↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/37

第32話 氷の夜明け

「お前は本当に不器用だな、セニーナ」


かつて何度も言われた言葉を不意に思い出す。


自分が要領良く動けないことは、幼い頃からわかっていた。


体を動かすことよりも、何かを観察したり、学んだり……誰かをサポートすることの方が得意だった。


「まーたアタシの勝ちだ!やっぱ鍛え方が足んねえなァ!」


かつて何度も言われた言葉を唐突に思い出す。


様々な人間から『足りていないもの』を指摘される度、自己嫌悪に陥ることも多かった。



それでも騎士の道を選んだのは、平和な環境で生まれ育ったこの国に恩返しがしたかったから。


さらに王国の護衛騎士なら、もっとわかりやすく役に立つことができる。


不器用な中で、ひとつだけ磨いたのは……守りの技術。


誰かを守り、平和を守り――自分を守るため。



鍛え上げられた技術は、ついに【スキル】として昇華される。


その【スキル】は、いかなる攻撃も防ぎ、立ちはだかる障害を排除する。


その【スキル】は、守るべき国や人のため、氷の結界として具現化される。


美しい形状を為した上で、まさに大盾のように対象を拒絶する。



――その【スキル】の名は……








「なんだァ!?」


突如足元のバランスを狂わされ、ミルキスのパワーも分散する。


「――【ルナシエ・クリスタ】っ!!」


ここぞとばかりに、さらにもう一度【スキル】を詠唱するセニーナ。


鉄壁の防御、【ルナシエ・クリスタ】の重ねがけ――さらに圧力を増したセニーナの突進は、ついにミルキスの抵抗を突破した。


「あッぐ!!」


激しい落下音。不揃いになった石畳の崩壊も含め、砂塵が舞う。


「――私たちの勝ちです。ミルキス」


ミルキスに馬乗りになり、両手を震える足で抑えつけ……セニーナは宣言した。


「…………ッ……!」


ぎり、と歯噛みし様々な思いを巡らせるミルキス。


意外にも早く抵抗をやめ、脱力し……豪快に笑った。


「……くは、あっはっは……すげー……!ムカつくけど、やるじゃねーか……お前らよォ……!」


セニーナに抑えつけられるため、首から上だけをアルスティに向けて叫ぶ。


「新人女ァ!お前の【スキル】だよなァ!?今の!!」


「……は、いっ……!」



煌王祭こうおうさい直前のベルハリア城は、更に魔力を張り巡らせ、警戒が強まっているはず。


通常よりも、さらに――城内だけではなく……正門付近の石床や、果ては草木に至るまで。


地下にまで魔力の『根』が張られていることを確認したセニーナは、事前にアルスティたちへ様々な連携を提案していた。


「……あ、あたしの……【スキル】は……いろんな魔力の動きを、変えて……あ、あと……どんなカギでも、開けられるんですっ!」


慣れない大声を張り上げ、強い意思を示す。


「……カギ……?……ぷっ、あっはっは!そーかそーか!」


すっかり牙を抜かれたのか、次いでティアネに目を向ける。


「姫様もすげーなー。まああのやべえ女にずっとつきっきりで色々教えられてちゃあ……そうもなるわな……」


「……イルゥニのこと?」


「そーだよ。……降参だ、降参!どいてくれセニーナ、もう暴れたりしねーから。つーか相変わらず軽いなーお前」


「……ミルキスが重いだけでしょう」


「あァ?!?さっさとどけっつってんだスイーツバカ!!」


「いえ……そうしたいのは、山々ですが……」


がくがくがくがく……


「力を込めすぎて、逆にもう1ミリも足を動かせません」


「はァ!?!?なんなんだよお前、よッ……」


あっという間に形勢が入れ替わり、何事もなかったかのようにセニーナを押しのけ立ち上がるミルキス。


「おら!」とお尻を叩かれてピンと立つセニーナの姿をみて、ティアネたちの緊張感が徐々にゆるむ。


「よ、っと…… はー……あの時見かけて、まさかとは思ったけどよー……」


「あの時……?」


アルスティが疑問を投げる。


「警備ルートの入れ替えがあってな。この前、夜に姫様の部屋のあたりを歩いてた時だ。お前らの足音が聞こえたんだよ。フツーに挨拶かまそうと思ったが、なーんかコソコソしてて様子がおかしくてな」


「……足音、って……あ……!4人分聞こえた、あの時の……!」


「面白そうだったから泳がせてみたらコレだ。んーで、あれだろ?お前ら、城壁側の武器庫でもめちゃくちゃやったんだろ?違和感があったからこの前直接見に行ったら……お前がいたんだよ、新人女」


