによる、『答え合わせの授業』が始まった。




