第33話 煌王祭当日!
ずっと平和なベルハリア王国がその平和な時代を超絶謳歌するため、ハンパじゃなく盛り上がる催しが考えられまくりでそれはもう四六時中に浮かれ散らかすとんでもなさすぎのスーパーお祭り……煌王祭、当日!
遠方から参加した冒険者曰く、『旅の一番の思い出が何度も更新された』『楽しすぎて逆に死ぬかと思った』『いま自分が地面に立ってるのかどうかもわかんない』『リーヴェ様が空を飛びはじめたあたりで気絶した』等、数々の噂が脚色され、伝説となり他国にまで響かせる。
日は昇り、本格的な祭の始まりを予感させる中――すでにはしゃぎ散らかす、3人の少女。
「わひゃああっ!こ、ここ、この鉱石……『ガラフィライト』じゃないですかっ!?硬度9の、希少鉱石っ……!ここ、こんな手のひらサイズの……!」
「おお、嬢ちゃんいい目してるじゃないか。ははは。もっと見てっていいよ」
「ね、値段っ……高ぁっ!?!?あたしのお仕事とか、靴磨きとか、色んなの足しても……ぜ、絶対にムリ……!」
流浪の商人であるアルスティは、城下町の露店を巡りながら本来の商人らしい品定めに熱中していた。
「せ、セニーナさん見てくださいっ!ここ、これなんか……硬度は低いんですけど、長時間太陽の光にあてることで……」
「あむふんぃはんぉむんむぐ」
「わひゃああああっ!!パンに埋もれてるっ!!」
セニーナは両手いっぱいに焼きたてのパンを胸に抱え、頬張り、もはや表情が伺えない状態になっていた。
「セニーナ~~~っ!あっちの方にあったわよ!『ノワード・ベィル』の“煌王祭特別仕様”っ!これっ!試食もらってきちゃった!」
ティアネが指でつまんでいるものは、ベルハリア王国が誇る超絶ウルトラ行列必至毎日全商品売切御免有名スーパースイーツブランド『ノワード・ベィル』謹製の小さなマカロンだった。
「んむん?んふぐっ!!!!!!」
セニーナがかつぐパンのいくつかを受け取り、すでにハムスターみたいな頬になっている口へねじこむようにマカロンを突っ込んだ。
「せせせセニーナさんっ!?ティアネさんっ!?」
「……ふぐっ……う、ぅうう…… うぐ、ぐふっ……」
「ちょちょっ!セニーナさん、苦しそっ……」
「……ぅうううう…………ぐ……うぅ…ぐすっ……ぐすっ……もぐ………」
「感極まって泣いてるーーーーーーー!!!!!」
苦悶の表情かどうかわからないギリギリの声色だったが、静かに目を閉じ流す涙と、恍惚とした雰囲気ですべてを察した。
誰よりも早く、といった勢いで早朝からお祭りを堪能する3人。
「……でも、その……一応、姫様をお連れしてるんですけど……大丈夫でしょうか。騒ぎになったりとか……」
「んむ、ごくん……そうですね。まず、ティアネ様のお顔は国民の皆様にはほぼ知られていませんから。それに加えて……」
周囲には、様々な服装の観光客。
光を放つようなドレスに身を包む貴族の女性から、おどけるための奇抜な衣装に袖を通し派手なメイクをしている老人まで。
「おそらく、私たちも『遠方から遊びにきた貴族のお姫様と、その従者』程度にしか見えていないはずですんむぐ……」
涙と唾液をひとしきり流したあとで、カステラを頬張りながら分析するセニーナ。
「じゃあ好都合ねっ!もし他の護衛騎士が居たら、隠れましょっ!」
次の瞬間、晴れやかな空に鮮やかな花火が上がった。
「わあっ!すごいっ!」
大きな拍手が起こり、本格的に煌王祭が幕を開けたことを知らせる。
色鮮やかな花火に続き、紙吹雪がどこからともなく舞う。
「……じゃあ、イルゥニたちが捜しに来るまで……いっぱい逃げて、隠れて……!あとで、いっぱい謝るからっ!」
これまでで一番、あどけなく嬉しそうな笑顔を浮かべ……
ティアネの『夢の時間のはじまり』を祝福するように、号砲代わりの花火がひときわ大きく鳴り響いた。
―
「え、この石って……高いの?」
「たたた、高いですよ!!ほら、値札よく見てください!」
「え、ええっ?このサイズで?だって、ガラフィライトでしょ?私の部屋のテーブルとか、これでできてるわよ?」
「……お、王族……!金銭感覚……!天上……!」
「動揺のあまり一部の単語しか口にできなくなっていまふねんむぐ」
ティアネの金銭感覚があらわになるのも、アルスティたちとこうして感覚を擦り合わせることができるのも。
すべて、彼女の頑張りが実を結んだ先のご褒美だった。
空は抜けるように青く、雲一つないおあつらえ向きの快晴。
石畳の道は色とりどりの旗や花飾りで彩られ、魔法を活かしたユニークな見世物があちこちで人だかりを作っている。
「え、ええっ!あの人、火を吹いてますよっ!」
「あ、ねえねえっ!射的っ!私、やってみたいっ!」
「はいよ!1回300ゴールドね」
気前の良さそうな男性に代金を要求される。
「え、あっ……お金がいるのねっ。も、もう私っ……どうしよっ……」
そもそも城の中で生活が完結していたティアネに『金銭』の概念は必要なかった。
いつか成人して国を出るための基礎教育科目として……加えて、お金に触れることの重要さを説いたイルゥニたちによりもたらされた『小さなお小遣い』。
使用用途もなくすべて貯金していたものの、その額はごくわずか。
「ティアネさん!使ってください♪」
笑顔のアルスティが、小銭を詰めた袋を渡す。
「……アルスティ……いいのっ?でも、これっ……」
「ぇへへ……あたし、心配性なんで……ちょっとは貯蓄、ある方なんです。……あと……」
少しもじもじと悩んでから、信頼するようにティアネに伝える。
「……商売許可証、待ってますから……なんて……ぇへへ」
「……っ!……ええっ!用意してみせるわっ!絶対に、確定で!♪」
これまでは準備運動とばかりに、3人は高揚感をヒートアップさせてゆく。
たくさんの見世物を楽しみ、食を楽しみ、景色を楽しみ……
人混みに流されそうになるたび、3人は自然と手を繋いだ。
時折、見知った顔の護衛騎士とすれ違いそうになるも……人混みで隠れ、やり過ごし……笑顔に。
楽しい。
嬉しい!
「……あれっ……」
気づけば、瞳は涙で潤んでいた。
この世界には……それも、こんなに近くに。
これほどまで、心が踊り、胸が高鳴るような場所があるなんて。
「え、ティアネさんっ!?大丈夫ですかっ?お腹、痛いとかっ……」
「う、ううんっ!そうじゃないのっ!……嬉しくて……ふふ……」
声色も表情も、悲壮感の類はなく。
快晴の景色のように晴れやかな笑顔を浮かべるティアネを、セニーナも静かに微笑みながら見つめた。
「あっ見て!す、すごいっ!クレープが浮いてるわっ!」
「っ!!!!!!!!」
「わひゃああああっ!!」
見たこともない速度で体をひねり、新たなスイーツ店に“激突”するセニーナ。
「失礼しますこのクレープは例のもしかすると例のもしや例の『メルフィ・メルファ』でしょうか失礼します3人分お願いできますでしょうかはい3人分なので8個ですはい番号札ですね付近で待機しておきますので」
目を点にしてから、お腹を抱えて笑ってしまう2人。
この時間が、ずぅっと続けばいいのに。