「えっ?あの武器庫って、再現された空間じゃなくて……?」


横からのティアネの疑問にも軽快に応じる。


「リーヴェ様の魔法で再現された空間ってのは合ってるな。でもまあ、実際にあの武器庫に備わってた魔力を使ってる、ってのもあるらしい。現実の武器庫はまあ静かなもんだったと思うぜ」


「じゃ、じゃあっ……」


これまで抱いた質問にも、イメージにそぐわない理知的な回答をくれるミルキス。


リーヴェが駆使する転移魔法、創造魔法は……現実のベルハリア城に貯蔵された魔力を媒介として『再現』するような概念らしい。


そのため、転移先のトラップを撃退、突破することで、現実世界のベルハリア城にも影響が出ることがあるらしい。


「えと……ちょっと待ってください。じゃあ……タブン、どころじゃなくて……」


「けっこう……バレ、てる……?私たち……」


ミルキスは腕を組みながら「くっくっく」と笑う。


「大丈夫だって、さすがにそこまではリーヴェ様だって全部把握しきれてねえハズだ。てか、イミわかんねえだろ?こんなでけえ城の全部の出来事を感知できたら人間じゃねえって」


そーいうのを確認するためにアタシら護衛騎士がいるんだ、と続け……ティアネに向けた目を細める。


「それより……早く行ったほうがいいぜ。もう場所によっては夜明けからなんか催し物はじめるぐらい、ガマンできねえ連中がいるんだ。煌王祭は」


「えっ?行っ……て、いいの?」


返事変わりに小さな鍵を取り出し、ティアネに渡す。


「おらよ。通用口のカギだ。さすがにこの時間に堂々と門をあけるワケにはいかねーしな」


ミルキスは体を横に向け、親指で正門の方角を指しながら伝える。


「じゃーな。リーヴェ様とかイルゥニとか、他のヤツらにも色々言っといてやるから安心しろ」


「……ミルキス……!ありがとうっ!大好きっ!」


「うおっ!いや軽いな姫様もっ!!」


飛び上がるように抱きつかれても、全く体幹がブレることなく片腕で受け止める。


「まーでも、どうせすぐに連れ戻されると思うぜ?セニーナも何言われるかわかんねーだろ。だから時間もったいねーし、さっさと行けって」


こちらの立場も慮りつつ、気持ちの良い言葉をくれる。


「……うんっ!じゃあ、行きましょっ!みんな!」


ぺこりと小さく頭を下げたアルスティは、ティアネに続いて小走りで駆け出す。


同様に続くセニーナだが、ふと足を止めてミルキスを見る。


「……ミルキス、貴方は……」


「あーだから時間もったいねーつっただろ?お前も食いたいつってたじゃねーか、アレとか」


少しうんざりした表情で返される。真意を読み取り、受け取る。


「…………ありがとうございます。では」


ミルキスも背を向け、手を軽く上げた。










城門から少し歩いただけで、すでに別世界だった。


まだ夜明け前の薄明るい空の下、ベルハリア王国城下町はすでに活気づき、賑わいを見せている。


「…………う、わ……ぁ……!」


露店の飾り付けをする商人たち……豪華な模様が掘られたランタンをつるす職人……きらびやかな装飾具を床に広げる行商人……占い師だろうか。


微笑みをたたえ、花飾りを結ぶ少女。赤子の朗らかな笑い声。これから始まる祭への期待感を示す、平和な空気。


初めて足を踏み入れる、自身の国の城下町。


あれだけ遠く映った景色の中に、今――自分が居る。


「……すごいっ…… すごい、すごいっ……!」


「ぇへへ……あたしが来た時より、もっとすごくなってますね……」


「はい。私が見聞きしていた情景よりも、はるかに――」


「わひゃああっセニーナさんっよだれよだれ!!」


大瀑布を思わせる勢いで唾液を漏らすセニーナにも無理がなかった。


「ねえっ、あっちの方、すっっっごくいい匂いがするわっ!」


香辛料の刺激的な匂いや、新鮮な魚が蒸される香り……パンを焼き上げる芳ばしい空気。



「あっちも……あっちも、あっちの方もっ!」


次々に目移りする中で、ティアネは確認するようにアルスティたちに声をかける。


「私……本当に、参加できるのねっ!煌王祭にっ!」


「……ええ」


「……はいっ!」




ついにティアネ姫は、ベルハリア城からの『脱走』を――成し遂げた!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
やった!脱出成功!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。